備え
水琴を寝室で寝かせた白の君は、白の間に戻ってきた。そこでは、茜が人に変身したアリスにキスをして魔力を調べていたところだった。
「ふぅ……師匠も問題なし!」
「全員問題ないという事か?」
「うん! それぞれの魔力だけだったよぉ」
「それなら良い。お前達が使えなくなるのは、かなり痛手だからな。水琴は、寝室で寝て貰った」
「ありがとうございます」
アリスは、白の君に頭を下げる。現状、水琴の保護者代わりになっているのはアリスと茜なので、水琴を助けてくれた事に礼を言ったのだ。
「これからが問題だ。第二封印が解けたという事は、クライトン達も動かざるを得ない。ここへの襲撃も考えられるだろう」
「白ちゃんの結界を越えてくるって事?」
「結界越えの方法なんてものは、いくらでもある。それは私の結界も例外ではない。破壊はされないだろうがな」
「一部生徒を帰しますか?」
「ああ。そうしてくれ。事情は全て話せ。水琴の事も全てだ。ここまで来て黙っている必要もあるまい。自分達が何故襲われるのかくらいは知っておいても良いはずだ」
「分かりました。そちらも手配しておきます」
冷音は、白の間を出ていく。白の君に言われた通りに準備を進めるためだった。
「アリスには、クライトンを任せたい。頼めるか?」
「はい。ですが、私も戦える時間は限られています。確実に殺せるかは分かりません」
「援護は用意するつもりだ。魔法使い達の招集もしているところだしな」
「ですが、本当に水琴の事を全て話すのですか?」
アリスの心配は常に水琴に関してだった。水琴がヤツデの魔力を持っており、それを狙ってクライトン達が襲い掛かってくる。これを知れば、水琴の存在を良く思わない者が出て来るのではと考えているのだった。
「ああ。水琴には悪いがな。残れば、クライトン達と戦う事になるかもしれないんだ。こちらも誠意を見せなければいけないだろう」
「……分かりました」
「忙しくなるぞ。戦場は、間違いなく学校敷地内になるだろうな。水琴には、この白の間に隠れて貰う。最悪は戦って貰う事になるだろうがな」
「分かりました。では、私もここに泊まります」
「ああ。そうしてくれ」
第一に優先するのは、水琴の無事だった。これは、この場全員の共通認識となっている。水琴を特別視しているという事もあるが、水琴の中のヤツデの魔力をクライトンに持っていかれる訳にはいかないという考えも大きかった。クライトンの思惑通りに事を運ばせずに、クライトンを永遠に消滅させる事が、アリス達の勝利条件になる。その勝利を目指して、アリス達も動き始める。
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翌日。私が目を覚ますと、師匠が説明をしてくれた。私の事情の全てを学校の生徒に伝えたという事とクライトンとの戦闘時は白の間に隠れるという話だった。
「ヤツデの魔力の事話しちゃったの?」
「それが協力を得るのに必要な事だったからよ。私も反対だったけれど、クライトンとの戦闘になれば、戦力は多く必要になる。白の君の考えも理解は出来るわ」
「そうなんだ……効果はあったの?」
「そうね。残る生徒もいるにはいるけれど、ほとんどは実家に帰る選択をしたわ。仕方ないわね。誰も好んで人殺しをしたいとは思わないもの」
さすがに、残ってくれる人の方が少ないみたい。それは仕方ない事だ。この戦いは師匠のいう通り人殺しをする事になる。裏世界でモンスターと戦うのとは大きく異なる。
「でも、残ってくれる人はいたんだ……」
「ええ。水琴を守るためという理由というよりも、悪の魔法使いを許せないという感じね」
「悪の魔法使い?」
「ええ。魔法を使って悪事を働こうという人間を許せないのよ。そういう正義に酔った人は多いわ」
「そうなんだ」
悪事を正そうという意志で戦う。確かに、そういう気持ちは大事だとは思うけど、それだけで戦えるのかは心配だ。死が近づけば、それだけ自分の意志なんて物が邪魔になるという事を私は良く知っている。だから、少し心配にもなった。
「私に出来る事は隠れる事だけなの?」
「歯痒いのは分かるわ。でも、水琴を守るのが今回の戦いなのよ。だから、水琴には隠れて貰った方が良いの。分かってくれるわね?」
「……うん」
それでは修行をした意味がないとも思ったけど、師匠の言うことも最もなので頷くしかない。私が修行をしたのは、もしもの時に備えたもの。それは、隠れている私が見つかった場合の事。だから、無駄ではないと自分に言い聞かせる。
「水琴には、ここで修行を続けて貰うわ。特に私の魔力を使う修行をね」
「うん。分かってる」
ヤツデの魔力に対抗するには、師匠の魔力を増幅するしかない。だから、師匠の魔力を増やす必要があるというのは分かっている。私も頑張らないと。
師匠と話していると、白が寝室にやって来た。
「起きたか。早速で悪いが、アリスと一緒に状況の説明を受けてもらうぞ」
「あ、うん」
師匠も一緒にという事は、師匠から聞かされたものとは違う事が話されるという事が分かる。
「まず、第三封印は正常に働いている。だが、恐らく第二封印よりも長くは保たない」
「それって、ヤツデの封印が解けるのが早まるって事?」
「そうだ。こちらの予測よりも遙かに早い。水琴がヤツデの魔力を御する前に封印は解けるだろう。水琴には、また負担を強いる事になる」
「うん。それは良いよ。仕方ない事だもん」
「すまんな。もう一つは、私達以外の戦力に関してだ。水琴がヤツデの魔力に体調を左右されないように結界を強化した。だから、水琴も気付いていないだろうが、小さなヤツデが大量に発生した。それに対して、魔法使い以外の戦力でも対応出来る事が判明した」
「銃とかで対応出来たって事?」
魔法使い以外の戦力となると、一番に考えられるのは銃になる。銃で対抗出来たというのは、かなり良い知らせだと思う。それだけ小型のヤツデが弱いのか、普通のヤツデも同じように銃などでも対抗出来るのかで、ちょっと変わる気もするけど。
「そういう事だ。国との協力関係は、かなりスムーズに進んでいる。魔法使いとの共闘も進める事が出来るだろうな。だが、今はクライトンだ。警察などに顔写真を配って警戒をして貰っている」
「えっ、写真とかあるの?」
「茜の車のレコーダーに映っていたもの鮮明化したものだ。人海戦術で、どこまで補えるか分からんが、ある程度追い詰められるだろう」
「そうしたら、ここに襲撃を掛けてくるって感じ?」
「ヤツデの力を確実に得ようと考えているのなら、水琴ほど邪魔な存在はないからな。クライトンの完璧主義なら可能性は高い。私は学校の要塞化を進める。水琴は、アリスの魔力を増やしておけ」
「うん」
白はそう言って、寝室を出て行った。学校の要塞化がどういうものか分からないけど、クライトンとの戦闘に備えるみたい。私も師匠の魔力を増やす。全ては、生き残るために。




