ドラゴン肉
「アレックス様。これなんの肉ですか? やたら上手いんですけど」
守備兵団の若い隊員が私に聞きました。
質問キター!
うにゃり。
私はほくそ笑みました。
「ドラゴンですよ♪ 脂のってて美味しいですよねえ」
「げふッ!!!」
あー勿体ない。
なにしてるんですか。
「な、な、なんつうものを食わせやがるんですか!!!」
チッ!
やはりこの世界にドラゴンを食べる習慣はなかったか……
「だって勿体ないですよー。すっごく栄養豊富なんですから! 味だっていいんですよ!」
私はカレーを焦がしたお母さんのように言いました。
でもドラゴン肉って食べる習慣がある世界では超高級品なんですよ。
「そういう問題じゃねえ!!!」
「お母さんにも言われたでしょ! 出されたもんにケチつけるなって!」
「食えるもんと食えないもんの区別くらいしやがってください!!!」
「味と栄養価は保証します! ちゃんと魔法で分析したんですから!!!」
自慢じゃありませんが、現代という世界において解析能力を極めましたとも!
保健所が怖いので。
大腸菌の個数まで検出できますとも!
「だから問題はそこじゃねえ!!!」
「じゃあ問題ってなんですかー? 問題が発生したのは何時何分何十何秒?」
「わかるかボケェ!」
醜い内容の言い争いをしている私たち。
そしてそれは突然起こりました。
私に怒鳴っていた若い兵士さんが突如として光に包まれました。
同時に「ぴろぴろりーん♪」という電子音っぽい音もしました。
なにがあった?!
なんかバカにされた気分です。
被害妄想気味なのは前世までが虐げられすぎたせいに違いありません。
「え? っちょ! 今のなんですか?」
「俺にもわかりませんよ!!!」
なんだか嫌な予感がしました。
よく見ると若い兵士さんの体が数秒前よりガタイがよくなっているような……
僧帽筋とかモリモリになっています。
「っちょ! うわああああああああああ!」
ブチブチブチ!
兵士さんの皮鎧が弾け飛びました。
服の下からはビルドアップされた肉体が出現しました。
細マッチョですけど。
「えええええええええ!」
「潜在能力の解放だな。こやつは肉体の悪魔だったということだな」
私が驚いているとドラゴン肉を両手に持ったシルヴィアが人ごとのように言いやがりました。
つか音もなく移動して背後をとるな!
怖いでしょが!!!
しかも意味がわからねえ!
「どういう意味? つーか文学的に言っても誰にも伝わりませんからね!!!」
私は一応聞きました。
なんかやな予感がします。
「簡単に言うとだな、『潜在能力、憧れの人間越え』」
「酷え表現。つまりどういう意味ですか?」
「我々には才能の限界がある。お前が魔法を使えず、我が非力なようにな。それが消滅した」
「って、なにそれ……あ! ……召喚魔法のせい……?」
「いいや。お前だったら食べさせていいものかどうかは魔法で分析すればわかるだろ?」
「まあそうですけど……」
「と、いうことは考えられるのは別の原因だろう。この世界に起因することかもな。少なくとも毒ではないな」
「なるほど、ん?」
今度は別の疑問が湧きます。
「……なんで貴女や私にはピコーンがないので?」
「貴様はまだ普通の人間のつもりだったのか……」
シルヴィアが心底呆れたという声を出しました。
え? っちょ!
「……私に何をしやがったんですか?! ねえ、っちょっと!」
「くくく……訓練の中で全身の秘孔という秘孔を打ち抜いて全てのチャクラを解放してくれたわ!!! 普通だったら肉体の変化について行けず、死ぬところだがな。ちゃんと我が鍛えたおかげでぴんぴんしてるわ! わーはっはっは!!!」
「ぬおおおお! なんつーことをしてくれやがったんですか!!!」
私はシルヴィアの頬を両手で引っ張りました。
シルヴィアは負けじと両手に持ったドラゴン肉を私の顔にグリグリと押しつけてきます。
「しみょにょい! おひゃもひょあもおもひょいのにゃー!!! (知ってるぞ! お前も我で魔力増強剤の人体実験をしたのだ!!!)」
「にゃ、にゃほほれほ(な、なぜそれを?!)」
バレてた!!!
ある日、ふと面白半分で最強の魔法使いを作ろうと思いました。
そこでシルヴィアに普通だったら三回くらい死んでる量の劇薬を希釈して少しずつ飲ませたのです。
HPが少なく病弱なシルヴィアの健康を損なわなければ誰に飲ませても安心ですからね。
あ、大丈夫ですよ。
ちゃんとすべてが発覚しないように計算してますからね!
そう、計画は完璧なはずでした。
バレるはずがありませんでしたとも。
でもバレてるー!!!
「にゅふふふふ。はなしゅのにゃ。わにゃだんにょんのにゅうぼしゅにょ(ぐふふふふ。離すのだ。我がダンジョンの中ボスよ)」
「しゅ、しゅにゃにゃないでしゅにゃ。きょのしてんにょうにぇ!(し、しかたないですね。この四天王め!)」
しかたなく、私はシルヴィアを解放しました。
するとシルヴィアは勝ち誇ったツラで言いました。
「くくく。なあに我も面白半分で最強の剣士を作ったわけだ。どうだ? 今回は痛み分けということで」
くッ!
この外道が!!!
私は自分のやったことを完全に棚に上げて心の中だけで抗議します。
「じゃあ、なんで私に魔力が落ちてこないんでしょうか?」
「我も肉体が強くならないのだ。おそらくなにか別の原因があるようだな」
なんだか面倒な展開になってきました。
どうも陰謀の匂いがします。
私が考え込んでいるとシルヴィアが話しかけてきました。
ニヤニヤとした悪い顔で。
「アレックス。ところで……だ。ここには約300人の実験どうぶ……被験者……じゃなくて大事な部下がいる。面白半分に最強の潜在力を持った軍隊を作ってみたいとは思わぬか?」
「今、すんげえクズ発言が出たようですが?」
まったく酷いヤツですね。
こんなクズになっちゃいけませんよ。
ニヤニヤ。
「くくく。我々は領民とエメラルドを守らなくてはならない。……あとはわかるな?」
「ぬはははは! お代官様も悪でございますのう!」
「にゃはははは! 越後屋ぁッ! そちも悪よのう!」
二人とも代官よりもうちょっと偉いような気がしますがこれはお約束です。
細かいことは気にしないでいいのです。
そして私はにっこり笑うと、守備兵団の皆さんの方を向きました。
「皆さーん! 訓練のプランが固まりましたー♪」
このあと全員に無理矢理ドラゴン肉食べさせましたとさ。
皆さんピカーって光って慌ててましたが華麗にスルーです。
私には影響ありませんし。
労働のあとのごはんっておいしいー!




