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猫魔女と弟子と魔法の世界  作者: 月輪林檎
立派な魔法使いへ

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直接対決

 冷音さんの先導で塔の天辺まで上った瞬間、周囲から魔力弾が飛んで来た。それに対して、即座に冷音さんが『防壁』を張って防いでくれた。攻撃してきた敵は、空を飛んでいる。全員で四人だ。さっき戦った男が上から下りてきた時点でここに敵がいてもおかしくないとは思っていたけど、まさか四人もいるとは思わなかった。


「【落ちろ】!」


 言霊で空を飛んでいる四人に向かって命じる。


「なっ……なんっ!?」

「きゃあっ!?」

「うわぁああああああ!!」

「たすけっ……!」


 四人が別々の声を上げながら、真っ直ぐ地面に墜落していった。四人が落ちた鈍い音が聞こえてきたから、多分全員無事ではない。四人を同時に相手にするのは危険な可能性もあったので、先手を打とうと思ったのだけど、まさか地面まで落ちるとは思わなかった。魔力が変わった事もあり、言霊まで強化されたみたいだ。


「助かりました。身体は大丈夫ですか?」

「はい。反動はありませんでした」

「それは良かったです。取り敢えず、屋上が危険なのは変わりなさそうですね。一つ下の階に移動して待機しま……」


 話している途中で冷音さんが言葉を止めて、屋上の縁に移動した。どうしたのかと思いつつ、めぐ姉と一緒に冷音さんの後に付いていく。その途中で、急に大きな音が下から聞こえてきた。それは何かが壊れたかのような音だった。

 その音が聞こえるや否や冷音さんが険しい表情で、私の腰に手を回す。


「恵さんは飛べますね?」

「は、はい!」


 冷音さんは、空いている方の手でめぐ姉と手を繋ぐと、空を飛び、塔から離れた。


「れ、冷音さん?」

「最悪の事態ですね」


 冷音さんは苦々しげな表情でそう言う。危険な状況なのだろうけど、いまいち具体的な状況なのかが掴めない。でも、次の瞬間には理解出来た。何故なら、さっきまで私達がいた塔が崩れ落ち始めたからだ。

 砂埃が立って、地上は見えないけど、恐らくあそこに塔を壊した原因がいるはずだ。


「冷音さん、まさか……」

「そのまさかでしょう。師匠が負けたとは思いませんが、確実に師匠も予期していない事態が起きています。取り敢えずは、このまま離れ…っ!」


 また冷音さんの言葉が途切れた。そして、冷音さんは思いっきりめぐ姉の事を引っ張って自分の方に引き寄せつつ、その場を即座に移動した。直後、私達がいた場所を地面から伸びてきた手が掴んだ。


「あれは……何……ですか?」

「分かりません。ですが、十中八九クライトンです」


 冷音さんが風を起こして砂煙を払う。そこにいたのは、背中から四つも腕を生やしている異形の姿をしたクライトンだった。


「どうして……」

「恐らく、ヤツデの魔力に飲まれたのでしょう。そして、目的の一つである水琴さんを求めて、裏世界へと来たのかと」

「ど、どうしますか?」

「倒すしかないでしょう。ちょうど勝算も来た事ですしね」

「勝算? あっ!」


 クライトンの背後で人に変身した師匠が魔力弾を撃っていた。


「邪魔をスルなぁ!!」


 クライトンが叫びながら、四つの手を師匠に伸ばす。師匠は、その手を危なげなく避けていた。私は、クライトンに杖を向けて、魔力弾を撃つ。ちょっと魔力を込めすぎたみたいで、極太レーザーみたいになったけど、高威力になっているのは間違いない。

 上からの攻撃にクライトンは、すぐに反応して『防壁』を張っていた。まだ魔法を使う理性は残っているらしい。


「冷音さん!」

「師匠に怒られても知りませんよ」

「慣れてます!」

「そんな堂々と言える事じゃない気がする……」

「めぐ姉うるさいよ」


 説教なんて何度も受けているから、今更一つ増えても痛くも痒くもない。一番困るのは、そのせいで修行が厳しくなるかもしれない事だけど、これはその時の師匠の気分によるから、良い方に転ぶことを祈るだけだ。


「私を挟んで喧嘩はしないでください。地上に降りたら、恵さんは絵画魔術の準備を」

「えっ、どれを……」

「絵画封印です。対象は腕のみ。素材は、置いていきます」

「わ、分かりました。でも、私の腕では、封印出来るかどうか……」

「仮に出来なければ、択が一つ減るだけです。何が効くか分からない以上、試行する必要があります。水琴さんは、動き続けて下さい。あの腕に捕まれば終わりです。それと言霊は乱用しないように」

「はい」


 地上に降りながら冷音さんが指示をくれる。師匠が戦っているので、こういうのは有り難い。取り敢えず、あの腕をどうにかするところから始める感じだ。

 クライトンから離れた場所に着地したところで、冷音さんが収納魔法から色々な材料を出していった。めぐ姉は、それらを回収してから、さらに離れる。絵画魔術に集中するためだ。私は、クライトンの方に向かって走る。身体強化に使う魔力量の調整は塔を上る段階で把握した。

 走りながら、クライトンに向けて魔力弾を撃っていく。クライトンは、私を見ると、ニヤリと笑いながら見てきた。獲物を見つけたという目だ。四つの手が私に向かって伸びてくる。一旦魔力弾を撃つのを止めて、伸びてくる手を避けていく。体力と身体能力が高くて本当に良かったと、この時ばかりは思える。

 私を捕まえようと躍起になっているクライトンに向かって、金属の弾が投げられた。一見手榴弾に見えたそれは、空中で爆発すると何かの液体をばらまいた。


「グオオオオオオオオオ!!」


 液体を被ったクライトンは、途端に苦しみ出す。同時に、背中から生えている腕の一部が火傷を負ったみたいになっていた。さらに、そこに追加で冷音さんが攻撃すると、白い炎が上がる。


「聖水よ。ヤツデの身体は邪として判定されるようね」


 いつの間にか猫の状態になった師匠が肩に掴まっていた。


「それよりも水琴。さっきの魔力弾は何かしら?」

「魔力が融合したの。そうしたら、魔力の量と質が変わったみたい。完全に制御出来たわけじゃないけど、暴走はしてないよ」

「ならいいわ。普段なら止めるところだけど、今は戦力が必要だから」

「どうすれば良い? 冷音さんは手を避けろって」

「それは正解よ。アレの手は空間を引き千切ったわ。生物が食らえばどうなるか分からないの」

「……恐ろしすぎない?」

「でも、それが現実よ。問題は、クライトンの自我がどこまで保つかね。既に、侵蝕が始まっているわ」


 確かに、若干獣っぽさを感じるような声をしていた。ヤツデの魔力が暴走して、身体を侵蝕していると考えると納得出来る。


「積極的に背中から生えている方の腕を狙いなさい。クライトン本体へは、隙を見つけて攻撃するのよ」

「うん!」


 色々と訊きたい事があるだろうに、師匠はそれだけ話すと肩から飛び降りて、再び人に変身した。師匠とバラバラに動いて戦う。この方がクライトンへの攻撃が通りやすいって事なのかな。何はともあれ、因縁は断ち切らないとね。

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