歪み
―――――― 俺はきっと何かを間違えてる。
怖くてたまらない。
なぜ、俺にはこんな力があるのだろう。
……自分にある不思議な力に気付いたのは、ずっと幼いころだ。
コントロールを覚えたのは15歳のとき。
なるべく、時間の流れに影響を与えないように、と。
「不確定の未来」へと旅を続けて。
そこで。
俺は……見つけてしまったんだ。
―――――― リコを。
俺は過去の人間だから。
見てることしかできない。
それはわかっていた。
だから。
見ていられるだけで。
それだけでも良かったんだ。
だけどあの日。
彼女の落し物を。
ほうって置けなくて。
「出会って」しまった……。
近づけば、好きになってしまうと分かっていた。
だけど、会いたくて。
どうしようも……なくて。
……だから決めたんだ。
……もう「俺」は会いに行かない。
これを最後にする。
俺を「好きだ」といってくれたリコに、答える為に。
……もう一人の「俺」のことを好きになってもらう為に。
今から5年。
5年たって、そのとき。
本当の「俺」で、会いに行くから。
この気持ちが嘘じゃないことを、俺は知ってる。
違う時間の人間。
本当なら出会わなかった俺たちが、こんな風になれるなら。
同じ時間にいる二人なら。
5年の月日を隔てても、俺たち二人なら。
―――――― きっと大丈夫。
5歳年をとった俺を見て。
リコはなんていうかな。
リコにはなくて、俺にはある5年という時間。
不安は……あるけど。
もう一度、好きだと伝える。
そうしたら、きっと……、大丈夫。
リコと同じ時間の中に、生きたい……。
これが最後の時間旅行。
目を閉じて、時間の流れの中に、心を預ける。
空間がゆがんで、俺はそこへ身体を投げ出す。
もう見慣れた、景色と時間の濁流の中。
手探りで。
目指す時間と場所へ。
……リコを思いながら。
リコのいる時間の、音が聞こえた。
その旋律を手にしっかりと握り締めて。
見つけた。
……リコ。
その姿を見るだけで、愛しさがあふれる。
「!」
不意に、手の中の旋律がほどけた。
まただ……。
前回と同じように。
リコがめまぐるしく変化していく。
時間の流れの中で。
濁流の中にいる俺の視界の中で。
リコの存在だけが鍵。
彼女がいるから、俺はそこへたどり着けるはず。
指先に触れたその懐かしい旋律を。
迷わず、ぎゅっと握り締めた。
「……タケル……?」
たどり着いた未来の中。
目の前のリコは。
もう制服を着ていなかった。
薄く化粧をしていて、どこか大人っぽい。
「リコ……。俺、またしくじったみたいだ。……リコ? 大丈夫? どうしたの?」
涙をぼろぼろと流して。
首を何度も横に振って。
何かを言ってる。
泣いてるリコをほっとけなくて。
手を伸ばす。
「リコ……」
「……タケルッ!」
迷わずに胸に飛び込んでくる彼女を抱きとめて。
何が彼女をそんなに泣かしているのか、思う。
「不確定の未来」の中。
突然、俺が来ないままに月日が流れたのだろうか。
……おそらく、涙の原因は、俺……。
もう一度。
あの時間のリコに会いに行かなければ。
「リコ、……泣かないで」
額にキスしようとして。
前髪をあげていることに気付く。
「?……キズが」
はっとして、リコが身体を離した。
それでも俺の手をしっかりと握り締めて。
涙をためた目で俺を見つめた。
「タケル、約束して。自分の時間より過去には、決して行かないって」
……俺、リコに会いに……。
何かが、胸の中に広がる。
「タケル! お願い約束して……!」
その必死な様子が、不安を押し広げた。
怖くて。
思わずリコの手を振り払った。
「タケル……!」
泣き崩れる、リコの姿……。
「リコに、会いに……」
意識が、遠のく。
時の流れの中に、堕ちていくのを感じた。
「タケルーッ!」
リコの叫び声が遠くなっていくのを、聞いて……いた……。




