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猫魔女と弟子と魔法の世界  作者: 月輪林檎
魔法学校入学

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化物の正体

 寝ている水琴、寧音、蒼を茜の屋敷にある水琴の部屋に寝かせたアリスと茜は、すぐに学校の方に移動した。校舎内に入り、まっすぐに白の間まで移動する。白の間には、白の君、冷音、美玲が待っていた。


「さっさと報告しろ」


 白の君の声は、かなり鋭く刺々しいものだった。それだけ怒りを内包しているという事だ。アリスと茜は、幽霊退治以降に起きたクライトンの襲撃を報告した。


「なるほどな。アレの力を文字通りの意味で我が物にすると……馬鹿が。人の器に収まるものではないだろうに」

「そういった調整をしてるっぽいけど?」


 茜の質問に白の君は首を横に振った。


「無駄だ。人間に出来る調整で受け入れられるような存在じゃない。良い機会だ。お前達だけなら話しても良いだろう」

「どういう事でしょうか?」

「アレ……ヤツデを含めた全ての化物に共通する事だ。聞く覚悟がないのなら、ここから出て行け」


 この言葉で出て行く者は一人もいなかった。ここまで何度も転生を繰り返しているので、この程度で臆するような事はないのだった。


「今日話す事は、他言無用だ。水琴にも話すな」

「分かりました」


 代表してアリスが返事をする。これに関しては、他の面々も同じ気持ちだったので、誰も異を唱える事はなかった。


「ヤツデを含めたアレら化物の正体は、変異した人だ」


 白の君の告白に、全員が目を見開く。


「自然発生したものではないという事ですか?」


 アリスの確認に、白の君は頷いてから答える。


「そういう事だ。魔力と裏世界の存在が、自然発生したという嘘を信じさせやすくさせた。加えて、私が分からないと言えば、それも信じるだろう。変に私を崇めているからな」


 これには、アリス達も納得せざるを得なかった。魔法使い達の認識では、白の君は神に近い存在となる。だからこそ、白の君と話す事などを畏れ多いと感じる者が多いのと同時に、白の君の言葉は絶対という認識があるのも事実だ。これらが、化物達に関する嘘を事実と認識させる事が出来た理由に繋がるからだ。


「変異の理由は何でしょうか?」


 冷音は、人が化物へと変異した理由を求める。急に変異したと言われて、納得は出来ても理解は出来ない。どうしても何故が残る。それを知りたいと思うのは、当然の事だった。


「呪術の失敗だ。発生当時は、魔法が広まりだしてから、しばらくした時だったか。崇められている私を殺したい。そう思う勢力があった。自分達が私の立場に立ちたいという欲求を持っていたみたいだな。そこで、私を呪殺しようとしたわけだ」


 呪殺。呪いによる殺害。方法としては多岐に渡るが、直接的に命を奪うという呪術も存在している。それだけ難易度の高い呪術となるので、現在でも使用される事はほぼない。


「当時の私も、魔法や魔術に対する防御は、基本的に展開し続けていた。だから、魔法、魔術、呪術などは、威力が異常なまでに高くなければ防御出来る。まぁ、それが出来るような奴は一人もいなかったがな。そこで、奴等は同時多発的に呪殺用呪術を使用しつつ、源泉の魔力を丸ごと使うという手法を使ってきた」

「源泉の魔力をって、結構危なくない?」

「現在の認識では、そう考えるのが普通だろうが、当時ではそこまでの認識はなかった。だが、失敗の直接的な原因ではない。そもそもが破綻していた呪術だったんだ。呪殺自体が成功するはずもない。破綻した呪術は、源泉の魔力を吸い暴走した。周囲十キロの命を吸い取り、術者に集約された。何千もの魂が一人の人間の中に押し込まれた結果、肉体が変異した。それが化物共だ」


 結論を聞いたアリス達は、ただ黙っていた。その中で、アリスは思考を巡らせる。


(人の魂……転生は、魂のない身体に自分の魂を移す事で成り立つ。魂のある状態の身体に転生した人は、自分が誰なのか分からなくなり、自我を保てなくなったわ。それだけ、魂の共存というものが危険というのは分かっている。でも、肉体の変異は聞いていない。魂が二つだけだから? いや、恐らく、魂の共存だけじゃなくて、発動しようとしていた呪術が原因になっているのね)


 白の君は、アリスのその様子を見て、何を考えているのかを察した。長年の付き合いもあり、相手の思考の癖などは白の君も見抜いている。


「使わそうになっていた呪術の内容は、魂の削り取りだな」

「魂に関連する呪術ですか……という事は、それも原因ですね」

「そうだな。間違っても再現しようとするなよ?」

「しません。クライトンの考えが甘い事は理解しました。ヤツデを吸収するという事は、その中の魂も身体に取り入れるという事だから。クライトンもヤツデの一部になって終わるという事ですね」

「そういう事だ。だが、ここからが問題だ」


 白の君が話そうとしている問題に、アリス達も気付いた。


「仮にクライトンがヤツデを取り込もうとするとして、その目印になるのは、ヤツデ自身の魔力。現状、ヤツデの魔力を持っているのは、クライトンと……水琴。この状態のまま吸収を発動すれば、ヤツデはクライトンだけでなく水琴の中にも入っていく事になる。そうですね?」

「ああ。可能性は高い。あくまで予測でしかないがな。そうなれば、水琴も死ぬ事になる。水琴自身に関わる事だが、これは絶対に話すな。手法を広めたくない」

「分かっています。同時に、早急にクライトンを殺し転生させないようにしないといけない事も。あるいは、水琴からヤツデの魔力のみを取り出す方法を模索しないといけないという事も」

「そういう事だ。冷音」

「探らせます」

「すまないが、私は戦闘で動く事は出来ない。だが、政府に圧を掛ける事は出来る。魔法とヤツデの存在に加えて、クライトンのことまで伝える。大々的に動けるようにしておかねば、本当に不味い事になりかねんからな」

「はい。お願いします。こうなれば、水琴は外に出せませんね」

「ああ。しばらくの間、水琴は外出禁止だ。この中なら、私の結界で水琴を守れる」


 こればかりは仕方のない事だった。現状、水琴を外に出せばクライトンに察知される。だが、白の君の結界の中であれば、クライトンの察知からは隠れる事は出来る。


(だけど、これも一時しのぎ。クライトンは馬鹿だけど、頭が悪いわけでも察しが悪いわけでもない。白の君の庇護下にいるという事はバレる。この場所もいずれは見つかる。その時までに水琴に自衛の術と覚悟を決めさせる必要があるわね)


 アリスは、水琴にどう話すべきかを考える。ヤツデの事は話すことは出来ない。アリス自身、いやこの場に居る全員が、水琴が勝手に話すような子ではないと知っている。だが、それでも化物が増える可能性を広げるわけにはいかなかった。


「時間は限られている。クライトンがヤツデの封印を弄る可能性も残っている。すぐに行動するぞ」

『はい』


 水琴を守るための戦いが始まる。それは同時に、世界を守る戦いにも繋がる。

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