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猫魔女と弟子と魔法の世界  作者: 月輪林檎
魔法学校入学

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53/82

魔力受容体質

 翌日。朝起きた私は、洗面所で歯磨きと洗顔をする。


「あら、水琴。早いわね」


 どこかに行っていたのか師匠が人の姿のまま部屋に帰ってきた。


「師匠、どこに行ってたの?」

「ちょっと走っていたのよ。こっちの身体でも体力作りはしないといけないから」

「変わるの?」

「多少はね。それより、身体の方はどうかしら?」

「う~ん……特に何ともないよ」

「ちょっと飛び跳ねたりして、身体を動かしてみなさい」


 師匠に言われて軽く運動してみていると、部屋がノックされた。起きたのは、いつもと似たような時間なので、結構早い。そんな早朝にお客さんがくるのは珍しい。


「どうぞ」

「おはよう。水琴ちゃんの診察に来たんだけど、もう起きてたみたいね」

「美玲さん、おはようございます」

「おはよう、ミア」


 やって来たのは美玲さんだった。私の身体の診察に来たらしい。診察があるなら、家に泊まれば良かったのに、律儀に家に帰ったみたい。


「あれ? あそこにいるのは茜?」


 美玲さんがベッドで寝ている茜さんを見つける。


「はい。まだ寝ているみたいです」


 そう言うと、美玲さんが茜さんの方に向かっていく。


「こら! 茜! 起きなさい!」


 美玲さんは茜さんを起こしに掛かる。茜さんは眉を寄せながら目を開けると、美玲さんの事を見る。


「んぁ~……? 美玲ちゃん? おはよう……」


 茜さんは身体を起こすと、美玲さんの身体に寄り掛かって軽くキスをした。


「おぉ……何で?」

「寝ぼけているだけよ」


 キスをされた美玲さんは、少し顔を赤くしながら手を手刀の形にして、茜さんの頭頂部に振り下ろした。


「制裁!!」

「んぎゃっ!? えっ!? 何!? へっ!?」


 美玲さんのチョップで完全に目を覚ました茜さんは、状況に理解が追いついておらず、混乱していた。


「良いから! まずは洗顔と歯磨き!」

「えっ!? あ、うん!」


 美玲さんに言われて、茜さんが洗面所に駆け込んでいった。それを見てから、美玲さんが私を手招きで呼ぶ。美玲さんの方に向かっていくと、ベッドに座らされた。


「それじゃあ、身体を楽にしていてね。異常がないか調べていくから」

「あ、はい」


 いつの間にかいつもの美玲さんに戻っていた。いや、よく見てみたら耳が赤いから完全に吹っ切れている訳では無いみたい。


「ところで、なんで美玲ちゃんがいるの?」


 洗面所から帰ってきた茜さんが師匠に訊いていた。


「水琴の診察をしに来てくれたのよ」

「ふぅん。それならうちに泊まれば良かったのにぃ」


 茜さんも私と同じ事を考えていた。


「あまり迷惑は掛けられないでしょ。はい。終わり。取り敢えず、身体に異常はなし。健康体そのものだったわ。ほら、茜も検査して。報告書を白の君に渡したいから」

「はぁい」


 茜さんが私の方に来る。そして、ベッドに横になった。私は、その茜さんに覆い被さる。これが家で検査をする時の基本的なスタイルになっている。私が上にいるから、重力に引かれて唾液が茜さんの方に落ちて来やすいからだ。私から襲っているようで恥ずかしいけど、実際は全くの逆だった。


「そういえば、師匠。水琴ちゃんの魔力の進捗はどうなの?」

「上々ってところかしらね。私の魔力との相性が良いのかもしれないわ。それと面白い事も分かったのよ。これを読んでみなさい」

「ん? これってレポート?」

「そうよ。水琴が書いているレポートよ」

「へぇ~……なるほどねぇ……面白いかも。私の魔力でする身体強化も何か特別な点があるのかな?」

「そうかもしれないけれど、調べる方法がないのよね。身体による個人差も出て来るだろうから」

「あぁ~……それもあるか。水琴ちゃんが私達の魔力を受け取れたら良いんだけどね。そういえば、水琴ちゃんの診察をしていて気付いたんだけど、水琴ちゃんの身体って魔法が浸透しやすいんだよね。これって、何か関係あると思う?」

「魔法が? それって、医療魔法の事よね?」

「うん。おかげで診察がしやすいんだよね」

「ちょっと気になるわね」

「師匠も分からない感じ?」

「考えられる事はあるわ。確証はないけれどね」

「何?」

「水琴も特殊な体質の持ち主という可能性よ。そうね……名前を付けるなら、魔力受容体質というところかしら」

「じゃあ、水琴ちゃんは魔力を受け入れやすい体質って事?」

「そう考えると、私の魔力とアレの魔力を受け入れている事にも説明が付くわ」

「体質的に受け入れやすいから、現状になっているって事ね。それじゃあ、師匠の技術がなくても、魔力を安全に渡せる可能性があるって事じゃないの?」

「可能性があるだけだから、危険があるかもしれない事には変わりないのよ。最初の一回目で水琴に何かあったら困るでしょう?」

「まぁ、水琴ちゃんに苦しんで欲しいわけじゃないし」

「そういう事よ。これを試したいのなら、水琴と白の君の許可を取りなさい」

「う~ん……取り敢えず、報告書にまとめておくかな」

「そうね。それが一番無難かもしれないわね」


 私が検査を受けている間に、師匠と美玲さんがそんな話をしていた。昨日は危険だという話で落ち着いたけど、美玲さんの話もあってちょっと考えが変わったらしい。白が一番こういう分野に詳しいから、白の許可制にしたのかな。


