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猫魔女と弟子と魔法の世界  作者: 月輪林檎
立派な魔法使いへ

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塔での戦闘

 塔に逃げ込んだ私とめぐ姉は、塔を上っていた。


「めぐ姉、どこまで上るの?」

「最上階。その方が安全でしょ。あっ……そういえば、水琴って、空は飛べる?」

「短い距離なら」


 裏世界の時には使えなかった『飛行』も修行の結果、短い距離だけなら飛べるようになっていた。まぁ、普通に地面を駆け抜けた方が速いから使う事は、ほぼなかったけど。


「なら、私が抱えた方が良いか」

「何の話? 最上階から飛び降りるの?」

「そうだけど、そうじゃないかな。塔を破壊された時の事を考えてるの。最上階にいたら、塔を壊された時に地面に叩きつけられちゃうでしょ?」

「そういう事……ん? てか、向こうも最上階から侵入してくるんじゃない? 空を飛べないわけじゃないんだし」


 空を飛ぶという話をして、その可能性に気付いた。私達は律儀に階段を上がっているけど、普通に外壁沿いに飛んで最上階から塔に侵入しようと考える人もいると思う。その方が早く着くだろうし。


「う~ん……どうだろう。『飛行』は消費魔力が多いし、先生とかだったら普通にやりそうだけど、普通の人は無理じゃないかな」

「じゃあ、最上階に直接来る人がいたら、かなり強いって事?」

「その可能性は高いかもね。クライトン仲間の中にも、かなり強い人はいたみたいだから」

「そうなの?」

「うん。まぁ、先生達の相手にはならなかったみたいだけど」

「私達にとっては強敵に違いはないって事?」

「そういう事。もし、そんな人がいたら、水琴は一人で逃げてね。私が足止めするから」


 めぐ姉はそう言って、私の頭を撫でる。命を捨ててでも、私を守るという意志をめぐ姉の手から感じる。だから、私はその手を払いのけた。


「嫌だ。その時は、めぐ姉と一緒に戦う。私のために命を捨てるなんて許せない。二人で生き残るのが一番でしょ?」

「……はぁ……全くもう……嫌な方向に成長しちゃったなぁ。昔は、聞き分けが良かったのに」

「それなりに経験を積んだので」


 胸を張ってそう言うと、また頭を撫でられた。でも、今度はさっきとは違う。慈しみと寂しさを感じさせる。私の成長を嬉しいと思いつつも、やっぱり寂しいという気持ちもあるって感じかな。この手は払いのけなかった。

 そんな私達の耳に足音が聞こえてきた。即座にめぐ姉が前に出て私を庇う。


「めぐ姉、私達以外に味方は?」

「いない。全員殺されてる。私と同じ命令を受けた人がいたとしたら、私に知らされていない事がおかしい。かなり甘く見て、先生とかが来たのかもしれないけど、上から来る意味が分からない。先生達なら、クライトン本人が来ない限り苦戦なんてしないから」


 確かに、師匠が来たとしても下から上がってくるはず。さすがに、最上階から行こうとは考えないと思う。つまり、十中八九敵という事だ。

 螺旋階段の下ってきたのは、一人の厳つい男だった。見覚えはない。つまり敵。


「そのガキを寄越しな」

「断る。【氷地獄(コキュートス)】!」


 即座にめぐ姉が『氷地獄』を放つ。


「【炎地獄(インフェルノ)】」


 恐らく、『氷地獄』と正反対の魔法だろう。それを撃ち、『氷地獄』を相殺した。


「【石弾】!」


 相殺したタイミングで、『石弾』で尖った石をいくつも放つ。男は、それを無詠唱で張った『防壁』で防いだ。


「退くよ!」

「うん!」


 分が悪いと判断し、私とめぐ姉は下の階に退こうとする。でも、その前に男が階段を飛び降りてきた。小学生じゃないのだから、階段の飛び降りなんてやめて欲しい。

 すかさず魔力弾で叩き落とそうと思ったら、めぐ姉が壁に手を当てた。


「【顕現(けんげん)】!」


 めぐ姉がそう言ったのと同時に、男の周囲の壁、床、天井が変形して男を突き刺そう杭となって伸びてきた。


「はあああああああああ!!」


 男は雄叫びを上げて、腕を顔の前で交差させる。空中で身動きも取れないから、串刺しになると思ったのだけど、杭はその身体を貫く事はなかった。どうやら、皮膚を硬質化させているみたい。私が師匠の魔力で身体強化した時に似ている。さすがに、あの杭を皮一枚だけで防ぐ程の強度はないけど。

 めぐ姉は、若干困惑していた私の腰に手を回して持ち上げ、階段を下っていく。普段のめぐ姉なら出来ないけど、今は身体強化をしているから出来るみたい。


「めぐ姉、あれなに!?」

「絵画魔術で罠を仕掛けておいたの。バレないように壁や床と同じ色で描いたんだけど、まさか簡単に防がれるとはね……」


 これは、めぐ姉も予想外だったらしい。めぐ姉は、壁に手を当てて、次々に罠を作動させていく。その全てを己の肉体で受け止められている。ある種の身体強化の到達点なのかな。

