束の間の休憩
三分程で検査が終わる。状況が状況だから、細かい精密検査はしなかったみたい。それか、魔力が融合した分、検査時間が短縮出来たのかな。
「ふぅ……これで検査は……」
「えっと、どうしました?」
口を離した茜さんが、私を見て固まっていた。私を見て驚かれる事に心当たりが……あった。
「あっ、白髪が交ざってる事ですよね。魔力が融合した時になったみたいで」
「え? ああ、なる……ほど……? う~ん……でも、ちょっと違うかも。水琴ちゃん、鏡ある?」
「はい。ありますよ」
収納魔法から鏡を取り出して、茜さんに見せる。茜さんは、そのまま私を指さすので、鏡で自分の事を見た。そして、私も絶句した。何故なら、さっきまでただの白髪交じりだったはずなのに、今はメッシュを入れたのではと思うような状態だったからだ。
「…………」
「そうじゃなかったよね?」
「はい……」
「師匠! こっち来て!」
茜さんが師匠を呼ぶと、周囲を警戒していた師匠が走ってきた。そして、何かを言おうと口を開いた状態で固まっていた。
「どう思う?」
茜さんの質問で我に返ったのか、師匠が首を振る。
「どうなっているの? ジルの検査で何かがあった?」
「ううん。いつも通りの検査。寧ろ検査対象が一つだけだったから、早く終わったくらいだよ。検査を終えて、水琴ちゃんを見てみたら、こんな状態になってたの」
「そう……そういえば、戦闘中に思ったけれど、白髪が交ざっていたわよね?」
「うん。魔力が融合した時になってたの」
「融合が関係している……いや、ヤツデの魔力が関係しているわね」
この状況で白髪が進行した要因は、クライトンから奪ったヤツデの魔力しかないと師匠は考えたらしい。確かに、二つの状況で一致するのは、ヤツデの魔力と魔力が融合した事だけだ。
「水琴の中に他の魔力はないのよね?」
「うん。綺麗に一つに融合してる。元々一つだけだったかのようにね。ただ、魔力の総量が異常に伸びてるかな。これまでの総量よりも遙かに多くなってるよ」
「魔力量が増えた事による弊害。もしくは、ヤツデの魔力が融合した事による身体的な変化というところかしら。どちらにせよ、現状は身体に大きな支障はないのよね?」
「うん。気分が悪いとかも何もないよ」
「そう……何とも言えないわね」
私の状態について話していると、冷音さん達も合流した。
「師匠。処分と偵察を軽くしてきましたが、周囲に敵はいないようです」
「そう。それは良かったわ。恵の方は大丈夫だったかしら?」
「はい。封印物の処分の仕方は習っていましたから。無事、処分は完了です」
「そう。お疲れ様」
「ありがとうございます。ただ、水琴の髪が……」
めぐ姉が私の傍に来て、髪の毛を手に取る。自分で触って、本当に白くなっている事を確かめているみたい。
「師匠。私は、もしやと思っていたのですが、白の君の呪いと同種のものではないでしょうか?」
冷音さんが、塔の中でも言っていた事を師匠に伝える。それを受けて、師匠は、すぐに否定はしなかった。
「水琴。目を見せなさい」
「うん」
師匠は猫の状態なので、身体を前傾させて師匠に目を見せる。
「……目までは白くなっていないわね。口を大きく開けなさい」
言われた通りに口を開ける。
「こっちも普通ね。現状髪だけが白くなっているようね。そうなると、白の君の呪いと同種のものとは言い切れないわね。仮に同種のものだとして、魔力の総量の問題があるわ。ジル。水琴の魔力の総量は、白の君程ではないわよね?」
「うん。総量自体で言えば……あっ、でも、私達に近いかも」
「やっぱり、急激に魔力が増えた事による弊害という方が可能性としては高いわね」
「これ戻る?」
「分からないわ。ミアの見立てはどうかしら?」
師匠が美玲さんに話を振る。美玲さんは、私の髪をジッと見てから口を開いた。
「う~ん……正直経過を見ないと分からないかな。原因究明は、そのさらに後だね。このまま髪が伸びて、毛根側が黒くなっていれば、元に戻る見込みがあるけど、ずっと白いままなら、このままになる可能性が高いかな」
「そうですか……いっその事、白みたいに全部真っ白になれば良いのに……」
「取り敢えず、事が終わったら白髪染めを試してみましょう。染めれば、水琴も気にならないでしょう?」
「うん。そうだね」
「それじゃあ、今度は治療の方ね。恵ちゃんもこっちに来て。二人とも診察するから」
「はい」
めぐ姉と一緒に美玲さんの診察を受ける。軽いものは、冷音さんがやってくれているけど、美玲さんの方が専門家なので、しっかりと診てくれる。
