寝起きの告白
翌日の朝。師匠の目覚まし無しで目を覚ますと、白のつむじが見える。これは昨日の夜に目を覚ました時と同じだ。何となくつむじに鼻を当てて深呼吸をしてみる。花のような少し甘い良い匂いがする。師匠の身体に顔を突っ込んだときとは、また別の感じだ。
「人の頭を嗅ぐな」
「あっ、起きた? おはよう、白」
目を覚ましたらしい白は、より私の身体に近づいた。ほとんど胸に顔を突っ込んでいる状態だ。
「おはよう」
ちょっとくぐもった声で朝の挨拶をしてくれる。ただぎゅっと私の制服を掴んで放してくれない。そこで一つ気付いた事があった。
(……制服そのままだった。まぁ、魔法で皺を伸ばせば大丈夫だよね)
そう思って気にしない事にした。ここにお母さんがいたら、全力の拳が飛んでくるに違いないけど、この場には居ないので大丈夫。
「そういえば、もう疲れは取れた?」
「……まぁまぁだな。だが、久しぶりに熟睡出来た。礼を言う」
「良いよ良いよ。皆のために頑張ってくれている訳だしね。こんな事で良いなら毎日でも出来るし」
「では、毎日頼むとするか」
「……師匠と相談しないとかなぁ」
師匠との修行もあるので、毎日ここに通って平気かは確認しなといけない。
(まぁ、師匠の事だから、了承はしてくれるだろうけど……)
白が安眠を保てるのであれば、このくらいは寧ろやるべきとか良いそうではある。それくらい白は頑張ってくれているし。
「水琴」
「ん? どうしたの?」
「水琴は、恋仲になりたい人はいるのか?」
「へ?」
唐突な恋バナに、少し驚いてしまう。まさか、朝一番でする事になるとは思わなかったからだ。
「う~ん……今はいないかな。まぁ、これまでもなかったけど。それにしても、急にどうしたの?」
「うむ。こういう事は真っ直ぐ言う方が良いだろうな」
そう言って白は私から離れて、ベッドの上で正座する。何となく私も同じように正座をした。
「水琴。私は水琴の事が好きだ。何事もひたむきに挑み、自己研鑽を欠かさず、周囲への気配りもしている。そんな水琴が好きだ。水琴といると、心が癒される。心の底から安心出来る。自分を偽らず、気を張る必要もない。私が私らしくいられる時間だと思える。まだ出会ったばかりで、水琴の事を全て知られたとは思わない。だから、これから水琴の全てを見せて欲しい。そして、私の支えになって欲しい……ずっと、一緒にいて欲しい」
最後方になると、白は少し照れながらそう言った。これを聞いたら、白の気持ちが本気なのだと分かる。その気持ちを理解出来てしまったが故に、顔が真っ赤に染まっているのが自分でも分かった。
「あっ……えっと……」
告白される経験がなかったがため、私はすぐに返事をする事が出来なかった。そもそもどう返事をすれば良いのかも分からなかった。白の事は私も好きだ。でも、それは友人としての好きだったから、急に恋愛的な好きという気持ちをぶつけられると、頭が真っ白になってしまう。
「まぁ、すぐに返事をしなくても構わない。水琴なりに気持ちに整理が出来たら返事をくれ」
「あ、うん」
私が返事をすると、白は優しく微笑んだ。そして、私に手を向けると、制服の皺を伸ばしてくれた。
「これで良いだろう。そろそろ教室にいかないといけないだろう」
「うん。ありがとう」
白にお礼を言ってから、寝室を出る。すると、白の間に冷音さんがいて、思わず飛んで驚いてしまった。
「おはようございます」
「あ、はい。おはようございます……」
「よく眠れましたか?」
「は、はい」
「それは良かったです。朝ご飯は、まだでしょう。こちらをお召し上がりください」
冷音さんは、サンドウィッチが入ったお弁当を渡してくれた。どうやら、冷音さんが手作りしてくれたらしい。私が白と一緒に寝ていたから、朝ご飯を食べる余裕はないだろうと予想してくれたのかな。
「ありがとうございます!」
「はい。頑張ってください」
冷音さんに頭を下げてから、私は教室へと向かっていった。
────────────────────
水琴を見送った冷音は、そのまま寝室の中に入っていく。寝室では、白の君がベッドの上でうつ伏せに突っ伏していた。
「どうかなさいましたか?」
「ん? 冷音か。水琴に告白した」
白の君は、うつ伏せの状態のまま答えた。そのため、多少くぐもった声になっている。
「それは……時期尚早かと思いますが」
「一緒に寝ている時点で、友人としては、最大まで仲良くなっているだろう。それなら、もう告白してしまっても良いと思ったんだ」
白の君は、友人としてはこれ以上仲良くなる事はないだろうと考えていた。現状で親友の域に達していると考えた結果、後は水琴に告白するだけだと判断し、正面から告白したのだった。
「そうですか。それで水琴さんからは、どのような返事を?」
「まだ受けていない」
「保留となっているわけですね。水琴さんの性格上、すぐに返事をすると思いましたが」
「突然告白したから、向こうも困惑したんだろう。だから、気持ちの整理が付いたら返事をくれと言っておいた」
「そうでしたか。頑張りましたね」
冷音は、ベッドに腰掛けて白の君の頭を撫でた。白の君は、全く抵抗せずに受け入れている。白の君としては、国に対して働きかけるよりも、水琴に告白する方が緊張していた。冷音が来た時から、ベッドにうつ伏せになっていたのも身体の力が抜けたためだった。
ただ、告白が終わったからといって、白の君の緊張が終わるわけじゃない。真の意味で安堵できるのは、水琴からの返事が来てからだ。
────────────────────
教室に来た私は、冷音さんから貰ったサンドウィッチを食べていた。そこに師匠がやってくる。
「あっ、師匠。おはよう」
「おはよう。ちゃんと休めたのかしら?」
「うん。ぐっすりと眠れたよ」
「そう。それなら良かったわ。でも、何か悩んでいるようね?」
師匠は、私が悩んでいる事を即座に見抜いてきた。実際、サンドウィッチを食べながら、白の告白への返事を考えていた。
「うん。ちょっとね」
『告白の返事かしら?』
「ごふっ!?」
唐突に念話で確信を突かれて咽せてしまう。そんな私に、師匠が収納魔法から水筒を取り出して渡してくれた。すぐに中の水を飲んで落ち着く。
「ふぅ……何で分かったの?」
私は小声で師匠に確認する。
『大体分かるわよ。水琴が悩む事で、昨日今日起こりうる事を考えればね。因みに、私に相談しても無駄よ。しっかり悩みなさい』
「むぅ……」
こればかりは師匠の助けを受ける事は出来ないらしい。確かに、これは私が自分でしっかりと答えを出さないといけないことかも。
そんな風に師匠と話していると、寧音がやって来た。
「おはよう。寝坊でもしたの?」
「おはよう。う~ん……まぁ、そんなところ」
寧音は、私がサンドウィッチを食べているのを見て、寝坊で朝ご飯を食べる時間がなかったと考えたらしい。まぁ、これだけを見たら、そう考えるのも無理は無い。ただ、白と寝ていたと言うのは、少しアレだなと思い訂正はしないでおいた。
寧音も来てしまったので、師匠との会話は終わる。どのみち返事はくれなかったと思うけど。その日の授業は、あまり身が入らなかった。
早く返事をしないといけない。だから、しっかりと考えないと。




