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猫魔女と弟子と魔法の世界  作者: 月輪林檎
立派な魔法使いへ

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【葬送】とお正月

 師匠が亡くなると、身体は人から猫に戻っていった。猫に戻った師匠を、冷音さんが抱える。


「では、水琴さん、気を付けて連れて行ってあげて下さい」

「あ、はい……」


 冷音さんから師匠を受け取ると、師匠は力なく横たえたままだった。まるで眠っているようにも見えるのに、その目は二度と開かない。また涙が出て来る。その涙を茜さんがハンカチで拭ってくれた。


「終わったようだな」


 師匠を抱えて立ち上がるのと同時に、白がやってきた。周囲を見回して警戒していたけど、ヤツデの姿も形もない事を確認したからか、すぐに警戒を解いた。


「アリスは逝ったか。最後に話せたか?」

「うん……」

「なら、良かったな」


 白は微笑みながら、私の頭を撫でる。身体は年下なのに、こういうところは年上って感じがする。実際に、私よりも遙かに年上ではあるのだけど。


「全員怪我は大丈夫か?」

「治療は済ませています。水琴ちゃんが、少しフラつくかもしれないという程度です」

「そうか。なら、この場でしておくか」

「何を?」

「アリスの火葬だ。表に帰ったら、色々とやらないといけない事が多くなるからな。それに、早く送ってやりたいだろう」


 そう言って、白は祭壇のようなものを作り出す。お葬式とかでは見た事がないから、魔法使い式の火葬って事かな。


「台座に乗せてくれ」

「うん……」


 師匠を台座に乗せる。それを確認した白が手を二回鳴らしてから、手を組む。


「【葬送(そうそう)】」


 台座の上の師匠が虹色の火に包まれる。思わず、師匠を助け出そうと手を伸ばしてしまう。でも、その私を茜さんが後ろから抱きしめた。今しているのは、師匠を貶すような事じゃない。師匠が安らかに次の人生を歩めるように送り出す神聖なものだ。

 何故、神聖なものと思ったのかと言うと、魔法を使っている白の姿が、まるで祈りを捧げているように見えるからだ。

 師匠の身体は、一気に灰へと変わる。そして、その灰が小さな入れ物と中くらいの入れ物に分けて入れられた。それと同時に火も消える。


「これで終わりだ。あっさりとしたものだろう。昔は、これが出来るだけでも良い事と言われていたものだ」


 私に教えてくれながら、白が中くらいの入れ物に入った遺灰を私に渡す。そして、小さい方の入れ物に何か魔術的なものを施してから、入れ物の蓋に紐を通して、私の首に掛けてくれた。


「蓋が外れないようにしておいた。そっちの方は墓に入れてやれ」

「うん。ありがとう」


 ネックレスを掛けておけば、師匠とずっと一緒にいられる。人によっては引いたりするかもだけど、私は白の気遣いが嬉しかった。師匠と一緒にいたいという私の気持ちを汲んでくれたのだから。


「さて、私はここで表に戻る。お前達は、塔まで行ってから戻れ。学校の方はしばらく任せるぞ」

「はい。白の君もお気を付けて」


 白は門を作って表に戻ろうとしてから、一度止まり、私の方に近づくと頬にキスをした。


「またな」

「うん。学校で待ってる」


 白は私に微笑んでから、表に戻っていった。白を見送った後、私は師匠の遺灰を慎重に収納魔法に仕舞ってから、茜さん達の方を振り返る。そして、その直後に意識を失った。ここまでの戦闘の負担と全てが終わった事による安堵で、一気に疲れが出たみたい。


────────────────────


 次に目を覚ました時、私は茜さんの家にある自室のベッドにいた。差し込む光から、朝だという事が分かる。隣に茜さんがいないという事は、今も何かをしているのかな。茜さんがいない事を確認した後、身体を起こして、周囲に師匠がいないか見回した。


(いない……師匠も何年後かって言ってたもんね……そんなすぐに帰ってくるわけないか……)


