記憶
「きゃあああぁぁぁぁーーーーーーーーっ!」
女性の悲鳴と、タイヤの軋む耳障りな音。
喧騒。
遠くから聞こえるサイレン。
覚えてるのは。
ママの叫ぶ声。
大きなトラック。
身体を抱きしめてる腕。
おでこの痛み。
―――――― そして。
「だいじょうぶか?」
知らないお兄ちゃんの心配そうな顔と声。
「おでこ少し血が出てる。……痛い?」
ふるふる
「そっか、でも血が出てるから、ママにちゃんと見てもらうんだぞ?」
そう言うお兄ちゃんの手が真っ赤だった。血?
お兄ちゃんの方が痛そうだよ?
「あ、痛っ!」
顔をしかめて。でも私には笑顔を向けてくれて。
「ほら、ママが来たぞ?」
大きな手が、私の頭をなでてくれた。
「理子、理子、……だいじょうぶっ!?」
私を抱きしめるママの腕。
うん、大丈夫。でもお兄ちゃんが……。
その人はやさしく私に笑いかけて、それからゆっくりと歩いていった。
足が痛いの?
赤い血がいっぱいついてるよ?
「ママ……、お兄ちゃん、足が痛い?」
「あの、ありがとうございました!!……?」
ママがそこを見たとき。
お兄ちゃんは、もういなかった。
―――――― 今から11年ほど前。
私は交通事故にあった。
長くした前髪の下に隠れている傷は、その時のもの。
車道に飛び出した私は、トラックにはねられる直前、助けられた。
そのときに、ぶつけて出来た傷。
助けてくれたのは、見知らぬ少年。
ママがお礼を言おうとしたときには、もういなかった人。
道路には血がいっぱいだった。
私のじゃない、……血。
おそらく私をかばったその人は、大怪我をしてたと思う。
探しても見つからなかったその人。
事故のときの恐怖は、もう覚えていない。
額の傷の痛みも。
覚えてるのは。
「大丈夫か?」
―――― 知らないお兄ちゃんの心配そうな顔と、声……。




