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猫魔女と弟子と魔法の世界  作者: 月輪林檎
立派な魔法使いへ

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ヤツデ

 師匠に知識を詰め込まれたせいで、ズキズキとする頭を美玲さんが少しずつ治してくれる。冷音さんと並びながら癒してくれているので、二人とも器用に速度を合せている事になる。その中で、私は一つ気になった事があった。


「ねぇ、師匠。白がヤツデを転移させるなら、もうやってない?」

「……そうね。ビビ。予定地点は?」

「もう見えてきますが、ヤツデの姿はありません」

「向こうでトラブルが起こっているようね……ビビ、水琴を放しなさい」

「えっ!?」

「はい」

「ええっ!?」


 冗談かと思ったら、本当に冷音さんが私を放した。


「きゃあああああ!!」

「【開門(オープン)】」


 目の前に門が出来て、そのまま表世界へと転移する。転移した先は、変わらず空中だった。


「叫んでないで飛びなさい!」

「【飛行】!」


 落ちていた私の身体が止まる。『飛行』が正常に働いている証拠だ。


「ふぅ……怖かった……」

「全く……大事なのはイメージよ。魔法の種類は粗方伝えたわ。後は大丈夫ね?」

「うん」


 師匠が魔法で伝授してくれた魔法は、自由に使う事は出来ない。そもそも手に入れたのは、その魔法に関する知識。知識があるからと言って、必ずしも魔法が使えるとは限らない。大事なのはイメージ。それが出来るか出来ないかが重要だ。

 それを心に刻みつけていると、大気を震わす程の叫び声がした。


『グオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!』

「うわっ!? 何!?」

「水琴、あっちよ!」


 師匠が前脚を指す方向。そこには、異形の化物がいた。モンスター学の授業で、西宮先生が描いていたのと全く同じ姿。人間の上半身に手が八つも生えた化物。髪の毛はなく、頭頂部には目があり、本来顔がある場所に大きな口がある。

 そして、それは異常な巨体だった。富士山の半分くらいはあるかな。ヤツデは、腕を伸ばしているけど、その途中で腕が止まる。どうやら結界に閉じ込められているようだった。

 それに加えて、周囲に小さいヤツデが出て来ている。それも一体や二体じゃない。十はいるように見える。


「ヤツデって、あんな感じで沢山生み出すの?」

「あれは新しく身に着けたものね。前は、あんなものなかったもの」


 そのヤツデ達には、魔法使いと銃を持った人が戦っている。本当に防衛に力を貸してくれているみたい。


「銃でも倒せるんだよね?」

「あの小さなヤツデなら倒せるわ。実際、魔法使い達との連携で、上手くやっているわ」


 師匠の言うとおり、小さなヤツデ相手に一歩も引いていない。


「私達は、白の君の元まで向かうわよ」

「うん!」


 空を飛んで結界を張っている白の元に向かう。師匠からの知識のおかげで、白の魔力を追えるので、すぐに見つける事が出来た。


「白!」

「水琴……?」


 白は、一瞬私が私だと分からなかったみたい。理由は簡単だ。私の髪が変わっているから。でも、そこについて訊く程、今の状況は良くない。すぐに白もそう判断したのか、私のポンチョにいる師匠を見た。


「アリスか。水琴を連れてきてどういうつもりだ?」

「水琴自身が志願した事です。何が起きても水琴も覚悟の上でしょう。水琴自身、ヤツデには思うところがあるでしょうから」

「……そうか。現状、ヤツデを追い込めない。奴の足元に門を形成しようとしたが、すぐに避けられた。あいつを押し込めるだけの攻撃力が欲しい」

「水琴。今の貴方なら出来るわ」

「えっ!? 私がやるの!?」


 こっちに手を伸ばしてきているヤツデを追い込むための攻撃を私が担うという話に驚きが隠せなかった。そういうのは、師匠がやると思ったからだ。


「今の私には、そこまでの威力の魔法は無理をしないと撃てないわ。でも、水琴は違う。貴方の魔力量は、茜達と同じくらいなのだから。使うのは、純粋な魔力による魔法ではなく、質量を生み出して撃ち込みなさい」

「質量……分かった。白の結界はどうするの?

「水琴の攻撃がぶつかる直前に解き、門を作る。水琴は撃つことに集中しろ」

「うん」


 私は、その場で深呼吸をする。そして、下にいるヤツデを見る。すると、ヤツデと目が合った。さっきまで白を見ていた赤く大きな目は、私を見ていた。


『グアッ! グアッハハハハハハハハ!! ガァアアアアアアアア!!』


 何かを喋っているようで、ただの鳴き声にも聞こえる。その声の一つ一つで大気が大きく震えていた。


「何? 喋ってる?」

「それは考えなくて良いわ」

「うん。行くよ、白」

「いつでも良い」


 イメージするのは隕石。圧倒的質量で上から押し潰す。


「【流星雨(りゅうせいう)】!」


 ヤツデの頭上に巨大な岩石を生み出して、ヤツデに降り注がせる。最初の一つが結界に触れる直前に、結界が消える。ヤツデが腕を使って岩石を掴み取った直後、その後ろにあった巨岩が命中する。それを皮切りに、次々と巨岩がヤツデに命中していく。ヤツデは、どんどんと押されていき、地面に身体を着ける事になる。


「【開門(オープン)】」


 白が巨大な門を開ける。ヤツデは、その中へと落ちていった。


「【閉門(クローズ)】」


 すぐに門は閉じられた。これで、ヤツデは裏世界に転移していった。


「良い魔法だ。範囲をもう少し狭められればな」


 白はそう言って、周囲を見下ろす。そこには、私が撃った『流星雨』の跡が刻まれていた。


「……本当はヤツデにだけ当てるようにしたんだけどね」


 私が張り切ったのと同時に杖も張り切ったらしく、威力に加えて範囲も強化されていた。そのせいで、周辺地域にも被害が出てしまった。人が住んでいない山奥だったというのもあり、人的被害は出ていない。そう思いたい。小ヤツデ達は、もっと離れた場所にいるから、戦っている人達は無事だと思うし。


「私達も移動するわよ」

「白は?」

「私も行こう。ここは、あいつらに任せて大丈夫だろうからな。最悪、私が消し去るしかないだろう」

「そうなった場合って……」

「裏世界の生態系は狂うだろうな。下手すれば、表世界にも影響が行く」

「何で?」


 裏世界での攻撃が表世界に影響する理由が分からなかったので、それを訊く。


「アリス。クライトンは空間を引き裂いて裏世界に行ったんだな?」

「はい」

「それと同じような事が起こりかねない。私の魔法が、あの時よりも強くなっていた場合、被害は裏世界に留まらないという事だ。これは逆でも言えるな。とにかく、私の魔法は最終手段と考えろ」

「うん」


 世界を突き抜けて影響する魔法というのも怖いものだ。だから、白の攻撃は最終手段として用意しておくだけ。要は、私達で倒すしかないという事だ。

 正直なところ、それとは別の理由で、白に強い攻撃はさせたくなかった。下手すれば、こっちにも影響が出るという事は、表世界の人達に被害が出るかもしれないという事。それは、白が後悔している事だったからだ。何としても私達だけで倒す。その決意を胸に前を向く。


「行こう」

「【開門(オープン)】」


 師匠が開いてくれる門を通って裏世界に渡る。そこは既に戦場だった。

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