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タケル  作者: 恵奈
10/13

運命




 一瞬、どこか分からなかった。

 突然時間の流れから放り出されて。


「あーんっ」


 子供泣き声。

 トラックの轟音。

 一瞬手遅れかと凍り付いて。

 振り向くと、そこに。

 幼いリコがいた。


 考えるより先に、身体が動いた。


 道路の真ん中で泣いてる、小さなリコめがけて。

 突っ走る。

 迫り来る大きな車体に。

 愛しいその存在がかき消されてしまわないように。


 ……どうか間に合って……!


 指先に触れた、リコの、小さな身体を。

 ……思い切り…………………………。







 たどり着いた先。

 望んだ時間の中。

 目に飛び込んできたのは。

 もっとも、見たくなかった……。

 ―――――― その瞬間。


 幼い私の身体を突き飛ばしたあと。

 タケルの身体は。


 ……宙に舞った。


 記憶が、入れ替わる。

 助けてくれた「お兄ちゃん」の顔を。

 ……私は、どうしても思い出せなかった。

 地面にたたきつけられたタケルの身体は。

 少年によって、切り取られた時間の中。

 静かに横たわっていた。

 傷ついた、その身体。

 ―――――― 胸が、壊れてしまう。







 ―――――― 何も考えられない。



 激痛が俺の意識を支配する。


 頭の中で、何かが大きな音で鳴って。

 破裂するような痛みの中。



 リコ?

 リコが……泣いてる。


 もう、会えないと思っていた、

 俺の……。

 大きな瞳に、俺を映して。


「タケル……、タケル……っ」


 その声が。

 何度も俺の名を呼んでる。



 ……泣かない……で。



 伸ばした手を。指を。

 血に染まったそれを。







 タケルの指が。

 私の前髪をかき上げて。


「良かった……キズ、なくなってる……」

「……!」

「俺、リコのこと、守れたんだな……」


 そう言って微笑むタケルの額。

 私の傷のあったその同じ場所から、血が溢れてて。


「こんなの……、平気だって言ったじゃない!」


 そんなことの為に、

 タケルは、自分の身をかばわなかったの?


「リコ……良かった……」


 痛々しい笑顔に。

 何も言えなくて。


 ―――――― タケルの愛は。

 タケルの愛はなんて大きいんだろう。


 目を閉じて痛みに耐えるタケルの姿が。

 涙で見えなくなっていく……。




  




 指先の熱が失われていく。

 リコに触れた俺の指が、俺のものじゃなくなっていく感覚。

 リコ、リコ……っ!


 この心を、リコに残していけたらいいのに。

 リコのそばに、いつもいられるように。


 もっと、抱きしめたかった。

 もっといっぱい伝えたい言葉があったんだ。


 もっと。……もっと……。


 愛してると。

 何度でも言いたかった。

 キスをして。

 その身体が折れるぐらい。

 強く……抱きしめて。


 君を……守れて……。

 よ  かっ  た……。



  俺 の時 間……  が

            止ま   る……――――――







「リコ……笑って……?」


 そう言うタケルの身体が、冷たくなっていく。

 手を強く、強く、握って。

 苦しいはずなのに。


 きっと最後の力で、ほほえんで。


 タケルは。

 そのまま、目を閉じた……。


 がくりと、その身体のすべての力を失って。

 タケルの指は、私の手の中から、すべりおちた……。


 もう動かない、タケルの身体。

 きつく。―――――― きつく。

 抱きしめて……。





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