 私はベッドの上で膝を抱えながら、しばらく涙を流した。師匠を想って泣くのは、これを最後にする。師匠だって、ずっと私が泣いている事を好まないだろうし。ちゃんと前に進まないといけないからだ。


「水琴ちゃ~ん……」


 私を呼ぶ小さい声が聞こえて顔を上げる。すると、扉の隙間から、こちらを覗いている茜さんと目が合った。


「あっ、起きてたみたいだね。良かった」


 私を起こさないように、わざと小さく声を掛けたみたい。私が起きているのを確認すると、普段通りの声量に戻って、私の傍に来た。


「すみません。ご心配お掛けしました」

「本当だよぉ。今日で一週間だよぉ」

「えっ……そんなに寝ていたんですか?」


 てっきり一日くらいだと思っていた。一週間も寝込むような事態になるとは思いもしなかった。


「うん。ちょっと失礼」


 茜さんが、私にキスをする。十秒くらいで口を離して、少し考え始める。


「う~ん……微妙だなぁ……」


 絶対に違うと思うけど、キスをした後にそんな事を言うので、私の唇に文句があるのかと考えてしまう。


「私の身体に何かあるんですか?」


 絶対に検査だという事は分かるので確認を含めて訊く。


「うん。髪の毛が全部白くなっちゃったのは知ってるよねぇ?」

「はい。師匠が言っていましたから。あっ……! 師匠は?」


 師匠の遺灰が入ったネックレスを掛けていない事に気付き、茜さんに訊く。


「ん? そっちのサイドテーブルにいるよぉ。ずっと掛けっぱなしもアレだなぁって思ったからねぇ」


 茜さんが指さす方向にちゃんといたので、自分の首に掛けておく。それを見てから、茜さんが続きを話してくれる。


「そんなすぐに戻るとも思えなかったけど、毛根近くの髪もずっと真っ白だから、色々と調べてたんだぁ。一番に考えられる理由は、魔力の急激な増加。今調べたけど、ヤツデの魔力を吸収したせいで、また魔力が膨れ上がってる。もう私達よりも多いね。普通の人が魔力増加で成長出来る限界を軽く超えてるかなぁ。魔力の制御は出来るかな?」

「身体強化なら普通に使えますし、調整も出来てます」


 軽くベッドを叩いても急にベッドが壊れるという事はない。ちゃんと壊れないだけの強化量に調整出来ている証拠だ。


「まぁ、師匠も水琴ちゃんは魔力操作が上手いって言ってたから、このくらいは出来るのかなぁ。白ちゃんがいてくれればなぁ」

「白は、まだ戻ってないんですか?」

「うん。今は、色々と動き回ってるよぉ。ヤツデの封印が解かれた時に、小型のヤツデが大量に出現したみたいでねぇ。日本中大騒ぎだったらしいんだぁ。何とか被害は抑えられたみたいだけど、本格的に魔法の存在を全世界に知らせて、魔法学校の門を大きく広げるみたいだねぇ。その打ち合わせのために、他の魔法学校に行ってる感じだねぇ」

「そうなんですか……」


 白への返事は、まだお預けになりそうだ。


「取り敢えず、水琴ちゃんは、しばらくお休みねぇ。一週間も寝たままだったんだから、少しずつ身体を動かしておいてぇ。メイちゃんにご飯も運んで貰うからぁ。ちゃんと食べないと駄目だよぉ」

「はい」


 茜さんは私の頭を撫でると、部屋を出て行った。少し身体を起こしたままにしていたけど、ちょっと怠くなってベッドに背中を預けた。それからメイさんが部屋にご飯を運んでくれた。固形物がなかったけど、一週間も何も食べていなかった訳だし、最初はこれからって感じなのだと思う。

