旅の途中
【短歌九首】
いくつもの瞼を閉じて貝となる夢
あぶくがポロポロ、弾けて消えて
両手足源流の瞬きの中に今稚魚となって白龍滝へと
脱藩の道にアゲハ舞う黒き袖はためかせたあのひとの風をみる
木の薫する図書館で素足で聴いた鍵盤の言の葉は舟
図書館で隣に座り、本を重ねてゆく時間がただ好きだよ
森の奥へ寝台列車に乗ってゆくカーテンを締めて柔き草原
ドクンドクンときみの鼓動をきいていた朝になるまで、怖くなかった
嘘が好きさときみの言葉はどこまでも寂しくって優しくって
ふたりして旅は道連れと耳元で川のせせらぎ蝉時雨