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タケル  作者: 恵奈
6/13

歪み

 



 ―――――― 俺はきっと何かを間違えてる。


 怖くてたまらない。

 なぜ、俺にはこんな力があるのだろう。


 ……自分にある不思議な力に気付いたのは、ずっと幼いころだ。

 コントロールを覚えたのは15歳のとき。

 なるべく、時間の流れに影響を与えないように、と。

「不確定の未来」へと旅を続けて。


 そこで。

 俺は……見つけてしまったんだ。

 ―――――― リコを。


 俺は過去の人間だから。

 見てることしかできない。

 それはわかっていた。

 だから。

 見ていられるだけで。

 それだけでも良かったんだ。


 だけどあの日。

 彼女の落し物を。

 ほうって置けなくて。


「出会って」しまった……。


 近づけば、好きになってしまうと分かっていた。

 だけど、会いたくて。

 どうしようも……なくて。



 ……だから決めたんだ。

 ……もう「俺」は会いに行かない。

 これを最後にする。


 俺を「好きだ」といってくれたリコに、答える為に。

 ……もう一人の「俺」のことを好きになってもらう為に。


 今から5年。

 5年たって、そのとき。

 本当の「俺」で、会いに行くから。

 この気持ちが嘘じゃないことを、俺は知ってる。

 違う時間の人間。

 本当なら出会わなかった俺たちが、こんな風になれるなら。

 同じ時間にいる二人なら。

 5年の月日を隔てても、俺たち二人なら。


 ―――――― きっと大丈夫。


 5歳年をとった俺を見て。

 リコはなんていうかな。


 リコにはなくて、俺にはある5年という時間。


 不安は……あるけど。

 もう一度、好きだと伝える。

 そうしたら、きっと……、大丈夫。


 リコと同じ時間の中に、生きたい……。

 これが最後の時間旅行。




 目を閉じて、時間の流れの中に、心を預ける。

 空間がゆがんで、俺はそこへ身体を投げ出す。

 もう見慣れた、景色と時間の濁流の中。

 手探りで。

 目指す時間と場所へ。

 ……リコを思いながら。


 リコのいる時間の、音が聞こえた。

 その旋律を手にしっかりと握り締めて。

 見つけた。

 ……リコ。

 その姿を見るだけで、愛しさがあふれる。


「!」


 不意に、手の中の旋律がほどけた。

 まただ……。

 前回と同じように。

 リコがめまぐるしく変化していく。

 時間の流れの中で。

 濁流の中にいる俺の視界の中で。


 リコの存在だけが鍵。

 彼女がいるから、俺はそこへたどり着けるはず。 

 指先に触れたその懐かしい旋律を。

 迷わず、ぎゅっと握り締めた。


「……タケル……?」


 たどり着いた未来の中。

 目の前のリコは。

 もう制服を着ていなかった。

 薄く化粧をしていて、どこか大人っぽい。


「リコ……。俺、またしくじったみたいだ。……リコ? 大丈夫? どうしたの?」


 涙をぼろぼろと流して。

 首を何度も横に振って。

 何かを言ってる。

 泣いてるリコをほっとけなくて。

 手を伸ばす。


「リコ……」

「……タケルッ!」


 迷わずに胸に飛び込んでくる彼女を抱きとめて。


 何が彼女をそんなに泣かしているのか、思う。

「不確定の未来」の中。

 突然、俺が来ないままに月日が流れたのだろうか。


 ……おそらく、涙の原因は、俺……。


 もう一度。

 あの時間のリコに会いに行かなければ。


「リコ、……泣かないで」


 額にキスしようとして。

 前髪をあげていることに気付く。


「?……キズが」


 はっとして、リコが身体を離した。

 それでも俺の手をしっかりと握り締めて。

 涙をためた目で俺を見つめた。


「タケル、約束して。自分の時間より過去には、決して行かないって」


 ……俺、リコに会いに……。

 何かが、胸の中に広がる。


「タケル! お願い約束して……!」


 その必死な様子が、不安を押し広げた。

 怖くて。

 思わずリコの手を振り払った。


「タケル……!」


 泣き崩れる、リコの姿……。


「リコに、会いに……」


 意識が、遠のく。

 時の流れの中に、堕ちていくのを感じた。


「タケルーッ!」


 リコの叫び声が遠くなっていくのを、聞いて……いた……。





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