 男は、罠を全て振り切って、私達を跳び越えて前に着地した。その顔面に向かって、思いっきり魔力を込めた魔力弾を撃ち込む。状態が仰け反っていたけど、まるでノーダメージかのように身体を起こしてきた。

 その間に、めぐ姉が私を降ろす。そして、収納魔法から一枚のキャンバスを取り出した。そのキャンバスに描かれていたのは、真っ青な海のようだった。


「【顕現】!」


 キャンバスからあり得ない量の水が流れ出していく。それは、まるで激流のように階段を下りていく。その激流が男を飲み込んで下層に男を落としていく。


「上に戻るよ!」

「う、うん!」


 めぐ姉は、私の背中を押して、先に上らせる。相手の狙いが私なので、私を守るように動いているという事だ。でも、私はそれでは足りないと考えた。めぐ姉の手を掴んで、お姫様抱っこをしつつ、身体強化を使いつつ、部分強化で腕を強化して駆け出す。馬鹿みたいな体力がある私がめぐ姉を抱えて走った方が速いと思ったからだ。

 めぐ姉は何かを言おうと、口をパクパクさせていたけど、私の行動の方が正しいと思ったのか何も言わなくなった。若干恥ずかしそうでもある。

 複雑そうな表情をしていためぐ姉が、目を大きく開いて、私の背後に杖を向けた。


「【防壁(シールド)】!」


 めぐ姉が背後に『防壁』を張る。直後に背後で大きな爆発が起こった。その余波なのか熱を背中に感じた。


「肉弾戦も魔法も得意だなんて、さすがに面倒くさ過ぎ……」

「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ! 私を降ろして、一人で逃げな! 私が時間を稼ぐから!」

「嫌だって言ったじゃん!」

「我が儘言わないの!」

「我が儘じゃない! あんなの二人で力を合わせたら倒せるもん!」

「……ったく! じゃあ、私を降ろして! その状態じゃ戦えないでしょ!」


 そう言われては降ろすしかないので、めぐ姉を降ろす。めぐ姉は、階段に立つと杖を男の方に向ける。


「【氷霧世界(ニブルヘイム)】!」

「【灼熱地獄(ムスプルヘイム)】」


 また真逆の魔法で相殺される。そうして相殺された余波のなかで、私は茜さんの魔力を杖に通す。


「【石槍(せきそう)】!」


 石の槍を生成して、男に向かって飛ばす。かなり鋭利なものだし、普通は命中すればただでは済まない。


「ふん!」


 男は気合いを入れて腕を交差するだけで、『石槍』を防いで来た。


「【石壁(ストーンウォール)】!」


 めぐ姉が石の壁を作り出してから、私の腕を引いて塔を上る。


「生半可な魔法は通じないよ」

「逃げるが勝ちって事も出来ない」


 めぐ姉がそう言ったのと同時に、『石壁』が崩れる音が聞こえた。さらに、階段を駆け上がっている音もする。


「こうなったら、至近距離で相殺できないように魔法を使うしかない」

「ふむ……出来ると思うか?」


 男はいつの間にか私達と並走していた。めぐ姉が咄嗟に壁に手を伸ばすけど、それよりも前に男の拳がめぐ姉の脇腹に命中して、思いっきり壁に打ち付けられる。


「がはっ……!」


 めぐ姉が、息が漏れる声と共に血を吐いた。それを見た私は、即座に身体強化と部分強化で脚を強化して、思いっきり男を蹴った。


「むっ!」


 想定よりも私の蹴りが強かったのか、男が軽く吹っ飛ぶ。でも、すぐに下の段で着地した。そこに、魔力弾を連射する。一発一発がプロ野球選手が投げるボールくらいの威力がある魔力弾を、全身に受けているのに、男は一歩も押される事なく受け止めていた。


「【鎌鼬】!」


 魔力弾の中に『鎌鼬』を混ぜても皮一枚を傷つけるのが精一杯だ。めぐ姉の言う通り、もっと威力のある魔法が必要だ。


「いい加減鬱陶しい! 【炎地獄(インフェルノ)】!」


 魔力弾を受けながら、男が『炎地獄』を放ってきた。私は咄嗟に『防壁』を使うけど、着弾した瞬間に爆ぜた『炎地獄』の余波で押されて、階段の角に背中を打つ事になる。背中に痛みが走るので、即座に美玲さんの魔力を回して自然回復力を早める。

 でも、その間に男が私に向かって手を伸ばしていた。


「【爆破】!」


 男の服を起点に爆発を起こす。至近距離での爆発に男も一瞬怯んだけど、体勢を崩すことはなかった。


「遊びは終わりだ。大人しく捕まれ」


 そう言って男が、再び私に手を伸ばしてきた。その脇腹に杖が当てられる。男は、急に脇腹に押される感覚がしたからか、眉を寄せて自分の脇を見る。その時間が命取りになった。


「【氷地獄(コキュートス)】……」


 めぐ姉が零距離で『氷地獄』を当てる。魔法で相殺する事も出来ず、男は『氷地獄』を受ける事になった。


「ぐあっ……ああああああああああああ!!!」


 さすがと言うべきなのか、男は半身を凍らされるだけで済んでいた。だけど、凄まじい痛みが走るようで、大きく叫んでいた。その間に、私はめぐ姉に駆け寄って抱き抱えながら、塔を上がる。急いで、めぐ姉を助けないと。

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