A定食ともだち
ボクには何もないなんて思う中学2年の下校途中。
「試験難しかったな」
「うん、ボク下から2番目の成績だった……」
友人のカオル君だけが居た。自転車を押しながら商店街の端を歩く。寂れて活気のなくなった商店街にはボクたちを警戒するような視線を感じた。誰もいないけれど、居る。そんな感じの空間だ。
カオル君が鳥みたいに口を尖らせて言う。
「子どもの頃は賑やかだったのにな。みんななくなっちゃってる……」
ボクも周囲を見て同じような感想を述べた。クリスマスにおもちゃを買いに行った記憶や、文房具を買いに出かけた記憶も、気がつけばネット通販の話題に切り替わる。
近くに大きなスーパーができて、みんなそちら側へ流れた。まるで商店街など、始めからなかったかのように『まちの開発』が行われている。
近々、商店街にマンションや戸建てが並ぶらしい。
そんな張り紙やチラシ、風景を見ながら学業のことを語る。高校受験はランクを落としたほうがいいか。それとも無理をして良いところに入って実力を上げるか。
ボクは世の不満を語った。
「大人はキレイ事言うけどさ。結局はこの商店街の様なボクらが邪魔なんだよ」
「え。ぼくたち、この悲しい商店街と同じなの?」
カオル君が目を丸くして応える。ボクは説明するように続けて言った。
「この商店街は言うならば、落ちこぼれさ。優秀なスーパーとの競争に負けた。街の開発は進むけど、ここに居続けることは出来なくて、偏差値の低い学校へと飛ばされる。そんな感じ」
「……えーと、ぼくらは落ちこぼれ、ってこと?」
「うん」
カオル君がボクを見て、ため息をついた。失言だったかもしれない。人間関係で余計なことを言って何度も追放されたことがある。カオル君もまた、ボクの失言に愛想を尽かしたかもしれない。
(変なことを言っちゃった。明日から、イジメられるかな)
カオル君をチラチラ見ていたら、明らかに不機嫌そうに自転車を停めてボクを睨んだ。不味いかも。
「ぼくは成績が悪くても、自分を落ちこぼれだなんて思ったことないし、この商店街も落ちこぼれだなんて思わないね。失礼だよ君は、本当に」
ボクはこの言葉を聞いて初めて、カオル君が怒っていると理解した。だから謝りたい。けれど何に対して怒っているのか分からなかった。
「違うんだよ。ボクはただ、落ちこぼれていった商店街と自分を比べただけで……」
「それがなんか、失礼だって言ってるんだぞ」
「?」
カオル君は諦めが悪い。ボクのような奴にも丁寧な説明をしてくれる。長い口論の末に行き着いた先は、
「落ちこぼれ……という例えが間違ってるんじゃない?」
カオル君の一言だった。
もしかしたらそうかも知れない。携帯で検索する。どうやって言葉を見つけたらいいか分からない。だからそのまま検索する。
【商店街 ボク 救われない】
陽気でフザケた回答が出てきて検索をやめた。もっとこう……適した言葉があるはずだけど、分からない。偏差値が低いと持っている道具も役に立たない。
「ボクからすれば、商店街とボクは似てるんだ。そう感じたんだ」
「うん。それは分かる。強いこだわりを感じる。でも君はもっと等身大で物事を考えたほうがいいよ。あまり頭が良くないからね」
「……むぅ」
カオル君のズバッと言った口先が鋭利な鳥のくちばしに見えた。意地悪なカラスみたいだ。
しばらく会話をしていると、開いてそうな喫茶店が1軒だけあった。自転車を停めて戸を開けると、
「ごめんねぇ5時までなの〜」
と陽気に話すおばさんたちがいた。呑気なもんだなぁと思いつつもその場をあとにする。
ボクは口元に手を当てて納得したように言った。
「変わるって、案外そのままなのかなぁ。あのおばさんたちみたいに、のんびりしたままなのかも知れない」
カオル君がボクの顔を見ながら大きく息を吐いた。コレはわかりやすかった。呆れている。
「好きに言ってろぉ……」
しばらくボクは何度かカオル君に質問しては同じような回答をもらった。疑問が次から次へと湧いてくるから、好きに言っていいと言われるのは大変心地良い。
そのままでいいって、ことかな。
◇
「ねぇ、ぼくから質問していい?」
カオル君が突然言った。もちろん沢山聞いてもらったから断る理由はなかった。
「君はどうしてぼくと友達でいるの?」
「え」
もしかして、嫌われた?
でもなんで突然聞いてきたのだろう。前の友達もそうだ。突然怒り出して……。
「ボクの話を聞いてくれるから」
「それだけ?」
不味い。
このパターンは間違いを言ったかもしれない。カオル君が、今日をもって敵になるかもしれない。
なら。
思ったことを言おう。
「A定食のチキンカツを真ん中から食べるから」
「……それで」
「ボクも真ん中から食べるから、おいしいよね」
カオル君が「わからん」と額に手を当てて汗を拭うような仕草をした。
「君を理解するのは大変だよ……」
「大丈夫。ボクもカオル君のこと全然わからないから」
言ったらカオル君は何もないのにズッコケそうになっていた。自販機でジュースを買う。同じジュースが好きなことが判明した。
◇
ボクは頭が良くないし、人の気持ちや考えもよく分からない。でも、ボクの気持ちを理解してくれようとするカオル君とは今後も一緒にいたい。
そのために、少しずつ。
カオル君のことを理解していこう。そう思う。
最後までお読みくださりありがとうございます。
交友関係って難しいですね。
今どきのドロドロした交友関係に呑まれている方からすれば、この物語はファンタジーかもしれません。でも、コレくらいゆるくて変な主人公が居ても良いんじゃないかな。そんなことを思っています。




