急成長?
階段を上って、ようやく広い部屋に出た。そこでめぐ姉を降ろす。
「めぐ姉!」
「うっ……げほっ……ごほっ……」
咳き込む度に血が出て来る。大きなダメージを負っている証拠だ。
「水琴……怪我は……?」
「美玲さんの魔力で治せるから大丈夫。私よりもめぐ姉だよ。どうしよう……まだ高度な威力魔法は使えないし……美玲さんの魔力は、私にしか効果がないし……」
「大丈夫……ちゃんと治してるから……内臓の回復は……時間が掛かるの……」
めぐ姉はそう言いながら身体を起こし、私の頬を撫でてきた。そして、安心させるように微笑む。それだけ私が不安そうな表情をしていたという事だ。
「あの男は?」
「わ、分からない……めぐ姉を優先しちゃったから……」
「ありがとう。でも、駄目でしょ……トドメは刺さないと……」
めぐ姉はそう言って立ち上がろうとするけど、まだ脇腹が痛むのか、すぐに膝を突いた。
「まだ駄目だよ!」
「そうも言ってられないでしょ」
そう言って私の後ろ見るめぐ姉に釣られて、私も背後を見る。すると、階段の方から音がしている事に気付いた。
私は、咄嗟にめぐ姉を背後に庇って立ち上がる。それを同時に、階段から男が現れた。氷漬けにされた半身が、一部を除いて氷が溶かされていた。身体の一部が火傷を負っている事から、無理矢理溶かした感じだ。そして、片腕に関しては、氷漬けにされた時に折れたようでなくなっていた。
「貴様等……もはや慈悲はない! ヤツデの魔力を奪うと言われているが、ようは魔力の持ち主が一人になれば良いだけの事! ここで殺しても問題あるまい!」
男はそう言って、魔法を使うのではなく突っ込んできた。そして、私の目の前に来ると、思いっきり首を掴んでくる。咄嗟に師匠の魔力で身体強化して、身体の頑丈さを上げておいたおかげで、首を折られるという事はなかった。
「小細工を!」
「そ……っち……も……」
声が上手く出ない。でも、身体はぎりぎり動く。相手の首に杖を向けて、思いっきり魔力を込めた魔力弾を撃ち込む。
血走った目をしていたから、視野が狭まっていると予想しての事だったけど、本当に狭まっているようで全く気付いていなかった。
「かはっ……」
喉にボウリング球を受ければ、さすがに呼吸も止まるようで、私の首を掴んでいた手を放す。
「【稲妻】……」
そこに、めぐ姉が雷の魔法を撃ち込んだ。感電した男の身体がビクンビクンと跳ねる。でも、それでも息絶える事なく、私を殴ってきた。
防御も出来ずに受けてしまったその一撃の重さは、これまで模擬戦で受けてきたものと比較にならないものだった。思いっきり吹っ飛ばされた私は、二十メートル程離れた壁に身体を打ち受ける事になった。
「がっ……」
師匠の魔力で身体を強化していても衝撃が身体全体に広がり、一瞬意識を失いかけた。壁から落ちて地面に倒れる。すぐに、美玲さんの魔力に切り替えて、身体を回復させていく。
「ヤ……ツ……デ……」
ほぼ意識のない状態になっても、男は止まらない。うわごとのように呟きながら、ゆらりゆらりとめぐ姉に近づいていく。まだ身体が回復しきっていないめぐ姉は、身体を這わせて逃げるけど、歩いているあっちの方が速い。このままじゃ、めぐ姉が殺されてしまう。
それは駄目だ。絶対に許せない。痛む身体を無視して立ち上がる。
「水琴……逃げて……」
「嫌だ……嫌だ!」
大声を上げると、男がそれに反応したように、こっちを向いて歩いてきた。未だにうわごとのようにヤツデと呟いている。
「自己顕示欲だけで他人の迷惑も考えない馬鹿が! ヤツデの力を得たくらいで、誰もが認めるようになると思うな! そんな下らない事に囚われてるから、一生成長しないんだよ! 学習しろ! 馬鹿!」
苛つきのせいか、口から罵詈雑言が出て来る。でも、本心から出ている事は間違いない。
