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猫魔女と弟子と魔法の世界  作者: 月輪林檎
立派な魔法使いへ

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予想外の事態

 水琴が裏世界で奮闘している間、表世界でも寧音と蒼が奮闘していた。

 身体強化と部分強化で移動速度を上昇させていた蒼が、ギリギリまだ建っている校舎の壁を利用して、敵の背後を取り、その延髄にナイフを突き立てる。


「【炎弾】」


 突き刺したナイフから『炎弾』を撃ち出し、内側から破裂される。その蒼の背後から魔法を撃とうとしていた敵の仲間の目に横から飛んで来た『鎌鼬』が命中する。


「がぁああああああああ!!」


 目を削り取られた敵に向かって、蒼が突っ込み喉にナイフを突き立てて斬り裂く。そこに寧音も合流する。


「ありがとう」

「どういたしまして。そのナイフって杖だったの?」

「杖としても使える。でも、普通に杖の方が使いやすい」


 蒼のナイフは、特別な造りになっており魔法を使う事が出来る。だが、蒼自身も自覚している通り、普通の杖を使った方が魔法の威力は出るので、遠距離戦になれば、杖を使う事になるだろう。だが、突き刺した状態で内側から魔法を撃てるというのは、大きな利点だった。援護が期待出来ない時に確殺するのに使えるからだ。


「寧音ちゃん! 蒼ちゃん! 大丈夫!?」


 二人の元に茜と美玲がやって来る。周囲の生徒達の治療を終えたところで、二人のことを発見したので怪我がないかを確認するために来たのだ。


「はい。軽い怪我くらいで済んでます」

「ん」

「美玲ちゃん」

「分かってるって。二人とも近くに来て」


 美玲に呼ばれて、寧音と蒼が美玲に近づく。美玲は、二人の身体に触れて診断を始める。


「軽い怪我って……二人とも骨に罅が入ってるじゃない。これは軽いとは言わないの」


 二人とも連携して戦っていたが、相手の攻撃を完全に避ける事は出来ていなかった。アドレナリンが出ていて、痛みをあまり認識出来ていなかったが、罅の入っている骨もあった。

 美玲が治している間に、茜が周囲を警戒する。


「二人とも沢山倒してくれたみたいだねぇ。よく頑張りましたぁ!」


 茜が二人の事を撫でる。褒められた事は嬉しいが、それよりも二人には気になる事があった。


「あの水琴は無事ですか?」

「分からないかなぁ。今、水琴ちゃんは裏世界に飛ばされちゃったからぁ。恵ちゃんが保護しているはずだから、大丈夫だとは思うけどねぇ」


 恵の事を知らない二人は、一瞬本当に大丈夫かと思ったが、茜と美玲がここにいる時点で信用をしているという事を察した。


(それなら大丈夫なのかな……)


 少しだけ安心した寧音だったが、それでも少しの心配は残っていた。


「これからどうする?」


 蒼が茜に指示を請う。言われていた襲撃が起こった事から、二人は何も言われずに戦っていたが、ここで教師である二人に出会ったことから、何か指示があれば聞こうと思ったのだった。


「二人には、表世界で戦い続けて貰うかなぁ」


 茜がそう言った直後に学校の中央の方で大きな爆発が起こった。その方向は、アリスが戦っている方角だった。


「あの爆発は……」

「師匠だね。美玲ちゃん」

「クライトンの隠し球かもしれない。白の君に合流するよ。二人とも付いてきて!」

「はい!」

「ん」


 治療を終えた美玲が走り出し、その後を三人が追う。


────────────────────


 寧音達が爆発を見る前。アリスは、クライトンをどんどんと追い詰めていた。


「くっ……」


 クライトンは、飛んでくる魔力弾を『防壁』で防ぐ。そして、すぐに周囲を確認する。これまでの戦いから、肉弾戦で来る可能性が高いからだ。だが、その予想と反し、アリスは突っ込んでこない。

 魔力弾を撃った場所で止まり、収納魔法から紙を取り出していた。それを見たクライトンは、目を大きく開き、すぐにアリスに向かって突っ込んだ。


「貴様!」


 クライトンが近づいてくる前にアリスが紙を地面に叩きつけて魔力を流す。

 魔力を流された紙には魔法陣が刻まれている。そして、その紙から地面を伝って光が伸びて、クライトンを囲むように五角形の結界が生まれる。その頂点には、たった今アリスが取り出したものと同じ紙が置かれていた。

