幽霊退治
目を覚ますと、車は既に駐まっていた。
「起きたわね。時間的にもちょうど良いわ」
師匠が私の膝の上でそう言う。時間を確認してみると、夜の十一時くらいになっていた。車の外には、ボロボロの廃屋がある。
「あれが破屋?」
「そうね」
「何で撤去しないんだろう?」
「色々と事情があるのよ」
「幽霊は?」
「ちょうど良いわね。一旦魔力視の修行をしましょうか」
「時間は大丈夫なの?」
「大丈夫だよぉ。まだ幽霊は来てないからぁ」
茜さんもそう言ってくれるので、魔力視の修行を始める。
「魔力を目に集中させなさい。ただし、そこまで多くなくて良いわ。部分強化よりも少なくて良いわ」
「うん」
言われた通りに、目に魔力を集中させる。すると、何かもやもやとした視界になっていく。
「もやもやする」
「ピントが合っていないわね。魔力を目全体に広げなさい」
「うん」
再び言われた通りにしてみると、今度は普通の視界に戻る。たださっきまでは見えなかったものが見えるようになっていた。
「さっきの靄が、師匠や茜さんから出てるよ?」
「それが魔力よ。私と茜で違いがあるのは分かるかしら?」
「……ううん。分からない。どっちも同じ感じがする」
「魔力の区別が付けられるようになるのは、まだ先かなぁ?」
「そうね。微調整が必要になるから、そこはまた今度にしましょう。その状態で廃屋を見てみなさい」
魔力視を維持したまま、廃屋を見ると、さっき師匠と茜さんから見えていたような魔力が出ている事が分かった。
「廃屋自体が魔力を持ってるの?」
「ううん。違うよぉ。あれは、幽霊の魔力。廃屋に住んでいるから、廃屋自体に染みついちゃったものだねぇ」
「そんなことがあり得るんですか?」
「幽霊の魔力は特殊だからねぇ」
「そこは後で良いわ。廃屋の魔力が、どこかに伸びているのは見える?」
「う~ん……あの細いやつ?」
ちょっと見えにくいけど、廃屋が纏っている魔力から細くどこかに続いているのが分かった。
「あれが幽霊に繋がっているのよ。そこから幽霊の位置を辿る事も出来なくはないのだけど、魔力自体が細いから見失いやすいのとあの魔力を通って一瞬で廃屋まで移動出来るから、あまり良い手段ではないのよ」
「ふ~ん……じゃあ、寧ろこうして待ち伏せするのが一番って事?」
「そういう事よ。そろそろ寧音と蒼にも起きて貰わないといけないわね」
師匠は私の身体を経由して後部座席に行くと、二人の頭に乗って起こしていく。
「んぐっ!?」
「ん……」
二人を起こしてきた師匠が戻ってくる。
「二人も起きたねぇ。じゃあ、幽霊退治を頑張ってねぇ。天狗の隠れ蓑は忘れずにねぇ」
「あっ、師匠はどうするの?」
「普通に傍にいるわよ。それを着ても、私には見えるから」
「そうなの?」
「ええ。波長を合わせれば見られるわよ。ちょっとコツがいるから、水琴には無理だけれどね」
「そうなんだ。もしかして、茜さんも?」
「うん。出来るよ」
改めて、二人との技量の差を思い知らされる。波長を合せると言われても、どういう事なのか全く分からないし。
「じゃあ、安心かな」
私達は天狗の隠れ蓑を着けて、車を出る。師匠も後に続いて降りてきた。
「そういえば、天狗の隠れ蓑って、幽霊にも効果があるの?」
「無いわね。言ってしまえば、幽霊と同じになるようなものだもの」
「そうなんだ。じゃあ、あっちに見られたら、警戒しないと駄目だね」
「そういう事よ」
いつ幽霊が出て来るか分からないので、先に杖を出しておく。寧音と蒼も同じように杖を出していた。
「二人は魔力を見る事は出来るの?」
「出来るよ。区別は付けられないけど」
「同じ」
二人も魔力を見る事は出来るみたいだから、幽霊がどの方向に行っているかは分かると思う。
「どうやって戦う?」
「水琴には、魔力弾で牽制して欲しいかな。出来れば、当てて弱らせて。そこを私と蒼で『除霊』を撃って、退治するって感じ」
「魔力弾で良いの?」
「『浄化』でも良いけど、魔力弾でもある程度通用するし、水琴の魔力弾は速いし正確だから、逃がさないためにもね」
「分かった」
「逃げたら?」
「その時は水琴と蒼で追っていって、こっちに誘導して。私は、魔力を伝って戻って来た時のために、ここで待機してる」
体力お化けの二人が追う役割で、そこまで体力がない寧音が待ち伏せするというのは理に適っている。だから、これに対して、私と蒼から異論はない。ここは私達だけで対応させるためか、師匠は何も言ってこない。
皆で待機していると、魔力が伸びていた方から何かが飛んで来た。
「あれ?」
その何かは人型っぽいのだけど、半透明な感じなので、普通の人ではないと分かる。見たところおじさんっぽい。
「えっと……多分そう。伸びている魔力が繋がってるから。廃屋に入られる前に攻撃しよう。廃屋の中だと別の危険があるから。水琴、幽霊を落とせる?」
「分からないけど、やってみる。それじゃあ、行くよ」
「うん」
「ん」
身体強化と部分強化で身体と足を強化して、呑気に飛んでくる幽霊の上に向かって跳ぶ。狙い通り幽霊の上に移動出来た。唐突に自分の上に人が来たからか、幽霊は呆けた顔をしている。そこに、連続で魔力弾を撃ち込む。
『うぎゃぁ!?』
全弾直撃した幽霊は地面に吸い込まれるように墜落していった。そこに先回りしていた寧音と蒼が、杖を向ける。
「【除霊】!」
「【除霊】」
仄かに黄色く光る光球が幽霊に命中して浸透していく。すると、幽霊の身体が四肢の先端から光の粒となりながら消え始める。その自分の姿を見た幽霊は、目を大きく見開いた。
『うぎゃああああああああ!! か、身体が消えていくぅ!? わ、私の覗き生活がぁ!!』
そう叫んで幽霊が消えていった。二人の傍に着地して、私達は顔を見合わせる事になった。互いに互いが思っている事がよく分かったと思う。
「ちょっと可哀想かと思ったけど、除霊して正解だったね」
「完全に同意」
「ん」
魔力弾を大量に叩き込んだ時は、ちょっとやり過ぎかとも思ったけど、最後の断末魔を聞いて、その考えはなくなった。あれは消えるべき存在だ。
「それにしても、呆気なく終わったね。討伐系って、こんな感じなの?」
「さぁ……? でも、これは上手くいっただけって考えた方が良いんじゃない? 油断したら死ぬって何度も言われてるし」
「まぁ、それもそうだね。取り敢えず、師匠達の方に戻ろう」
「うん」
「ん」
幽霊退治は案外呆気なく終わった。でも、討伐系の仕事が、毎回今のようにいくとは限らない。だから、寧音の言う通り、これはただ上手くいっただけだと思う事にする。次の時に油断しないようにするためにもね。




