学校での戦い
水琴が恵と合流している頃、表世界ではアリスが人の姿に変身していた。そして、近づいてくる敵を無詠唱魔法で爆殺していた。
そして、背後から飛んでくる魔法を魔力の壁で防ぎ、反撃に炎の弾を放つ。
「くっ……あの時よりも強くなっているだと……!?」
「私が修行をしないとでも思ったの? 救い難い馬鹿ね」
「貴様ぁ……!!」
アリスの挑発に対して、クライトンはすぐに反応を示した。そんなクライトンに、アリスは魔力弾を飛ばしていく。その牽制を、クライトンは魔力の壁で防いでいた。
(挑発にすぐに乗って、冷静に行動が出来ないのは、こいつの弱点ね。それにしても、水琴だけを裏世界に飛ばすなんて……恐らく、ヤツデの魔力を指定して裏世界に飛ばしたのね。それでいてクライトンがここにいるのは、私を釘付けにするため。ここで裏世界に戻れば、私も裏世界に行って妨害する事が分かっているから。という事は、裏世界に戦力が残されているはず。ジルの進言通り、恵を待機させておいたのは正解だったわね)
水琴が飛ばされた瞬間は、取り乱しかけたアリスだったが、すぐに冷静さを取り戻していた。裏世界にいる水琴は恵が保護してくれていると信じて、自分はクライトンとの戦いに集中するべきだと判断し行動している。
(クライトンが裏に行かなければ、裏世界にいる水琴は無事でいられる。恵には、そのくらいの技量がある。だから、私の仕事は、ここでクライトンを殺す事。躊躇いも慈悲もない。例え惨たらしい方法になったとしても殺す)
アリスは、クライトンに向かって突っ込む。クライトンは、アリスに向かって、地面から石の剣山を作り出した。アリスは、地面から自身を突き刺そうという剣山に向かって杖を振うだけで崩壊させた。クライトンが組み上げていた魔法を強引に破壊したのだ。
今の時代ではアリスにしか使う事の出来ない魔法破壊の技術だった。相手の魔法が構築されて完成するまでの間に、的確に構築中の魔法の弱点を突くことで破壊している。かなりの高等技術のため、水琴には教えていないものの一つだった。
クライトンがアリスに勝つことが出来ない理由の一つにもなっている。
「ちっ! 化物が!」
「化物になろうとしている馬鹿に言われたくないわね」
クライトンの目の前まで接近したアリスは、身体強化をしながら、クライトンを殴る。肉弾戦になれば、クライトンの方が有利となるはずだが、クライトンは背後に退きながら避ける。
「あら、受けないの?」
「どうせ、何かを仕込んでいるのだろう! 貴様のやりそうなことだ!」
「そう。【氷地獄】」
避けたクライトンに向かって、すぐに『氷地獄』を放つ。
「【炎地獄】!」
『氷地獄』に対抗するために、命中した対象を業火で焼く『炎地獄』をぶつける。対照的な魔法のため、互いに消滅する。その攻撃に合わせて、アリスがクライトンを蹴る。身長の差もあり、アリスの蹴りに反応しきれなかったクライトンは、蹴りを脇腹に受ける。
命中したその瞬間、クライトンの身体がバッドで打たれたボールのように吹っ飛び、地面をバウンドしていく。アリスは、蹴りと同時に足先から魔力弾を撃ちだして、蹴りと魔力弾による二重攻撃をしていたのだ。
アリスは、すぐに吹っ飛んでいったクライトンを追う。すると、正面から雷が飛んで来た。その雷は、アリスが放り捨てたカードの方に吸い込まれていく。カードの正体は、雷寄せの魔法道具だ。完全に雷を吸収して側撃すら起こさせないものだった。
そして、杖をクライトンに向けて、尖った石を次々に飛ばしていった。クライトンは、『防壁』で防ぐが、その分、アリスの接近を許す事になった。
アリスは、即座に『防壁』を回り込んで、クライトンの懐に潜り込んだ。中学生程の身長しかないアリスは、小回りが利く。
固く握った拳をクライトンの鳩尾向かって振う。クライトンは背後に跳んで避ける。それと同時に魔力弾をアリスに向かって放った。それに対して、アリスも魔力弾を撃って相殺した。
そして、今度はアリスの方が石の剣山を作り出して攻撃する。地面から次々に突き出されてくる石の杭に対して、クライトンは地面を破砕する事で相殺した。
「【氷霧世界】」
「くっ! 【灼熱世界】!」
再び正反対の魔法がぶつかり合い相殺される。
二人の攻防は、かなり派手な上、高威力の魔法がぶつかり合うという事もあり、早々に誰も手出しが出来なくなっていた。
(ちっ! 何なんだ! この前襲撃した時には、あそこまで無詠唱魔法で戦えはしなかったはずだ! この二ヶ月であそこまで鍛えたというのか!? 俺の百年以上の研鑽に、たった二ヶ月で追いついたというのか!!)