 クライトンは、結界に腕を叩きつけるが、それで結界が壊れる事はなかった。


「五点聖結界。知らない訳ないわよね?」


 五点聖結界。魔法陣を五ヶ所に設置し、その内側と外側を断絶する結界を生成する。過去に何度も悪魔を完全に閉じ込めたという事から聖結界と名付けられた。

 アリスは、戦いながら紙を地面に固定する事で作り上げた。魔力弾などの攻撃の最中に用意していたので、防御に集中していたクライトンは気付いていなかったのだ。


「消耗したあなたが、これを破壊出来る?」

「くっ……」


 アリスの言っている事は正しかった。先程までの戦いで、クライトンは大きく消耗していた。アリスの方は事前に紙に魔力を通しておく事で、少ない魔力でも結界を張れるように工夫していたため、結界生成でも魔力はあまり消費していなかった。

 そして、クライトンを閉じ込めて終わりという訳では無い。


「【聖焔(せいえん)】」


 虹色の炎が結界内に満ちる。


「な、何だ、これは!?」

「私が敵と認識した対象のみを燃やす炎よ。新しく開発したの。ただ認識の甘さがあるから、気軽に使えないのよね。要改良だわ」

「きさっ……ぐっ……ああああああ!!!」


 『聖焔』によってクライトンの身体が燃えていく。クライトンは叫びながら結界の中でふらつく。


(これで完全に燃え尽きれば……)


 そう思っていたアリスの目の前で、結界が吹き飛んだ。同時に大きな爆発が起こる。その衝撃で、アリスは吹っ飛ぶ。吹っ飛ばされている途中で猫に姿を戻し、地面に着地する。


「くっ……一体何が……」


 五点聖結界が砕かれる事は予想していたアリスだったが、直後に起こった爆発に関しては、完全に予想外だった。

 爆発が起きた結果、『聖焔』も消し飛んでいた。そして、その中央には歪な形のクライトンが立っていた。歪さの正体は背中から生えた四つの腕だった。


「くははははは!! このタイミングでヤツデの魔力が馴染んだ!! これがヤツデの力だ!! はははははは!!」


 自身の変化を肯定的に捉えているクライトンだったが、アリスの見解は違った。


(どう考えても暴走している。死にかけた事で、ヤツデの魔力が宿主を生かそうとした。そう考える方がしっくりくるわ。でも、水琴も似たような事に……いや、あの時とはヤツデの封印状態が違う。今の方がヤツデの魔力の影響を受けやすいのかもしれないわね。さて、どう戦うか)


 アリスは、猫の状態のまま駆け出す。周囲の瓦礫を上手く使って隠れながらクライトンの様子を確認する。あそこまで姿形が変わってしまえば、相手の攻撃などを読むのは不可能だ。まずは、相手がどういう状態か確認するのが先決と判断したのだった。

 暴走状態のクライトンは、背中から生えた四つの手を何も無い空間に向かって伸ばす。その手は、何もない空間を掴むと空間を引き裂いた。


「まさか!?」


 クライトンは、そのまま引き裂いた空間の中に消える。


(水琴を追った!? 判断を誤った! 危険を承知で攻撃するべきだったわ!)


 アリスは、即座に人に変身する。そこに白の君が合流した。クライトンにより引き起こされた爆発と魔力を感じて駆けつけたのだ。


「アリス! 簡潔に説明しろ!」

「クライトンが暴走! 水琴を追いました!」

「何?」


 白の君が、一瞬思考を巡らせる。そして、思考を終えると同時に頷いた。


「分かった。私は、このままヤツデの封印地に向かう」

「まさか……本当にやるおつもりですか?」

「ああ。その方が、被害が減る。お前は、状況を見て水琴を守るように行動しろ。既に冷音を向かわせたが、どうなっているかは分からん」

「分かりました」


 アリスが頷いたのと同時に、白の君が裏世界への門を開く。アリスは、迷う事なく門に飛び込んでいった。

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