突破口
転移した直後、ヤツデの叫び声が聞こえる。同時に、何発もの魔法が着弾する音も聞こえてきた。
『グガアアアアアアアアアアア!! ガイウウウウウウ!!』
やっぱり何かを喋っているように聞こえる。
そして、ヤツデの手が私達に向かって伸びてくる。その手の進路に、白が結界を張って防ぐ。
「私に執着しているようだな。私が囮になる。攻撃を加えろ」
白が私達から離れるのと同時に、ヤツデの腕が白の方に向かっていく。
「何で白を!?」
「それは、全部が終わった後で教えるわ。今は、戦いに集中しなさい」
「うん。【流星雨】」
私は、さっきも使った『流星雨』をヤツデにお見舞いする。ヤツデは、白に伸ばしていた手を引っ込めて、流星雨の方に向ける。さっきの攻撃で学んだのか、今度は『流星雨』の巨岩を手の口で食べていた。
「何でも食べるの!?」
「好き嫌いはいけないわよ?」
「岩に栄養はないと思う……」
軽口を叩きながら、今度は『石弾』を遠慮無しに撃つ。『流星雨』の巨岩の一部を受けて唸っているヤツデに鋭く尖った『石弾』が飛んでいく。それに対してヤツデは、空いている手の口から奇声を上げて、『石弾』を砕いた。
「何あれ?」
「音による破壊ね。生物には効かないわ。不快な音くらいで終わるわね。一発ずつじゃ、奇声で壊されるわよ」
「でも、『流星雨』ばかり撃っていても効果は薄いでしょ?」
「そうね。なら、壊されても無駄なくらいでかいのをお見舞いすれば良いのよ」
「大きいの……」
師匠のアイデアを考えていると、ヤツデの腕が一本、こっちに向かって伸びてきた。考えるのを一旦止めて、その腕から逃げる。そんな他にある地面に着けている四本を除き、二本が白に向かっていて、もう一本は全く別の方向に伸びている。多分、冷音さん達の方向だ。
その方向に伸びている腕が、一気に凍り付いた。茜さんかな。よく氷系の魔法を使っていたから。それを見て、私も一つ思い付いた事があった。
「大きなものを自然物で考えすぎてた」
「良いわね。その調子でイメージを固めなさい。右から来るわよ!」
「っ!」
私に向かってくるヤツデの手を避けて、その二の腕部分(?)に向かって魔力弾を撃つ。一切遠慮しないで撃った魔力弾は、ヤツデの腕を軽く吹っ飛ばした。その間に、更に上空に飛ぶ。
「高度には気を付けなさい。ただの人間だという事は忘れちゃ駄目よ」
「うん。高山病は大丈夫。後は空気だよね?」
「そうよ」
空に行けば行く程空気は薄くなる。それを意識はする。ある程度距離を稼いだら、下を向く。
「【氷塔】」
空中に氷の塔を作りだし、ヤツデに向かって落とす。魔法として放ったので、ある程度の初速を持ち、自由落下で加速する。ヤツデは、冷音さん達に向けていた手を戻して、二本の手で『氷塔』を掴み取る。
そんなヤツデの真横から、異常な大きさの石の槍が突き出てくる。その石の槍は、ヤツデの身体を貫いた。
「やった!」
「いえ、まだよ」
大ダメージを与えたと思って喜んだ私を、師匠は否定した。
ヤツデは、掴み取った『氷塔』を放り捨てると、自分の身体に突き刺さった石の槍を抜いた。大量の血が飛び散るけど、ヤツデの身体はすぐに治っていた。
「クライトンも持っていた再生能力を、魔力の本来の持ち主が持っていないわけないでしょう? あれが、ヤツデを倒せなかった理由よ。なり損ないでも困ったでしょう?」
「うん……あれって、魔力によるもの?」
「そうよ。下!」
師匠の警告で、真横に飛んでヤツデの手を避ける。私を追い掛けてくるので、地上すれすれまで下りて逃げ続ける。
「魔力がなくなったら?」
「あの巨体で、魔力量が少ないと思う? 魔力を使い切らせる前に私達の魔力が切れるわよ」
「でも、魔力がなくなったら、再生はしなくなるんだよね?」
「そうね。その可能性が高いわ……って、まさかだけど、ヤツデから直接魔力を吸収するつもり? 止めなさい。クライトンの時に成功したのは、ヤツデの魔力の断片だったからよ。本体から吸収して無事に済むとは限らないわ」
「元々無事で帰られるとは思ってないよ。それに、可能性があるのなら、やってみる価値はあるでしょ?」
私がそう言うと、師匠は黙り込む。師匠からしたら、私を無事に帰したいはず。でも、私の意見も完全に否定は出来ないのだと思う。
私は、ヤツデの魔力を吸収して自分の魔力と融合させる事が出来る。それはクライトンだけではなく、自分の体内でも実証済みだ。それを考えると、ヤツデの魔力を吸収して枯渇させる手助けにはなるかもしれない。
普通の方法で無理なのなら、普通じゃない方法でどうにかするしかない。何事も王道ばかりで上手くいくとは限らないものだ。
「ジル達と合流するわよ」
「うん」
返事はされなかったけど、それを急かすような状況でもないので、指示通り茜さん達がいる場所に向かうために、まずはヤツデの手を撒く。森の中に入り、ヤツデの手が木々に阻まれて動きが鈍っているうちに距離を取る。速度は落ちているけど、木々を薙ぎ倒しているので、結構怖かった。
