友の不幸は蜜の味
友情がテーマって難しいな~どんな話にしようかな~と思いながら温泉に入っていた思いつきました。
楽しんでいただけると嬉しいです。
「彼氏が出来た」
高校からの帰りファミレスで友人の美友から報告を受けた友衣は、口にしようとしたポテトをポロリと落とした。
「か、かれしって何だっけ?あの、ご飯に掛かってる奴?」
「それはカレー」
「じゃ、ああああああの、ひらめにそっくりの」
「それは、鰈」
「年を取ることを」
「加齢ね。彼氏よ彼氏」
「あ~なるほど。なるほど………今度はどんな白髪キャラにハマったの?」
「違う違う。ちゃんと存在する人間よ。ほら、クラスの智則」
クラスの陽キャと言われるもの分類される男だ。
「嘘だぁああああああああ!!!」
ギリギリ迷惑にならない声で叫び声をあげた。
「お前、ふざけんなよ!!一生、二人で〇条〇の女でいようって約束したじゃん!何破ってんだよ!!」
「いや、一つ下の男に恋慕を抱き続けるのもどうかなと思って」
「何言ってんだ?あの人、先生だぞ。普通に年上だよ」
「今してるのは次元の話よ」
「次元ぐらいなんだよ!未来の猫型機械人形がいればどうにかなるんだよ!!何諦めてんの?」
「それ、どうにもならないの同義語じゃない」
どんな夢も夢のままだ。
「クッソオオオオオオ!!同じ低みにいると思っていたのにぃいい!裏切者!!何で一緒に泥の中で生きててくれないんだ!!」
周りが恋人を作り、中学の同級生のSNSは彼氏とツーショットであふれている中、二人は、毎週月曜日、ファミレスによって週刊少年誌を読みながらだべっていた。
そのだべっていた内容が、まだ、もう少しキラキラしていたものなら良かったのだが、どのキャラと付き合うかという微妙に情けないものである。
そんな二人は、お互いしてキラキラ青春を若干妬みながらも
『あんな青春とは縁がないようね~』
『〇条悟ぐらいの男じゃないと無理だよ』
『じゃあ、あたし達二人とも一生五〇悟の女でいようね』
なんて会話したのが二週間前。
「舌の根の乾かぬ内に………この野郎」
「というか、私たち友達よね?友達の幸せ喜べないの?」
「どこの世界に友達の幸せを喜ぶ女がいるんだよ」
「おい、全世界の女を敵に回すことを言うんじゃないわよ。そうじゃない人だってたくさんいるんだからね」
「じゃあ、逆に聞くけど、お前に彼氏がいない状態で、私に彼氏がいたらお前、喜んでくれるのか?」
「喜ぶわけないでしょ。友達の幸せ喜んでる暇なんて私にはないもの」
「最低なこと言ってんじゃねーよ、このクソアマ」
結局どちらも同じ穴の狢というわけだ。
「あーあ………畜生………いいなぁ………どうやって付き合うことになったんだよ」
キラキラした青春は捨てている。
恋愛脳どもとバカにもしているが、それはそれ。
やっぱり、羨ましいことこの上ないのだ。
「放課後、呼び出されてそれで告白されてOKしたって感じよ」
「いいなぁ………お前、なんか接点あったの?」
「真面目に授業を聞いてる姿がカッコ良かったんだって」
ちょっと照れながら話す美友。
「なんでだよ!!私だって真面目に授業聞いてるんだぞ!!どうして、私には告白がないんだよ!!」
「そりゃあ、魅力の差よ」
ふふんと胸を張る美友に友衣は納得がいかない。
「魅力って………お前みたいな夢女子がなに言ってんだよ」
「その台詞全部お前に返ってくるからな」
何度でも言うが同じ穴の狢である。
「そんなに言うなら、あんたも告白してみれば?案外簡単に彼氏できるかもよ」
「…………逆に聞くけど、お前が男だったとして、私が告白してきた時付き合えるか?」
「無理ね」
「そういう事だよ。というか、その答えが出てくるくせによくそんな回答が出来るな。なんで?」
「気休めって大事だと思わない?」
「真に受けて告白して、翌日クラスLINEで晒されたらどうするつもりだったんだよ。明日から学校行かなくなっちゃうよ」
「あなたなら、そんな気休め真に受けないでしょ」
美友はそう言いながら、シロップがたっぷりとかかったホットケーキを口運ぶ。
その前に少し切り分けて友衣に差し出す。
「いる?」
「いらない。私、蜂蜜とかシロップとか嫌いだから」
「へぇ?そんなことあるのね」
「まあな。昔クソ不味いのにあたってからトラウマなんだよ」
ポテトをむしゃむしゃと食べながらため息を吐く。
「んなことよりお前、間違っても彼氏の惚気とか話すなよ。不愉快だから………」
「あんた、本当にどす黒いわよね………」
「自分以外の幸せなんて無料ガチャよりも価値がないんだから、絶対に聞かせないで欲しい」
「私たちの元同級生、めちゃくちゃ幸せそうな投稿ばっかしてるけどいいの?」
「嫌に決まってるでしょ。何が楽しくて道に映った二つの影の写真とポエムのハッピーセット見なきゃいけないんだよ。後明言はしてないけどさ、今日はパンケーキとか言ってグラスが二つ分ある写真上げるのもやめて欲しいね。というか、あのSNS達、なんて反応するのが正解なの?おめでとうとかコメントやればいいの?こいつ彼氏いないからおめでとうと言うことしか出来ないおめでとうbotとか思われない?逆に感想を言えばいいのかな?でもなんて感想がいいの?ポエム素敵ですねとかちょっと長いので五七五でまとめてもらってもいいですかとか?それともいっそのこと無視がいいの?」