 その日は、軽く歩き回ってから、ゆっくりと休んだ。その翌日。部屋に寧音と蒼がやってきた。


「水琴?」

「?」

「寧音、蒼、いらっしゃい」


 二人とも私を見て、一瞬戸惑ったみたい。まぁ、私の髪を見たら驚くのも無理はないかな。二人ともベッドに近づいて私の事をジロジロと見ていた。


「真っ白じゃん」

「ストレス?」

「ううん。魔力が異常に増えたからかもって。正確なところは分からないみたい。二人は怪我とかなかった?」

「腕が折れたくらい」

「私は、そこまで大怪我はしてない。ずっと蒼の援護ばかりだったから」


 寧音は、少し後ろめたそうにそう言った。二人の戦いを私は知らないから、その後ろめたさがどこから来るのか分からない。


「気にしない。寧音がいなかったら、何回か死んでる」

「そうなの?」

「ん。寧音の援護は的確。適材適所が出来た。前衛が怪我をするのは当たり前。それに、人を殺せないのは当たり前。殺せる方がおかしい」


 蒼の話を聞いて、二人がどうやって戦っていたのか分かった。そして、寧音が後ろめたく思っている事の正体も。


「うん。私も蒼に同意かな。寧音のそういう考えは大事だと思う。人としてあるべき姿だとともね。蒼も気にしていないみたいだし」

「ん」


 私達がそう言うと、寧音はちょっと無理に笑った。まぁ、こればかりは、寧音がどう向き合うかって感じだから、これ以上は踏み込まない。


「そういえば、二人は小型のヤツデとは戦ったの? 日本中が大騒ぎって聞いたけど」

「戦ったよ。学校にも出現したし、近くにも現れたしね。学校周辺に現れた小型のヤツデに関しては、先生の指揮の下で討伐していった感じかな。被害ゼロとはいかなかったけど、うちのクラスからは、重傷者くらいしか出てないよ」

「重傷者は出たんだ……」

「ん。でも、もう治った。魔法は優秀」

「あぁ……まぁ、美玲さんもいるしね」


 美玲さんが戻って来た時に、まだ息をしていれば、ほぼ確実に助かる。美玲さんの腕は、そのくらい良いから。


「それじゃあ、死者は出てないの?」

「うちのクラスからはね。先生が何人かと生徒の一部も亡くなった。私達は運が良かったってだけだと思う。突然、消えていったから。後から分かったけど、ヤツデが討伐されたのと同じタイミングで、小型のヤツデ達も消えたみたい」

「あぁ、なるほどね」


 師匠が救った命が沢山ある。それを知ると、ちょっとだけ誇らしい気持ちになった。


「そういえば、なんで水琴の魔力が増えたの?」

「あぁ……簡単に言うとヤツデの魔力を吸収したからかな」


 私がそう言うと、二人はきょとんとした顔になった。いきなり化物の魔力を奪ったという話をしてもすぐに理解出来るわけもない。なので、私は裏世界で何があったのかを二人に説明していった。


「……そうなんだ。お師匠さんが……」

「水琴、大丈夫?」


 蒼が心配そうにそう言うと、寧音を同じような表情でこっちを見ていた。その二人に微笑みで返す。


「うん。もう大丈夫。ちゃんと受け入れてるし、十分な程涙は流したから。そうじゃないと、師匠に怒られるだろうしね。それに、何年かしたら会えるから」

「あっ、そっか。転生するんだっけ」

「そう。別れは別れだから寂しいし悲しいけどね。そういえば、学校はどうなったの?」


 崩壊してからの学校は一度も見ていないので、復興しているのかも分からない。


「大分直ってるけど、まだ完全ではない感じかな。机とか椅子がないし。先生が言うには、一月の後半くらいが授業再開になるかなってさ」

「そうなんだ。あっ、そういえば、今日って正月だっけ? 日付感覚がなくてさ」

「ん。正月。あけましておめでとう」

「おめでとう。今年もよろしくお願いします」

「よろしくお願いします。ドタバタの新年だけどね」

「まぁ、世界にとって激動の年になるかもね」


 魔法と魔術が世界に解放される。そんな年の始まり。初めて家族以外と過ごすお正月。全くお正月らしさはなかった。でも、こうして友達と話す事が出来る日常に戻れたのは、本当に良かったな。

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