第二封印
結局その日の内に白への返事は出来ず、土曜日がやって来た。基本的に休みの日は、寧音達との模擬戦をしながらの修行になる。師匠に指導を受けながら、三人で模擬戦を繰り返して休憩時間になった。
「ふぅ……やっぱり魔法と近接戦の組み合わせは難しいや」
「無詠唱が出来れば、もっと戦いやすいんだろうけど」
「無詠唱難しい」
無詠唱の魔法が難しいのは、三人とも共通の悩みだった。近接戦が得意な蒼には、魔法を混ぜて戦わないと勝つことは出来ないので、特に私の寧音の悩みという感じだ。
「持久戦だけなら、得意なんだけどなぁ」
「体力だけ伸びてる感じだしね。二人は優れている部分があって良いけどさ。私は、そういうのがなくて平均的だからなぁ」
「ん。水琴は、魔力の選択と言霊もある。私より優れてる」
「私としては、蒼の方が優れてる感じがするけどね」
「お~い、そこは私を励ますところじゃない? 何で互いに褒め合ってるの?」
寧音が、ジト目で私と蒼を見てくる。私と蒼は互いに顔を見合わせる。
「まぁ、寧音なら大丈夫かなって」
「ん」
「私だって傷付くんだぞ!?」
寧音が両手を振り上げて怒ってくるので、私と蒼は背を向けて逃げる。寧音は両手を挙げたまま追い掛けてきた。本気で逃げたら、私と蒼は即行で撒けるのだけど、ちゃんと追いつくか追いつかないかくらいを維持する。ただの追いかけっこだけど、息抜きにはちょうど良い。師匠は呆れたような目で見てくるけど。
そんな修行を終えて、二人が寮へと帰っていくのを見送る。
「【清まれ】」
模擬戦で泥だらけになっていたので、言霊で身体を綺麗にしておく。
「言霊の扱いも慣れてきたわね」
「反動がないラインの見極めは難しいけどね。これは、白と寝たとき……」
話題に出した事で白の告白を思い出して顔が赤くなる。それを見た師匠がため息を零す。
「はぁ……あれから何日経っていると思っているの?」
「えっと……四日?」
「保留するにしても、大分長いと思うわよ。そろそろ返事をしたらどう? 答え自体は出ているのでしょう?」
師匠はそう言って、こっちをジッと見てくる。私は、その視線から目を逸らしてしまう。師匠の言っている事が正しいからだった。
「物事を先送りにしていったら、いずれ後悔する事になるわよ」
「う~ん……でも、私は白と違って転生出来るわけじゃないし……白の願いに応える事は出来ないと思っちゃうんだよ」
「なら、無限転生をしてみる? 材料自体は集められるから」
「えっ!? そ、そうなの!?」
「えぇ。それで解決出来る内容なのでしょう?」
師匠からの提案は、私の悩みを解決するものだった。白の告白に返事を出来なかった理由の一つが、私と白の生きる時間だ。白は無限に転生をし続けるけれど、私は一度死ねば終わる。だから、ずっと一緒にいて欲しいという白の願いを叶える事は出来ないと考えてしまっていた。
でも、師匠が使っている無限転生が使えるのであれば話は変わってくる。ちゃんと白の願いを叶える事が出来る。
「うん」
「でも、良いの? 無限に続く人生というのは、正直辛いこともあるわよ?」
「うん。それは頑張って乗り越える。師匠のおかげで、乗り越えられないものはないって学んだしね」
裏世界での経験や師匠の短命の呪いについての話など、辛い経験というものがどういうものなのかは理解している。そして、それが決して乗り越えられないものではないという事も知っている。
楽観的と言われるかもしれないけれど、それが師匠から学んだ事の一つだ。
「そう。なら、もう止めないわ。材料集めは任せなさい。だから、水琴は、白の君のところ行ってきなさい」
「へ? 今から!?」
「善は急げよ。ただでさえ待たせているのだから、行ってきなさい」
「う、うん!」
師匠に言葉で背中を押されて、私は学校へと走る。でも、学校に近づくにつれて、少しずつ速度が落ちていった。足取りが重くなっているというわけではない。急に動悸がし始めたからだ。
「ヤツデの魔力が暴れてる?」
最近は常に師匠の魔力で抑えつけているヤツデの魔力が、その内側で暴れていた。それが動悸として表に出ていた。これまでの小さなヤツデが生まれた時のような感覚ではない。それよりも暴れ方が激しい。
「……封印が解けた?」