悶々とキラキラ青春SNSを呪い続ける数少ない友人の姿に美友の頬が引きつる。
「………もうSNSやめれば?」
「嫌だ!!絵師様のイラストが見れなくなるんだぞ!!」
「PI〇IVで我慢しときなさいよ」
「私の推し絵師P〇XIVやってないんだもの」
現代の高校生はSNSと離れられない。
まあ、多数派とは少し理由が違うのだが。
「あ~あ、どこかにいないかな。私に告白してくれてかっこよくて性格も良くて、身長も高くて、陽キャたちが羨ましがるような都合のいい男」
「まるで昨日までも私を見ているようで耐えれられないわ」
「このクソアマ………」
僅差で勝つことの出来た美友から放たれる侮蔑(正当な評価ともいう)
「ま、そんなわけで、お先。あんたにも幸せがくることを祈ってるわよ」
「嘘つくんじゃねぇ!心の中でこれぽっちも思ってないだろ」
「アタリだけど………どうして分かったの?」
「なぜなら、私もそうだからだ」
「「最低」」
そう言って二人はファミレスを後にした。
◇◇◇◇
「あの、俺と付き合わない?」
一週間後、友衣は告白された。
ついに、友衣にも春が来た。これで青春を謳歌することが出来る。
ただし、問題は目の前の男だ。
「………あんた、確か美友の彼氏じゃなかった?」
つい最近この世の春が来たとばかりに浮かれていた、美友の彼氏智則が告白している。
「あれ?あんなの罰ゲームに決まってんじゃん」
友衣の当然の疑問に対して智則は肩をすくめて笑う。
ここ一週間の美友の勝ち誇った顔が浮かんでは消えていく。
(なるほど…………)
完全に弄ばれていたということだ。
どうやら、あの鬱陶しい日々は終わりそうだ。
考え込んでしまった友衣に対し智則は更に言葉を続ける。
「というわけだから、俺と付き合っても問題はない」
「いや、でも、私が美友と気まずくなるし……」
「そんな、友達に遠慮してたら幸せになれないよ」
一理ある。
迷いながら少し考え込む。
告白してくれてかっこよくて、身長も高くて、陽キャたちが羨ましがるような都合のいい男。目の前にいる男はほとんどを満たしてくれていた。
「ふむ………」
彼氏のいる青春が手に入る。
あと一歩だ。
もう二次元のキャラに恋をしなくても充実した生活が手に入る。
「大事にするよ、友衣」
「んー………でも、あいつが泣きそうだな………」
「別にいいだろ?人の不幸は蜜の味だ。割り切っていこうぜ」
「まあ、あいつが幸せそうなのは腹立つしな………」
「だろ?」
「でも、不幸になって欲しいわけじゃねーんだよ」
先ほどまでの迷っていた様子はなりを潜める。
「ああ、返事が必要だったよな」
友衣は、強烈なグーパンを返事にして教室を飛び出した。
◇◇◇◇
一週間後のファミレス。
「お勤めご苦労さまです、姉御」
「やめろ、そのいじり」
「今日は私の奢りです。ムショの冷めた飯よりもいいもの食べていただきたくて」
「ヤメロって言ったよね?話聞いてる?」
友衣は目の前に置かれたシロップのかかっていないホットケーキのバターを広げながらじろりと睨みつける。
あの後、ちょっとした騒ぎになり、先生が仲裁に入り、処理された。
高校生にもなって暴力事件を起こし、先生が間に入って処理されたというのはつまりそういうことだ。
「一週間の謹慎って本当にあるのね」
「まあね」
美友も溜息を吐きながら、ポテトを口に放り込む。
「………結局、罰ゲームだったわけね」
「ああ。お前も、私もな」
要約すると、智則の所属する男女グループの中でじゃんけんをし、一番負けた奴が、クラスの陰キャ二人(友衣と美友)に告白するという遊びをしていたのだ。
そして、二人とも本気だと思ったのである
「お互い恋愛経験のなさが仇となったわね」
「だな。私たち二人とも告白されて舞い上がったし」
「認めたくないけれど………こればっかりはね………」
がっくりと肩を落とす友衣。
「せっかく告白してくれてかっこよくて、身長も高くて、陽キャたちが羨ましがるような都合のいい男だったのにな………残念、性格が悪かった」
思い返しながらいかえホットケーキにフォークを刺す友衣。
そんな友衣を美友は不思議そうに見ている。
「なんだよ」
「私、あんたは二つ返事でOKするものと思ってたわ」
「しないよ。私のことなんだと思ってるんだよ」
「友の不幸は蜜の味が座右の銘な女」
アレだけ怨嗟の言葉を吐き続けたのだ。当然と言ってもいい評価だ。
「お前、本当に私の話聞かねーな」
友衣はそんな美友の評価を鼻で笑う。
「言ったろう?私は蜂蜜やシロップが嫌いなんだよ」
ホットケーキを食いちぎりながらにぃっと笑って答えた。
不幸を願っているわけではありません。まあ、幸せも願っていないんですけどね。
そんなわけで仲がいいんだか、悪いんだかという二人でございました。だれが何と言おうと友情です。
今回は友衣が色々やりましたが、友衣が同じ目に会ったら美友も同じことを必ずやります。
告白の返事は最初ビンタの予定でしたが、「いや、こいつなら絶対グーだな」と思いましてこうなりました。
連載中の魔女っていうな!は上手くいけば今週中に更新します。