決意
ふっと目の前に見えたリコの姿。
俺は迷わず、その身体を抱きしめた。
「タケル?」
心配そうな声に、はっとした。
無理やり作った笑顔でも、リコは安心したようで。
「俺さ……また時間間違えて……、大人になったリコのところへ行っちゃった」
「え?」
びっくりした顔。
それがまたかわいくて。
「5年後、ぐらいかな。大人っぽくて、色っぽくて……」
「なにそれ。……でも、それって……。今のままのタケルに、また会えるてってこと?」
「ああ、そういうこと」
「そっか……、なんかわくわくするね?」
楽しい想像を思い巡らす姿に、あの日のリコを思い出す。
いつも、いつも。
気になって。
見かけるとその姿を追っていた一人の少女。
駅の改札を出たところで。
何か考えてたのか。
嬉しそうに、ゆっくりと笑って。
次の瞬間には通りすがりのおばさんにぶつかって。
落としたかばんの中身を拾ったあとも。
どこかやっぱり嬉しそうで。
君を見送ったあと。
落ちていた定期。
誘惑に勝てなかった。
初めて知る、名前。
……拾っちゃ、いけなかったのに。
それでも僕たちは。
……出会って。
そして……恋をして。
なんて、遠くに来てしまったんだろう。
このままじゃ、君はこの時間の流れの中から、消えてしまう……。
だから、僕は。
―――――― 君を助ける。
「タケル?」
かわいいリコ。
大好きなリコ。
よく笑って、よく泣いて。
その瞳はいつもくるくると表情をよく変える。
俺を見てる、そのときの表情が。
……一番好きで。
君の過去も。
君の今も。
君の未来も。
……俺が、この手で守ってやりたい。
抱きしめて。
……もう二度と会えないかもしれなくても。
そんなこと。
今は忘れて。
タケルがあたしを抱きしめた。
いつものように優しく?
……いいえ。
苦しいほど強く。
だけど、あたしは。
ものすごく幸せだった。
会えない時間の。
寂しさ。つらさ。
……そしてつきまとう不安。
すべてを溶かして、なくしてくれるから。
今。
今……この瞬間に。
消えてしまうのならかまわない。
この、タケルの腕の中で。
突然やってくるだろう消滅の瞬間も。
……怖くない。
あなたが生きててくれるなら。
こうしてると感じることのできる。
タケルの鼓動に。
生きていることの意味を知ったの。
……愛を……。
あたしは。
タケルと出会うために。
今こうして抱き合うために。
ただ、それだけのために。
……きっと、生まれてきたの。
このまま。
二人が融けて、ひとつになれたらいいのに。
……何もかもを忘れて。
……何にも考えないで。
タケルさえいれば。
……それでいいの……。
タケルは泣いていた。
ただ黙って、涙を流して。
「俺は……」
その表情。
消えていた不安が、息を吹き返す。
つらそうに言葉を紡ぐ唇を。
自分の唇でふさいで。
長い……キスのあと。
「リコ。君を愛してる」
タケルの言葉が。
ゆっくりとあたしの心を包んでいく。
切なくなる、タケルの笑顔が。
あふれた涙にかすんで……。
「あたしも、タケルを愛してる……」
タケルからのキス。
唇と。
額の傷痕に。
そして。
「君を守るから」
……!
タケルが何をしようとしているのか。
その瞬間に。
すべて気づいて。
力いっぱい、身体を……抱きしめた。
「行かないで、お願い……!」
必死になって。
俺の身体を抱き寄せるリコ。
「リコを……守りたい」
そんなふうに首を振っても。
変わらない。
「やだ……やだ……、行かないで」
……ごめんな。
黙って、行けば。
こんなふうに泣かさずにすんだだろうけど。
どうしても。
もう一度会いたかった。
もう一度抱きしめたかった。
もう一度……キスしたかったから。
「大丈夫。……また会えるから」
気休めかもしれない。
「俺にとっては、何もかもが【不確定な未来】なんだ。……まだ何も決まってないんだ、リコ。アイツが……分からないって言ったから。まだ何も決まってない、……そう、だれにもわからない。リコ……、二人で幸せになれる未来を……」
たとえ。
……なにがあっても、リコだけは俺が守るから。
「ほら、笑って」
さっき会った、未来のリコと重なるその泣き顔を。
笑顔に変えるために。
「リコ、……愛してる」




