討伐系の仕事
あれから二週間と少しが経った。あれからヤツデの魔力が暴れる事はなく、師匠の魔力は自分のもののように操れるようになった。師匠が言うには、元々魔力を操る素質が高いから、そのくらいは出来て当たり前だそうだ。
そして、一つ変わった事もある。それは、体内にある魔力が増えた事。魔力の量ではなく、種類の話だ。冷音さんの魔力を受け入れた後、茜さんに確認して貰ったら、冷音さんの魔力がちゃんと存在していた。冷音さんの魔力は、私と師匠の魔力と親和性が高いみたいで、私と師匠を繋ぐようにして存在しているらしい。
そして、これをズルいと言った茜さんの魔力も受け入れる事になった。茜さんの魔力は、ヤツデ以外の魔力と親和性が高く全体的にくっついているとの事。
そこにどうせだからと、美玲さんも魔力を渡してくれた。美玲さんの魔力は茜さんの魔力と親和性が高く茜さんの魔力にくっつく形だそうだ。
でも、どの魔力も繋がるだけで融合はしていないらしい。通常であれば、自身の魔力と融合するはずだけど、これも魔力受容体質が影響しているのかな。
計六つの魔力を持っている事になったけど、身体に影響はない。これは美玲さんによる診察で明らかになっている。
そして、これらの魔力も普通に操れるようにまではなった。唯一、私が使えない魔力はヤツデのものだけだ。ヤツデの魔力には干渉する事は出来たけど、一切操る事が出来なかった。師匠の魔力を通してみたりもしたけど、まだどうしようもないみたい。
学校に通い始めて一ヶ月。模擬戦でボコボコにしている男子とは壁があるけど、他の皆とは仲良くやれている。特に寧音と蒼とは、本当に仲良くなっていた。
そして、そんな二人からお昼に一つの提案を受ける。
「ねぇねぇ、三人で討伐系の仕事を受けてみない?」
お昼の定食を食べていると、寧音が提案してきた。私の隣にいる蒼の方を見ると、私を見て頷いていた。蒼の方は既に聞いていたみたい。
「師匠、大丈夫かな?」
私としては受けたいと思うけれど、一応師匠に確認してみる。
『それぞれの魔力を操れるようになった今なら、魔法の威力もある程度向上しているはずよ。問題ないとはいかないけれど、やってみても良いとは思うわ』
「じゃあ、受けようかな」
「決まり! それじゃあ、さっさとご飯食べて仕事を決めちゃおう」
お昼を食べ終えた私達は仕事が貼り出されている部屋に来た。そこで、討伐系の仕事を見ていく。
「これが一番初心者向けみたい」
寧音が取った仕事は、廃屋に取り憑く幽霊の除霊だった。場所は、隣県なのでちょっと遠い。
「ちょっと遠いけど、大丈夫かな?」
「どうだろう? これを受けたら担任に相談する事って書いてあるから、先生に訊いてみよ」
「分かった」
「ん」
仕事を受注した私達は、西宮先生に話を聞くために職員室に来ていた。
「失礼します。西宮先生はいらっしゃいますか?」
「ん? 水琴ちゃんだぁ。渚ちゃんなら、いつもの席にいるよぉ」
「ありがとうございます、茜さん」
茜さんが居場所を教えてくれたので、まっすぐ西宮先生の元に向かう。
「あら、三人揃ってどうしたの?」
「この仕事を受けるんですけど、先生に相談するように書かれているので」
西宮先生に仕事の紙を渡す。
「討伐系の仕事ね。廃屋の除霊か……初めての討伐だから、誰かしらが監督する必要があるのだけど、ちょっと手を離せない仕事をしているから……」
そう言って西宮先生が周囲を見回し、ある方向で止まった。西宮先生の視線を辿っていくと、そこには棒状の栄養補給食を食べている茜さんがいた。
「灰沢先生頼めますか?」
「ん? 良いよぉ。ちょうど研究も行き詰まってたし、気分転換になるからねぇ」
「それじゃあ、皆に渡すものがあるからついてきて」
西宮先生に付いていくと、倉庫的な部屋に着いた。そこにあるロッカーの中から三枚のローブを取り出す。
「はい。これが天狗の隠れ蓑ね。外での活動をする際は必ず身に着けること。一応着用している人同士なら、互いが見えるから安心して。でも、悪戯には使わない事。最悪退学だから。後は、これも持っていって」
次に渡されたのは、ホイッスルだった。見た目は、本当にただのホイッスルだ。でも、態々渡すという事は何かがあるのだと思う。
「このホイッスルを吹いたら、学校側にも緊急事態だって事が伝わるから、本当に危険だと判断したら吹いて。取り敢えず、学校からの支給はこれくらいかな。後は、それぞれで必要なものを持っていく事。明日の授業は、次の土曜日に補習としてやるので、それも忘れないようにしてね」
普通に平日に向かうらしい。明日の授業は、そのまま土曜日に移動するみたいだから、休日が一日潰れたと考えて良いのかもしれない。
そんな説明を受けているところに茜さんがやって来た。
「今日の授業が終わったら、準備をして出発ねぇ。内容的に早めに行った方が良いからぁ。集合場所は正面玄関前ねぇ」
そう言って茜さんはどこかへと行った。
「それじゃあ、皆気を付けてね。そこまで危なくはないと思うけど、何が起こるか分からないから」
「「はい」」
「ん」
こうして幽霊退治の仕事を受ける事になった。これを担任に相談しないといけないわけがよく分かった。ちゃんと生徒の安全管理のためだ。今回は初めてだから茜さんが同行するみたいだけど、これからは生徒だけで行くという事もあり得るみたい。そこはそこで心配になるかもしれない。
その後、午後の授業を受けてから、私達は一旦解散する。それぞれ寮と家に戻って準備をするためだ。
「何を用意すれば良いかな?」
私も部屋に戻って来て、すぐに師匠に確認した。裏世界での癖で、色々なものを収納魔法に入れているので、正直他に何が必要なのかが分からない。
「そうね……特に無いわね。取り敢えず、制服よりも動きやすい服に着替えておきなさい」
「は~い」
確かに、制服の着用義務はなかったので、動きやすい服の方が安全な気がする。服を着替えて、いつも通りポンチョを着けて師匠を入れてから学校に戻っていく。その途中で茜さんとすれ違った。
「あれぇ? 水琴ちゃん早いねぇ! ちょっと準備してから車回すから、皆に少し遅れるって言っておいてぇ!」
「は~い!」
どんどんと家の方に行ってしまうので、大きな声で返事をしておいた。そして、学校の正面玄関前に来ると、寧音と蒼が待っていた。二人も動きやすい私服になっている。
「茜さん、ちょっと遅れるって」
「そうなんだ。まぁ、先生って忙しいもんね」
「ん」
それから五分くらいして、茜さんが車でやって来た。
「お待たせぇ。さっ、乗って乗って」
皆で茜さんの車に乗る。助手席に私と師匠、後部座席に寧音と蒼が座って、車が走リ出す。これの状況だけ見たら、遠足に行くような感じに見えなくもないけど、私がやるのは幽霊退治だ。遠足なんてものではなく、もっと危険なものだ。気を緩めずに、引き締めて行かないといけない。隣で運転している茜さんは何故か上機嫌だけど。