クライトンの計画では、既に水琴を奪い去っているはずだった。だが、未だに水琴を確保したという報告はない。さらに、今度こそは殺せると思っていたアリスが、二ヶ月前よりも遙かに強くなっているので、かなり焦っていた。
そんな焦りを覚えているクライトンに、お構いなしにアリスが攻撃を続ける。
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アリスとクライトンが戦闘を繰り広げている間、茜と美玲もクライトンの仲間と戦っていた。
突っ込んで来た敵の身体の一部を茜が凍らせる。そこに、すかさず美玲が魔力弾を撃ち込んで破壊する。上体の一部を失った事で相手は倒れた。
「思ったよりも多い……」
「だねぇ。師匠は思いっきり戦ってるみたいだけど、こっちも思いっきりやる?」
「駄目に決まってるでしょ。ここで『氷霧世界』なんて使ったら、他の人も巻き込むでしょ。生徒達もいるんだから、ちまちまと戦うしかないの」
「だよねぇ……というか、美玲ちゃんは、裏世界に行った方が良いんじゃない? 水琴ちゃんが怪我してるかもよぉ?」
「そのくらいは恵がどうにか出来るでしょ。私は、前線で怪我をした生徒を治療する必要があるから」
二人の戦場は、生徒達も少なくない。その中には、寧音や蒼の姿もある。生徒が怪我をしたところに駆けつけて、美玲が治療をしている間、その警護をするのが茜の役目だった。
「それ! 皆【出てこい】!」
茜は、収納魔法から取り出したキャンバスに魔力を通して、絵の具で出来た獣を解き放つ。そうして真っ白になったキャンバスで、近づいてきた敵をぶん殴る。すると、敵がキャンバスの中に閉じ込められた。
「んなっ!? な、何なんだ!」
キャンバスから驚愕の声が聞こえるが、茜はそれをガン無視してキャンバスを引き裂く。キャンバスごと切り裂かれて、キャンバスに封印された敵は息絶えた。
「趣味悪っ……」
「私だって趣味では無いよぉ! でも、これも立派な攻撃でしょ?」
「開発した時は正気を疑ったけど。向こうで倒れた! 行くよ!」
「うん!」
生徒の一人が身体を貫かれたのを見つけて、美玲が駆け出す。その後を茜が追い掛けていった。
そんな二人から少し離れた場所で、寧音と蒼も戦っていた。蒼は、持ち前の身体能力と身体強化によって、クライトンの仲間である男に急接近する。突然目の前に来られた事で、一瞬判断が遅れたところに、寧音の魔力弾が額に命中する。目の前に来た蒼に視線が向いて、その後ろで自分に杖を向けていた寧音から意識を逸らしてしまったのだ。
首が仰け反ったところに、蒼がナイフを突き刺し引き裂く。
「かはっ……!」
喉を大きく斬られた男は、呼吸が出来なくなり喉を押えたまま地面に倒れる。蒼は、倒れた男の首を身体強化した脚で踏み抜いて完全に息の根を止める。
「うっ……」
寧音は口を押えて込み上げた吐き気を飲み込む。
「大丈夫?」
蒼がナイフの血を拭いながら、寧音に確認する。蒼の方は平然としていた。まるで、いつも通りの日常を送っているかのような雰囲気に、寧音は安心感を覚えていた。普段通りの蒼がいるという事が、自分が死地に立っているという事を一瞬だけ忘れさせてくれているからだった。だが、次の瞬間には気を引き締める。自分が死地に立っているのは事実だからだ。
「うん……大丈夫。蒼にばかり、汚れ仕事をさせちゃってる自分に嫌気が差しただけ」
「ん。気にしない。殺される前に殺す。当たり前」
「頼もしいね。でも、ナイフなんて持ってたっけ?」
「この前の襲撃の後から持ち歩いてる。模擬戦では使わないから仕舞ってる」
「そうなんだ……【防壁】!」
会話をしている途中で、寧音が『防壁』を張る。そこに『氷槍』が飛んで来て命中する。着弾と同時に、蒼は動き出していた。『氷槍』を放った女の太腿を斬り裂き、膝を突かせたところで首を掻き切って倒す。
そして、即座にその場から移動して飛んで来た『炎弾』を避ける。そこに寧音が合流して、『石弾』を撃って牽制する。飛んでくる『石弾』を避けた男の首に、いつの間にか近づいていた蒼が乗り、身体強化と部分強化で強化した腕で首をへし折った。膝から崩れて倒れた男を放って、すぐに次の獲物に向かっていく。寧音はひたすら蒼を追って援護をする。
(水琴は無事かな。それにクラスの皆も……)
寧音は蒼の援護をしながら、水琴と水琴を守るために残ったクライスメイト達の心配もしていた。それでも目の前の戦闘には集中する。二人の戦いでは、模擬戦の成果が確かに出ていた。




