7
小中信木、傘木優華、そして煤野麻央。
こうも一挙に集まった集団にワクワクが止まらない。
一度はヒヤッとしたけど、ミサはマオの膝に座りながら、隣でコーヒーを飲むユウマを見る。
『これはタネも仕掛けもございます、一夜限りの魔法ショー!』
『…なんだ? そんなつまんなそうな顔すんなよ。特別にいいものやるからさ。』
「…それ、どう言う物かなんとなく分かってるの?」
と、ミサ以外に聞こえない声量でマオが顎をミサの頭に乗せながら話し出した。
それ、と言うのにミサはふと服の内側からネックレスを引き、小さな透き通る赤い真珠のような丸い宝石を手のひらに乗せる。
「…ほんと、どこの人間の子供でもそこまで賢しくないと思うわ。だから、それが『この世界のものではないこと』も分かってるんでしょ?」
「この世界……じゃあやっぱり、『神隠し事件』って」
それを問おうとしたら、マオに手で口を塞がれた。
「全く、多分子供には玩具の類いで通るなんて考えなしに渡したんでしょうね。大人だったら平穏を望むユウマが隠すはずだもんね。」
「…取り上げるの?」
ノブキとユウマの小競り合いに目がいく周囲に紛れ、マオは少し考えたのち、
「もしもだけどさー」
とマオはミサの顔を覗き込み、
「…ボクが、『異世界の魔王』だったら、君は素直にボクにくれる?」
「……」
それは、今度は本当に怖い瞳だった。きっと彼女はそういう『周りを制する瞳』を日常的に使ってたかのように、そこにスキも偽りも感じさせない純真無垢な【殺意】だった、と思う……。
その瞳に呑まれそうになるけど、ミサは少し目を閉じ、一息つき、再度その怖い瞳を間近で見つめ、
「…ごめん、なさい。これ、は……ダメ。」
と辿々しくなりながら告げる。
数秒の間が恐ろしかった。
命を狙われるのは慣れている。
ミサの知識は常軌を逸している事は自覚してるし、その過程で最初にAIを始めとした機械に手を伸ばし、防衛設備や、未来的独立式のロボットだって作ろうとしている。
金だって必要だからいろんな研究を渡した。投資もした。
だからか、ようやく自己防衛の目処がたったころ、ふと自分の部屋を見回して【孤独】を感じてしまった。
そんな時にいつも笑ってた父もいない。
だから、信じてもいないサンタに、クリスマスに気まぐれに願い、あの日外に出た。
「…あーこれやばい」
マオはガタガタと震える。表情がいまいち読めなくなったからか不安はさらに加速した。
するとユウマが気づいてくれて、ノブキを投げ飛ばし慌てて駆け寄ってきた。
「マオ、何やって––––」
ぎゅうぅぅぅぅぅ……
マオは再び顎を乗せ、抱きしめる。
「……ああ、この子ボクの娘にする〜♪」
彼女は今、どんな表情をしているのだろうか。少なくとも、たまに入ろうとしたユウマが止まり、呆れた表情を向けるような表情なのだけはわかった。
しばらくして再び忙しくなったが夕方にはバイトが終わり、支度を終えたユウマが店を出る直前でふとミサを見る。
「そういやお嬢様って事だよな、お前迎えリムジンとかきたりしないよな?」
「ミサをなんだと思ってるの! まあ、歩いて帰るよ。」
「は? リムジンは冗談だが、流石に5時過ぎだし親か執事とか迎えくるだろ?」
「……ないよ。パパ、死んじゃったし、ママ知らないし…………他人は信じてないけどミサが作った機械は信じれるからこの街の防犯カメラから少しでもおかしなことが起こればロボかミサイルで助けてくれるから大丈夫。」
そう、誰も、信じられない。
唯一の存在はいないし、自立するためと頑張り有名人になってしまったから、だからこその弊害で時に狙われ、金が積まれれば使用人すら駒にされ裏切られる……だから。
少し顎に手を当て考えた後、ユウマは再度ミサの目を見て、
「…じゃあウチこいよ。ちょっと帰りに飯買ってくけど、歩くの面倒なら筋トレがわりに背負ってやるし。」
「…え、と」
悩んだ。少しの時間だった、初めて会った人にミサは、そこまで信じられるか考えた。
不安になっていた。ミサはそう感じた時、自分がここまで出てきてまだ信じてないんだと、そんな自分に呆れて、嫌悪してしまう。
だけど……声にしたいのに出来ない。行きたいと、まだ一緒にいたいと、そんな矛盾の解答を。
「まーあー、無駄だし諦めよ?」
背後からマオがユウマにそう口にした時、ミサは絶望に近い感情を感じた。けど、次に肩を掴まれた。
「ムダムダー。どんなやつ来てもボク負けないし。ほら、諦めてボクらと帰ろうかー!」
と押されて店を出た。
マオのことを全部知ってるわけじゃないのに謎に説得力があったのもある。だけど、それ以上にマオに、ユウマに引かれて外に出たこの日は…………
研究とか観察とかではない、心から喜べた気がした。