Ⅴ(5)
「だから頼む! 剣道部に来ないかコナカ君!!」
「はい、ホクホクメロンパンとキリシマ……じゃなかったキリマンジャロっすよ。」
「……何やってんだ?」
俺たちは商店街の一角、【喫茶カミキ】と言う店の扉を開けると真っ先に聞こえた会話に質問する。
厨房服を着た男子『小中 信木』は苦々しくしかめた顔でこちらを向くとやや安堵した表情をした。
「おう悪友、カミキさん今お守り中だから助かったぜ! 早く厨房入りやがれ」
「お、注文は?」
「昼明けだからそこの柱の付箋分だ。」
「わかった。」
といい、鞄をマオに預けて俺は急いで服を着替えにロッカーへ向かった。
「…いやー、ありがとねユウマ。今日の分ノブキも含めて少し弾ませてもらうよ。」
「いいっすよそんなの。今でも十分以上なんですから。」
「あ、じゃあ少し減らしても問題ない?」
「すみません調子こきました、そのままでお願いします。」
と漫才みたいな会話を女店主『上木 リウ』としているなか、しばらくしてラッシュが来てから一緒に仕事してたノブキは現在、片膝つきながら上級生の男子、おそらく剣道部の腕の立つ誰かに勧誘を受けていた。
俺はリウさんのいらぬ計らいで三つそれぞれ味の違うコーヒーとミルクティー、人気の甘め、辛め、塩っぱめ、そして酸っぱめの試作パンを貰って、二枚の盆に乗せてマオとユウカが談笑する席に腰掛ける。
「全く、不良高校生にお熱な先輩は誰だ?」
「さあ?」
「分かんない。」
とやはりと言うべき返答の中に、
「あの人は二年の剣道部特待生だよ。次期部長だったはず」
「……何でいるんだよ」
正四角形と言える机の真正面、ミサがそこに座っていた。
「マオねえについてきた!」
ミサはそういうとニカッと笑う。俺は右隣のマオを見るが、マオも若干困惑していた。
「…まさかさー、少し柔らかめだけど完成したんだよ? まさかその後懐くなんて思わないじゃん。」
「……マオって子供に弱い気がする。」
「あ、それなんかわかる気がする。」
「ちょっと二人とも!!」
と笑っていると、スーッと小さな手が伸びて、パンを掴んだと同時に引っ込めた。
「おい、お前何パン持ってってんだ!!」
「ふふーん! 無防備に置いてるのが悪いんだよ!」
そういうと一口齧り、瞬間クシャッと顔を歪めた。
「…す、っぱい。」
その言葉に、俺とマオは爆笑し、ユウカもクスッと笑った。
「はは! 甘いと思って食ったらそうなるわな!」
そういうと、しれっと甘いメロンパンを取ろうとしていたマオの手を叩き取り上げる。
「うっ、よく分かったね。」
「お前はわかる。……ほら、これとミルクティーで口直ししろバカ。」
と半分に割ったメロンパンと、何故か四つあったコップの一つをミサに渡し、恨めしそーに見ているマオにもう半分を渡す。
二人は同時に食べ、
「「……おいしー!」」
とハモらせて俺は再び爆笑するのだった。
ちなみに酸っぱいのとしょっぱめのは俺が試食し、辛めはいつのまにかユウカが何事もなかったように平らげ、後日その八つのパンは正式に発売するのはまた別の話。
「…で、未だ熱心な次期部長様はなんであんなに熱心?」
ユウカはミサにそう問う。それを答えたのは、
「ああ、多分昔のノブキを知ってるからじゃないかな?」
そう、マオの背後に現れた女子『文坂 綺紀』が答えた。