「治療は出来てるから問題ないかな。でも、二人とも骨と内臓に傷付いてたから、気を付けて。特に恵ちゃん。破裂していないのが不思議なくらいのダメージだったみたいだから」
「分かりました」
あの男にやられた傷は、やっぱり浅いものではなかった。私は、身体を頑丈にしていたけど、めぐ姉はほぼまともに食らっているわけだし、めぐ姉の方が大怪我だったのは間違いない。それでも、自分で治してしまえるめぐ姉の優秀さがよく分かる。私はまだ止血とかまでしか出来ないから。
「師匠は怪我ない?」
「ないわ。ヤツデの状態になった後は、単調な攻撃ばかりだったから、避けるのも楽だったのよ。クライトンの意識が主導権を握っていた時の方が厄介だったわ」
師匠の言っている事は正しい。ヤツデの魔力に支配されている状態のクライトン本体は、基本的に何もしていなかった。追い掛けてきていた手は、単調な動きばかりだったし、私でも普通に避けられた。ここにクライトンの魔法が加わっていたら、多分私は死んでいたと思う。
「でも、擦り傷とかはあるでしょ? 治療するから」
「ありがとう。お願いするわ」
師匠が治療を受けている間に、身体を起こして変調がないかを確認しておく。やっぱり、特に問題はない。髪の毛以外は。
「これからどうするの?」
一応、しっかりと確認しておく。今回の襲撃の目的は、私が持つヤツデの魔力だったけど、それもなくなった。そして主導者であるクライトンも葬られた。もう敵に戦う理由はない。いや、クライトンの弔い合戦という理由ならあるのかな。向こうにとっては偉大な指導者でもあっただろうし。
「そうね。取り敢えず、私の治療が終わったら、表世界に戻るわ。残党の処理が残っているから」
「分かった……」
私の声は尻すぼみになっていく。その理由は、急に背筋に冷たい物が走ったからだ。唐突な悪寒だったけど、何故か走った理由が頭を過ぎる。
「ヤツデの封印が解けた……」
過ぎった事をそのまま口に出していた。そして、それを聞いた全員が、一斉に私の方を見る。
「それは確かなの?」
「分からない。でも、そんな感じがしたの」
師匠の確認に、そう答えた。そう答えざるを得なかった。だって、何でそう思ったのか、自分でも分からないから。
「水琴さんは、元々ヤツデの魔力を持っていました。その状態が長く続いたから、ヤツデの魔力の感知に長けているのでは?」
「可能性はあるわね。予定変更よ。私達は、裏世界に残るわ。恵と水琴は、二人で表に帰りなさい」
「えっ? 師匠達はどうするの?」
「予定通りなら、白の君がヤツデの封印地にいるわ。白の君は、そこでヤツデを裏世界に移動させるはず。私達は、その討伐に行くのよ」
「なら、私も行く。戦力は多い方が良いでしょ?」
そう言うと、師匠は渋い顔をする。私も来る事を拒んでいるというのが分かる。
「まだよく分かっていないけど、私の力は底上げされてる。師匠の足にもなれるし、役に立つよ!」
「…………分かったわ。恵は、表に帰って、この事を渚達に伝えなさい。私達が帰るまで裏世界に入る事は禁止するってね」
「えっ、本当に水琴を連れていくんですか?」
「ええ。聞き分けが良ければ良いのだけど、今は違うようだから。それに、足が欲しいのは事実でもあるのよ」
師匠は、魔力的な問題で、ずっと人の姿を維持出来ないので、私が師匠の足になっている間に、魔力の回復を図って貰う。それが一番良いはずだ。他の皆は戦闘に集中しないといけないだろうから。
めぐ姉が、私の方を見てくる。私が裏世界に飛ばされた時に、自分で探しに行こうとしていたくらいだ。めぐ姉は、私が残るのは絶対に反対すると思う。でも、私も自分の因縁に決着を付けたい。何かの役に立てるかもしれないし。
そんな意志を込めてめぐ姉を見返す。
「……成長したって事ね。分かりました。水琴をよろしくお願いします」
めぐ姉は、師匠に頭を下げてから、私の事をぎゅっと抱きしめる。
「絶対に生きて帰ってくる事。良い?」
「うん」
最後に頭を撫でると、めぐ姉は表世界に帰っていった。めぐ姉を見送った後、私は師匠を運ぶためのポンチョを取りだして着ける。そして、師匠がポンチョのフード部分に入る。
「ビビ、飛べるわね?」
「はい」
冷音さんが、私の事を抱きしめて固定して空を飛ぶ。茜さんと美玲さんも同様に空を飛んだ。
「水琴。移動中に、私の魔法を伝えるわ。頭が割れそうな程痛くなるだろうけど、我慢しなさい」
「えっ!? は、は~い……」
私達は、白がヤツデを転移させる場所まで、空を飛んで移動する。そして、その移動中に師匠から魔法の伝授が行われる。私の生存率を極限まで上げるための措置だ。おかげで、ヤツデとの戦いが始まる前に死にそうなった。