苛つき任せに杖を男に向けて魔力弾を撃つ。男は、魔力弾を受けても、こっちに向かってくる歩みを止めない。
「もういい加減にして! 私の中のヤツデの魔力が欲しいんだって!? なら、この魔力を私のものにして、ヤツデの魔力じゃなくしてやる! お前達の思い通りに何でも上手く行くと思うな! あんた達がもう二度と悪さ何て出来なくなるくらい完膚なきまでに叩きのめしてやる!!」
最後の一言を言うのと同時に、身体の中で何かが起こった。力が奥底から湧き上がってくる。そして、源泉にいるかのような感覚がしてくる。
そんな事を気にする余裕はなく、その状態のまま魔力弾を男に撃ち込んだ。すると、魔力弾はレーザーのように飛んでいき、男の上体を消し去って、さらに向こう側にある壁に穴を開けた。
全く予想していなかった事態に、私は唖然としてしまう。それはめぐ姉も同じだった。私の方を見て目をパチパチとさせている。私達が動き始める事が出来たのは、男の下半身が崩れ落ちた音がしてからだった。
「えっ……何が……」
自分がした事が分からず困惑する。それと同時に、膝に力が入らなくなって、その場で座り込む。そこに、脇腹を押えながらめぐ姉が近づいてきた。
「水琴、大丈夫?」
「う、うん……めぐ姉は?」
「私も大丈夫。ようやく痛みも引いてきたから。水琴も回復を優先して」
「うん……ん?」
「どうしたの?」
私が眉を寄せて困惑していたからか、めぐ姉が顔を覗いてくる。でも、すぐにめぐ姉に返事は出来なかった。とある事を確認したかったからだ。そして、それが事実である事が分かる。
「み、皆の魔力がない……」
「魔力がない? 使い切ったって事?」
魔力受容体質と言っても、体内にある魔力を自由自在に増やせるわけじゃない。基本的には、同一魔力を持っている人から補給して貰う必要がある。だから、めぐ姉も使い切ったという発想が出て来た。でも、それは違う。
「ううん。魔力管理は、ちゃんとしてた。まだ余裕があるはずなのに……それに、ヤツデの魔力も感じないの。それどころか、今の自分の魔力が自分のものなのかも分からなくて……」
「それって、魔力が融合したって事?」
めぐ姉にそう言われて、ようやく納得出来た。自分の魔力なのに違和感が強かったのも説明が付く。だけど、同時に疑問も浮かぶ。
「でも、なんで急に……」
「それは分からないけど、魔法とかは使えるの?」
「えっと……【石弾】」
魔法が使えるのか確認するために、『石弾』を使う。すると、これまでの倍以上の大きさ、もはや『石槍』と同じようなものが飛んでいき、命中した壁を破壊した。
「…………」
魔法の威力が格段に上がっている。それどころか、規模すらも大きくなっている。魔力が融合して競合するものがなくなったにしても、こんなに変わる事があるのだろうか。
「これって普通?」
「分からないけど、それってコントロール出来てるの?」
「多分、出来てない……」
「使う魔法は、しっかり選んで。下手すると、周囲の人も巻き込む事になるから」
「うん」
そんな話をしていると、階段の下の方から人の足音が聞こえてきた。それも一人だけじゃなく、複数人のものだ。
「施錠が破られたのかも。水琴、戦える?」
「うん……うん! 大丈夫。さっきまでの美玲さんの魔力で、大分回復出来ていたみたい」
「良かった。でも、無理はしないで。今の水琴は何が起こるか分からないから」
「うん」
めぐ姉が注意を受けていると、階段から見覚えのない人達が上がってきた。
「いたぞ! 確保しろ!」
その言葉だけで、相手が敵だと分かった。牽制のために魔力弾を撃つ。すると、さっき男を消し飛ばしたのと同じような魔力弾が出て、まとめて敵の身体に大穴を開ける事になった。
「……これって、どうやって制御するの?」
「さ、さぁ……?」
あまりの威力に、めぐ姉も若干引いていた。私も同じ気持ちだった。