何とか手から距離を取れて、しばらくしたところで茜さん達を見つけた。
「茜さん!」
「水琴ちゃん、師匠。二人とも無事で良かったよぉ。上から攻撃してたのは、二人だよね?」
「はい」
今思えば、『流星雨』は茜さん達がいる時に使うべきものではなかったかもしれない。ちょっと反省だ。
「聞きなさい。水琴の体質を利用して、ヤツデの魔力を奪うという作戦を水琴が提案したわ」
「危険では?」
師匠が説明した直後に、冷音さんがそう言った。茜さんや美玲さんも少し心配そうな表情になっている。皆、危険だという風に考えているみたい。
「そうね。私もそう思うわ。でも、普通に戦い続けて勝つ見込みがないのも事実よ」
「……必要なのは、水琴さんが安全に魔力を奪える環境を作る事ですね」
「じゃあ、まずは腕を落とすところから始めるのが良いかも。魔力の強奪が始まったら再生にいくらか影響するかもしれないし」
「命があれば、私が絶対に元に戻すから。でも、だからって怪我をしても言い訳じゃないから」
「はい」
作戦は決まった。私達は、即座に行動に移す。今も白が囮を買って出てくれているのだから、当たり前だ。
私は、師匠をポンチョに入れたまま、再び空を飛ぶ。ヤツデは、私に気付いて手を伸ばしてくる。手のひらで口を大きく開いている私を食べる気満々だ。
その腕に対して、冷音さんが何かを投げ、その何かを貫くように魔法を撃つ。すると、ヤツデの腕に無数の切り傷が付く。ヤツデが苦悶の声を上げる。
「何あれ?」
「触れた魔法の威力を上げる道具みたいね。それでも切断には至らないわ。あれは、私達が捕まらないようにするための牽制よ」
冷音さんは、色々な道具を使いながら戦うタイプなのかな。
(ああいうのも、ちゃんと学んでみたいな。ここで死んでなんかいられないや)
生きる意志を強く持ち、茜さん達が作ってくれる隙を待つ。
冷音さんがどんどん切り傷を増やしていく。それを煩わしく思ったのか、ヤツデの手が冷音さんの元にも伸ばされる。それが冷音さんを襲う前に、強烈な冷気がヤツデの身体を這っていった。地面に接している箇所と冷音さんの元に伸ばされていた指の先から凍り付いていく。ヤツデは、煩わしそうに身体に纏わり付く氷を剥がそうとしていたけど、上手く出来ないみたいだ。もしかしたら、内部まで凍結が進んでいるのかな。
「行きなさい」
「うん!」
師匠の合図で、急降下してヤツデに向かっていく。私に向かって伸ばされていた手をバレルロールのような動きで避けつつ腕に触れる。
「【吸魔】!」
ヤツデの荒々しい魔力が身体に入り込んでくる。
「んぐっ……」
一瞬全身を突き刺すような痛みが走ったけど、それを乗り越えれば、どんどんと魔力を吸収出来る。ヤツデの魔力は、私の中で独立する事なく、どんどんと融合されていく。
「水琴、大丈夫?」
「う……うん。だい……じょうぶ……!」
突き刺すような痛みは終わったけど、身体中でジンジンとした痛みが続いていた。でも、これくらいなら我慢出来る。腕を触ったまま降下していき、ヤツデの身体に着地する。それと同時に、ヤツデの下から極太の石の杭が複数出て来て、ヤツデの腕の根元に突き刺さり、引き千切った。
「同時にこれだけの魔法を……成長したわね」
多分美玲さんの魔法かな。師匠は弟子の成長を垣間見られて嬉しいみたいだ。
『ギヤアアアアアアアアアアア!! アアアアアアアアアアア!!』
ヤツデの叫び声が響き渡る。鼓膜が破れるのではと心配になる程の声量だ。その中で、両手だけじゃなくて足も付けて四肢から魔力を吸収する。入ってくる量が一気に増えて、身体が痛むけど、そこは我慢だ。
深呼吸しながら『吸魔』をしていると、私の魔力が抜けていく感覚がした。ヤツデに奪われているわけじゃない。感覚の先にいるのは師匠だったから。
「師匠……?」
「結構キツいわね。水琴の魔力を私が貰うわ。急激な魔力の増加で起こる痛みが減るはずよ」
師匠が私の魔力を吸収する事で、私がヤツデの魔力を吸収する容量を確保するという事らしい。このままでも私の魔力が増えていくだけだと思うけど、それに伴う痛みが減るというメリットがあるので、ちょっと助かる。
この間も、ヤツデの身体はどんどんと傷つけられている。腕の根元には白が結界を張り、無理矢理再生を止めていた。あらゆる箇所での再生と私が魔力を奪っている事もあり、ヤツデの魔力は急速に減っているはず。
この間、ヤツデも無抵抗だったわけじゃない。のたうち回って、私を振り落とそうとした。それを白が更に張った結界のようなもので地面に縛り着けた。腕が無い状態なら、これも振りほどけないらしい。
このまま上手くいけば、魔力を吸いきって再生を許さずに倒す事が出来るはずだ。




