車の中での軽い授業
茜さんの車は、目的地に向かうために高速道路に入って走っていた。
「そういえば、皆、今回の仕事の内容は頭に入ってる?」
茜さんは運転しながら話を振ってくる。雑談というよりも、私達が仕事を理解しているかどうかを確認するというのが目的っぽいかな。
「廃屋に棲み着く幽霊の除霊です」
「除霊方法は?」
「えっと……『除霊』か『浄化』の魔法を使う……んだったはずです」
ここら辺は自分で復習した内容なので、正しいかちょっと心配になった。
「正解! ただ、基本は『除霊』だけねぇ。『浄化』は、悪霊とかになっている時に『除霊』が一回で効かない事があるから、先に弱らせるために使うものだねぇ。どちらかと言うと、『浄化』は呪いを解くために使ったりするかなぁ」
「そうなんですか?」
「うん。でも、『浄化』で解ける呪いは、大した事ない呪いばかりだから、重い呪いには使えないかなぁ」
茜さんの言葉から、短命の呪いには効かないという事が分かる。
「それじゃあ、幽霊についてどうかなぁ?」
「実体を持たない人の魂で、基本的に人が集まる場所から離れる傾向があります。人に取り憑いたり出来る幽霊は少なく、基本的に特定の場所に留まる地縛霊か放浪霊になるで合ってますか?」
これには寧音が答えた。答えが合っているかどうか心配みたい。
「うん。正解! 気を付けないといけないのは、傾向があるだけで、普通に街中にいたり、人の多い場所に地縛霊として存在している事もあるってところかなぁ。それと守護霊の存在だね。人の傍にいる幽霊の中には、ただ取り憑いているわけではなく、守護霊となっている幽霊もいるの。見分け方は、幽霊が持つ魔力を見て、取り憑いている人と同じ魔力だったら守護霊だよぉ」
「魔力を見るって、どうすれば良いの?」
まだ習っていないので、師匠を見る。
「部分強化と要領は同じよ。目に魔力を集めるの。ただ、最初は気持ち悪くなるだろうから、ここではやらない方が良いわね」
「分かった」
これは後々ちゃんと習う事になるかな。今は気にしないでおこう。
「守護霊以外の幽霊だと、人に取り憑いていたらその人の生命力を奪い続けちゃうんだよねぇ。だから、そっちは倒さないといけないんだけど、人前で魔法を使う訳にはいかないからねぇ」
「そういう時に天狗の隠れ蓑ですか?」
「正解! 天狗の隠れ蓑を着けていると、人から認識されにくくなるから、外での活動がしやすい! ただ、大暴れしたり人に強くぶつかったりしたら、向こうからもこっちを認識出来るようになっちゃうから気を付ける事! だから、天狗の隠れ蓑を着けていても、基本的に人混みの中で魔法は使わない方が良いんだよねぇ。後は、魔法の正確性を上げるのが重要かな。水琴ちゃんが毎朝してる射撃訓練がこれに当たるね」
「なるほど……」
「それじゃあ、幽霊退治で気を付けないといけない事はなぁんだ?」
これには、私と寧音も頭を悩ませる。実際に幽霊退治をしたわけではないので、はっきりとした答えが思い浮かばないからだ。
「幽霊に取り憑かせない。身体を乗っ取られるかもしれないから。除霊できる時に除霊する。幽霊は普通に逃げる事が多い」
「おぉ! 正解!」
答えたのは蒼だった。しかも、ちゃんと正解している。
「よく知ってるね?」
「家で習った」
「へぇ~」
そういう討伐を主とした家なのかな。前にも身体を鍛えたのは、そういう家だったからって言っていたし、ちょっと蒼の家が気になる。でも、そこを深入りするのは止めておこうかな。深入りして良いのかも分からないし。私だって、ヤツデの魔力を持っているという事は絶対に秘密にしたいし。
「因みに、除霊方法は今言った方法以外にもあるわ」
「そうなの?」
「ええ、隣のジルが使うものがね」
茜さんが使うもので、真っ先に思い付いたのは口だった。魔術を使う姿や絵を描く姿よりもキスをされている事の方が多いからだ。でも、すぐに絵画魔術の方かと気付いた。
「絵画魔術? でも、どうやって除霊するの?」
「絵画魔術で、幽霊を絵画に封印して焼くんだよぉ」
「でも、幽霊の絵を描いたりしないといけないんじゃ? 戦う場では無理なんじゃないですか?」
幽霊と戦っている間に、絵を描いて封印するというのは無理がある気がしてならなかった。
「う~ん……何て言ったらいいかな。別に幽霊の絵を描く必要は無いんだよねぇ。描くのは、封印魔術の魔法陣。それを描いたキャンバスを幽霊に叩きつけて封印するんだぁ」
「使い方合ってます?」
「合っているわ。他の手順だと面倒くさいのよ。戦闘中だから、手っ取り早い方法が好まれるのよね。封印した後は、絶対に焼かないといけないし、封印する対象によって色を変えないといけないって点だけが面倒くさいわね」
「へぇ~……じゃあ、色々な色で描いたのを用意しておけばオッケーって事だね」
「そうね」
幽霊の退治方法も色々とあるみたい。基本は『除霊』を使うって感じだと思うけど。
「さてと、皆、そろそろ寝ておきなぁ。戦いは夜中になるからねぇ」
このまま行けば、夜中に目的地に着くみたい。幽霊との戦いは基本的に夜中になるのかな。幽霊と言えば夜ってイメージもあるし。
(もしかしたら、夜中に行動しても補導されてないようにって意味で天狗の隠れ蓑があったりもするのかな)
そんな事を考えながら、言われたとおり目を閉じて眠る。学校で普通に授業を受けた後だからか、すんなりと眠る事が出来た。
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水琴、寧音、蒼が眠りについたのを確認して、アリスは茜に念話で声を掛ける
『この仕事の危険性はどのくらいなの?』
これに対して、茜も念話で答える。
『貼り出された時期とかから考えて、そこまで危険ではないよぉ。ただ悪霊化してる可能性も残ってるから、ちょっと危険かもって感じかなぁ』
『そこら辺は調べてから貼り出さないのね』
『さすがに、刻一刻で変わる状況を逐一書き換えるのは難しいからねぇ。そういう監視網は、アレとかに使われてるよぉ』
『そういう事ね。ただこの仕事で、少し懸念があるのだけど』
アリスの言葉に、茜は前を見たまま頷いた。運転をしているので、横を向く訳にもいかないからだ。その事をアリスも理解しているので、自分の言葉で頷いた事に、すぐ気付いた。
『水琴ちゃんの魔力でしょ? アレの魔力が幽霊に反応するか、その逆があるかもって事だよねぇ』
『ええ。今回は、それを探りたいとも思っていたのよ。水琴には悪いけれどね』
『大事な事だもん。仕方ないよぉ。師匠が言いたいのは、私が最大限サポートしろって事でしょ? そこは教師として、しっかりとするから安心してぇ』
『それなら良いわ。私も水琴の傍にいるから、寧音と蒼のことも頼むわよ。あの子達は水琴の事情を知らないから』
『うん。でも、師匠も無理はしないでね』
『分かっているわよ』
アリスと茜は念話で会話しながら、目的地までの道程を過ごしていった。他の全員が寝ている状況だが、念話によって会話する事によって水琴達を起こす心配もなく、運転する茜も退屈せずに過ごす事が出来ていた。




