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タケル  作者: 恵奈
8/13

決意




 ふっと目の前に見えたリコの姿。

 俺は迷わず、その身体を抱きしめた。


「タケル?」


 心配そうな声に、はっとした。

 無理やり作った笑顔でも、リコは安心したようで。


「俺さ……また時間間違えて……、大人になったリコのところへ行っちゃった」

「え?」


 びっくりした顔。

 それがまたかわいくて。


「5年後、ぐらいかな。大人っぽくて、色っぽくて……」

「なにそれ。……でも、それって……。今のままのタケルに、また会えるてってこと?」

「ああ、そういうこと」

「そっか……、なんかわくわくするね?」


 楽しい想像を思い巡らす姿に、あの日のリコを思い出す。

 いつも、いつも。

 気になって。

 見かけるとその姿を追っていた一人の少女。

 駅の改札を出たところで。

 何か考えてたのか。

 嬉しそうに、ゆっくりと笑って。

 次の瞬間には通りすがりのおばさんにぶつかって。

 落としたかばんの中身を拾ったあとも。

 どこかやっぱり嬉しそうで。

 君を見送ったあと。

 落ちていた定期。

 誘惑に勝てなかった。

 初めて知る、名前。

 ……拾っちゃ、いけなかったのに。


 それでも僕たちは。

 ……出会って。

 そして……恋をして。

 なんて、遠くに来てしまったんだろう。

 このままじゃ、君はこの時間の流れの中から、消えてしまう……。


 だから、僕は。

 ―――――― 君を助ける。


「タケル?」


 かわいいリコ。

 大好きなリコ。

 よく笑って、よく泣いて。

 その瞳はいつもくるくると表情をよく変える。

 俺を見てる、そのときの表情が。

 ……一番好きで。


 君の過去も。

 君の今も。

 君の未来も。

 ……俺が、この手で守ってやりたい。

 抱きしめて。

 ……もう二度と会えないかもしれなくても。

 そんなこと。

 今は忘れて。







 タケルがあたしを抱きしめた。

 いつものように優しく?

 ……いいえ。

 苦しいほど強く。

 だけど、あたしは。

 ものすごく幸せだった。

 会えない時間の。

 寂しさ。つらさ。

 ……そしてつきまとう不安。

 すべてを溶かして、なくしてくれるから。


 今。

 今……この瞬間に。


 消えてしまうのならかまわない。

 この、タケルの腕の中で。

 突然やってくるだろう消滅の瞬間も。

 ……怖くない。

 

 あなたが生きててくれるなら。


 こうしてると感じることのできる。

 タケルの鼓動に。

 生きていることの意味を知ったの。

 ……愛を……。


 あたしは。

 タケルと出会うために。

 今こうして抱き合うために。

 ただ、それだけのために。

 ……きっと、生まれてきたの。


 このまま。

 二人が融けて、ひとつになれたらいいのに。

 ……何もかもを忘れて。

 ……何にも考えないで。

 タケルさえいれば。

 ……それでいいの……。


 タケルは泣いていた。

 ただ黙って、涙を流して。


「俺は……」


 その表情。

 消えていた不安が、息を吹き返す。

 つらそうに言葉を紡ぐ唇を。

 自分の唇でふさいで。

 長い……キスのあと。


「リコ。君を愛してる」


 タケルの言葉が。

 ゆっくりとあたしの心を包んでいく。


 切なくなる、タケルの笑顔が。

 あふれた涙にかすんで……。


「あたしも、タケルを愛してる……」


 タケルからのキス。

 唇と。

 額の傷痕に。


 そして。


「君を守るから」


 ……!

 タケルが何をしようとしているのか。

 その瞬間に。

 すべて気づいて。

 力いっぱい、身体を……抱きしめた。








「行かないで、お願い……!」


 必死になって。

 俺の身体を抱き寄せるリコ。


「リコを……守りたい」


 そんなふうに首を振っても。

 変わらない。


「やだ……やだ……、行かないで」


 ……ごめんな。

 黙って、行けば。

 こんなふうに泣かさずにすんだだろうけど。

 どうしても。

 もう一度会いたかった。

 もう一度抱きしめたかった。

 もう一度……キスしたかったから。


「大丈夫。……また会えるから」


 気休めかもしれない。


「俺にとっては、何もかもが【不確定な未来】なんだ。……まだ何も決まってないんだ、リコ。アイツが……分からないって言ったから。まだ何も決まってない、……そう、だれにもわからない。リコ……、二人で幸せになれる未来を……」


 たとえ。

 ……なにがあっても、リコだけは俺が守るから。


「ほら、笑って」


 さっき会った、未来のリコと重なるその泣き顔を。

 笑顔に変えるために。


「リコ、……愛してる」





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