まだ全部の封印が解けたとは思わない。第二封印が解けたという風に考えるのが自然だ。取り敢えず、ヤツデの魔力が身体を壊さないように師匠の魔力で念入りに抑えつけつつ、美玲さんの魔力で身体強化をして身体を癒す。
そして、さっきまでとは別の理由で白の間へと急いだ。白の間に入るのに、ノックをしないといけないけど、今回はその時間も惜しいと思い、扉をすぐに開けた。
「白!」
「ん? 水琴か。どうした?」
椅子に座っている白の元に急ぐ。白の傍には冷音さんがいて、何かの資料を持っていた。つまり、仕事をしていたという感じかな。
「ヤツデの封印ってどうなってる?」
「冷音」
「確認します」
私の質問だけで、何を言いたいのか分かったみたいで、すぐに確認を取り始める。でも、すぐに白の方が何かに気付いたように顔を上げた。同時に、私の中のヤツデの魔力がさっきまで以上に暴れ始めて、膝を突く。
「うっ……」
「水琴!」
すぐに白が駆け寄ってきて、身体を癒してくれる。白が回復してくれている間に、私は慎重に師匠の魔力でヤツデの魔力を抑えつける。師匠の魔力の下から私の身体を傷つけてきている感じが強い。白の回復のおかげで何とか意識を保てている感じだ。
私がヤツデの魔力を抑えつけている間に、確認をしに行っていた冷音さんが戻って来た。
「白の君。第二封印が解かれました」
「ああ、私も気付いた。それに、水琴の状態からも分かる。すぐに、水琴のようにヤツデの魔力を植え付けられた者がいないかを確認しろ。そして、最後の第三封印の状態の確認だ」
「既に手配しています」
「よし。水琴、大丈夫か?」
「う、うん……ありがとう……」
段々とヤツデの魔力が落ち着いてきた。同時に、軽く咳き込むと手に血が付いていた。本当に身体の内側がやられていたみたい。今は、白のおかげで治っているとは思うけど。
「美玲を呼んできます」
「頼む」
冷音さんが美玲さんを呼ぶために白の間を出て行った。その間に、美玲さんの魔力で身体強化をして自然回復力を上げておく。
「体調に変化はあるか?」
「ちょっと疲れたくらいだから、大丈夫。でも、第二封印が解けたって大丈夫なの?」
「大丈夫ではないな。残りの第三封印もいつ解けるか分からん。アリスの魔力は増やしておいた方が良いな」
そんな短い話をしていると、すぐに美玲さんを連れた冷音さんが戻って来た。美玲さんは、白に軽く頭を下げると、すぐに私の身体に手を触れて診断を始める。
「……内臓の一部と骨、筋肉が傷付いていたみたい。すぐに治療をしたおかげで、大事には至ってないかな」
「白のおかげだね」
「ただ魔力の方は茜がいないと」
「呼ばれたから来たよぉ!」
いつの間にか茜さんがやって来ていた。その肩には師匠が乗っていて、すぐに飛び降りて私の方にやって来た。
「水琴、大丈夫?」
「うん。ちょっと疲れてはいるけど、身体自体は治ってるって」
「治っているという事は、怪我はしていたという事ね」
「それに関しては、私が説明するから。茜、水琴ちゃんの魔力を調べて」
「了解!」
茜さんが私の背中に手を回してキスをしてくる。さすがに、何度もやられているので完全に慣れていた。その間に、美玲さんが師匠に私の状態を説明していた。
「ちょっとだけ水琴ちゃんの魔力が傷付いているくらいかなぁ。でも、すぐに治る範囲だよぉ。それとヤツデの魔力が増えてるねぇ。白ちゃんの結界を突き抜けて魔力が入ってきたのかなぁ?」
「そうだな。大部分は弾いているが、一部は侵入しているだろう。ついでだ。茜は、アリス達の魔力も調べておけ」
「はぁい」
茜さんはそう言って、即座に美玲にキスをしに向かった。美玲さんは、若干抵抗していたけど、検査は必要と師匠に諭されて渋々受け入れていた。
魔力の検査を終えた私は、その場で立ち上がろうとしたけど、蹌踉けて尻餅を付いてしまった。
「自分で思っているよりも、体力を消費しているのだろう。それだけヤツデの魔力は人に合わないという事だ。今日は、奥の寝室で休め」
白はそう言うと、私の身体を浮かせて奥の寝室へと連れて行ってくれた。そのままベッドに寝かされる。
「寝て休め。それと、恐らくクライトンも動き始める。覚悟は決めておけ」
白はそう言って寝室を出て行った。扉も閉められたので、灯りもなく暗い空間になる。何かする事もないので、白に言われた通り眼を瞑って眠りにつく。




