Ⅲ(3)
ドヤっとして見せると、意外に周りから歓声が上がった。
だが、もちろん火に油を注いだようなもんなのは承知の上。カスミは口を開こうとした、が今度も静止される。それもハジメでもサトシでもない第三者によって。
「へー、火は本物だー!」
と無邪気に廊下から小走りに近づくや、小さな手が火に触れようとして瞬間的に火を握り消した。
「えー、触らせてよー?手品なんでしょー?」
「…何だこいつ? 高校生にこんな身長のやついたっけか?」
それは間違いなく高校生、いや中学生とも言えない少女だった。
少女はキラキラとした目を向け、袖をグイグイと引っ張り、
「ねえねえ、今のって一万℃は超えてるんだよね? 手のひら焦げないの? 銅を燃やしてもそこまでの色にならないよね! ねえねえ、ねえねえねえ!!」
「マジで何だよこいつ!」
と、バンバン両手を回しながら抱きつこうとするそいつを片手で頭を掴み止め、そこで静かさに気づき再度サラシキをみた。
周りにいた生徒、特にサラシキ達は若干だが顔を青くしているように立ち尽くしている。
そう理解した時、一通りの茶番じみた行動と言わんばかりに幼女は一歩下がると、スッと、到底その年齢でできないと思えるほどに冷たい目でサラシキ達を見た。
「……で、あなた達は何してるんです? まさか初日から問題でも起こそうとしてます?」
「いえ、友好を築くつもりで……その…」
それに応えたのはハジメで、慎重に言葉を選んでいるようだ。
俺が疑問符を浮かべていると、それを察してかヤレヤレ、と言わんばかりにそそっとサトシが近づいてきて耳打ちする。
「あれ、うちの理事長ちゃんだよ。」
「……エイプリルフール?」
「違う違う。…葉坂高校に入学してるやつが何で理事長の経歴知らねーんだよ」
サトシはため息をつく。
そして再度ピリつく空気に目を向けると、ハジメは頑張って弁明して、流石に空気を読んでかサラシキは縮こまっていた。
「…天才少女『葉坂 ミサ』を知らねーとはな。お前気をつけとかねーと速攻退学だって」
「そんな職権濫用しませんッ!!」
と、いつの間にか正面に立った膨れっ面のミサはサトシに怒る。
「もー、あまり大事は起こさないでくださいね。……次は少しお灸を据えますから」
「へ、へい!」
と敬礼してサトシはそそくさと二人のところに向かうのだった。
名前を聞いた地点で、いくつか思い当たることがあり、そのいくつかの点が一本の線を描いた気がした。
「…なるほど、お前がここに推薦した『葉坂ミサ』か。」
「………」
俺はスッとポケットから封筒を出す。それは推薦状であり、送り主には『葉坂ミサ』と書かれていた。
俺は訳あって中学はおろか小学校すら通っていない。そんな俺に名門となりつつある高校から招待が来ることが不思議だったが、
「……なるほどな。お前、さては興味本位だろ?」
「……その心は?」
「クリスマスイベで見た気がするから。」
俺はポケットにしまうと、手を差し出す。
「まあなんだ、俺は平穏な学生生活を目的に来てるからお前が望む何かはないだろうが、それでも利用されてくれるんならよろしくな。」
そうして笑って見せる。それをどう捉えたか、ミサは真顔で俺の目を見ていた。
「…驚きです。大抵知らなかったって人は信じないで小馬鹿にするか、ゴマスリをするもんですが?」
「何だそれ。ちゃんとゴマスリしてたろ?」
「そうじゃなくてぇ! こう、なんていうか、うーん……」
とミサは苦悩に満ちた顔でしゃがんで頭を抱えてしまった。
だがまあ、言いたいことが分かるからか俺はその問いにため息混じりに告げる。
「そりゃあ、『お前に似たやつ』をよーく知ってっからだよ」
そう言い、ミサの頭をクシャクシャっとした。
そう、『何でもできて、自由に生きれて………しかし不自由で退屈そうな女の子』を俺は知っている。
「ゆーうーまー!帰ろー!!」
再度空気を読まずにぶち壊す声に、俺はミサに「ほらね」と肩をすくめて苦笑してみせた。




