嘘
タケルが私をじっと見ている。
肩を抱かれて。
すぐ、そばにある笑顔。
涙はもう乾いていた。
今日はいつもの公園じゃなくて。
二人で少しだけ歩いて。
高台の海の見える公園のベンチ。
恥ずかしくて、遠くの海を見たりして。
こんなにそばにいるのに。
風が二人の間を通り抜けることにさえ。
不安で……、不安で。
……私たちを引き裂かないで。
そう願う。
消えない不安を、笑顔で消してしまえればいい。
いたずらな風が、私とタケルの髪をなでていった。
「?」
タケルの手が、私の髪をかきあげる。
「!」
その手を振り払って。
前髪を押さえる。
「キズ?」
覗き込むタケルの瞳。
「知らなかった。……いつの?」
「……。ずっと……前……」
「どうして?」
……言えないよ。
私の手をどかして、前髪をかきあげて。
タケルの唇が、そこへ触れた。
「痛かった……よな。俺がそばにいたら、守ってやれた……かな」
涙がこぼれる。
「リコ?」
……助けてくれたわ。
タケル、あなたは私を助けてくれた……。
私の、命を……。
だから。
だからこんな傷だけですんだのよ。
でも、あなたは……。
―――――― 言えない。
「どうした?」
こぼれた涙がタケルの指を伝う。
タケルは、いつ、どうやって私を助けたのだろう。
……いつ、あの時間の中に行ったんだろう。
私が。もし言わなければ。
タケルは……行かないの?
でも……そうしてしまったら、私はどうなるの?
タケルには絶対に言えない。
私を助けて、なんて。
タケルの身体が、真っ赤だったこと、覚えてる。
タケルは……。もしかしたら ―――――― あの時に。
その想像に、眩暈がする。
たとえ、生きていたとしても、あの傷を……あの血を……。
私は知っているの。
だから、……絶対に言わない。
たとえ……。
私が……どうなろうとも。
両腕をタケルの背中に回して。
力いっぱい。
抱きしめて。
「リコ」
優しい声で、私の名前を呼んで。
タケルも私を抱きしめて。
「ケガしたときのこと、思い出した?……ごめんな。……リコのことだから知りたくて」
「あやまらないで。大丈夫……こんな傷、なんてことないんだから。ちっとも、痛くなんかなかった」
頭を何度も、何度も、なぜてくれるタケル。
「だから、タケルは何にも心配しなくていいんだよ……?」
お願い。
神様。
私を世界で一番のうそつきにして。
タケルが何の心配もしなくていいように。
間違っても、あの11年前のあの場所に行かないように。
私は、どうなってもいいから。
タケルが、傷つかないですむなら。
私は。
どうなっても……いいから。
「好きよ、タケル」
タケルを抱きしめる手を。
もう離したくない。