「終わり!」


 ようやく検査が終わり、茜さんの胸を枕に力なく倒れていた。茜さんに優しく頭を撫でられるから、ちょっと退きたくなくなる。


「どんな感じ?」

「アレの魔力は抑えられてるから、現状問題なし。師匠の魔力の方は増えてないから、魔力増加の効果はなし。水琴ちゃんの魔力の方が伸びてたから、やっぱり吸収した魔力は自分のものに変えちゃうみたい」

「じゃあ、育てるのに一番良いのは、師匠が魔力を渡す事ね。了解。それじゃあ、報告してくるから。水琴ちゃんはゆっくり休んでね。茜は、さっさと支度しな」

「はぁい」


 美玲さんは、私と師匠に手を振ってから部屋を出て行った。私もいつまでも茜さんの上にいるわけにもいかないので、上から退く。私が退いたので、茜さんも起き上がる。


「よいしょっと。それじゃあ、朝ご飯にしようかぁ」

「はい」

「そうね」


 皆でメイさんが用意してくれた朝ご飯を食べて、茜さんは学校へと向かった。元気なのに学校を休むという背徳感を抱きながら、師匠と一緒に自室に戻る。


「それじゃあ、私の魔力を操って身体強化をしてみなさい」

「う~ん……よし! 掴んだ!」


 一度寝ているので、感覚を忘れているかもしれないと思ったけど、ちゃんと師匠の魔力を操る事が出来た。そのまま身体強化を行う。


「ちゃんと出来ていそうね。それじゃあ、次は水琴の魔力も一緒に操って身体強化をしなさい」

「同時にって事?」

「そういう事よ」


 普段から体内で魔力を動かし続けているので、これは難なくする事が出来た。


「大丈夫そうね。身体への影響はどうかしら?」

「特に違和感とかはないよ。不調とかもないかな」

「それなら、そのままレポートを仕上げちゃいましょう」

「うん」


 そうして師匠の魔力を意のままに操る練習をしながら、レポートを書いていると、扉がノックされた。


「どうぞ」


 部屋の中に入ってきたのは、冷音さんだった。


「冷音さん、どうかしたんですか?」

「水琴さんの様子を見に来ました。取り敢えず、報告にあったとおり異常なしのようですね」

「はい。元気一杯です」


 そう言うと、冷音さんに頭を撫でられる。末の妹弟子だからか姉弟子の皆さんは、かなり甘やかしてくれる。ちょっと嬉しい。


「それと、面白いレポートを書いていると美玲から聞きましたが、こちらがそうですか?」

「あ、はい。ちょうど書き終わったところです」


 冷音さんのレポートを渡す。冷音さんは、椅子に腰掛けてレポートを読んでいく。レポートの提出先も評価をしてくれるのも冷音さんなので、ちょっと緊張する。


「なるほど……これは面白いですね。広がりがなかった身体強化の研究に一石を投じるものになりそうですが、これを比較できるのが水琴さんのみですので、協会などに提出は出来ませんね。ですが、よく出来ていると思います。こちらはこちらで宿題の一つとしてカウントします。それと、水琴さんに魔力を渡すという実験ですが、白の君から許可が出ました。師匠の管理の下、水琴さん自身の意思でやるようにとの事です」

「分かりました。じゃあ、やってみたいです」


 私は早速やりたいと主張した。こういう事は最初に調べておく方が良いと思ったからだ。


「では、やってみましょう。師匠、お願いしますね」

「ええ、こっちでしっかりと見ているから安心して」


 私と冷音さんは、ベッドに移動した。何かあった時に倒れても大丈夫なようにするためらしい。


「それでは失礼します」

「ひゃっ!?」


 冷音さんの手が直接背中に触れる。ひんやりとした感覚に、ちょっと驚いてしまった。


「では、私の魔力を流します。強い痛みや苦しさを感じたら言って下さい。絶対に我慢はしないでください」

「分かりました」


 冷音さんの手から冷音さんの魔力が入り込んでくる。師匠の魔力よりも異物感が強い。でも、身体に強い痛みが走ったり、苦しいと感じたりする事はなかった。冷音さんの魔力を受け入れていく。


「このくらいにしておきましょう。やり過ぎて何かがあると困りますから」

「はい……」


 ちょっと息切れをするくらいには、私の方が消耗していた。すると、冷音さんが後ろから私の身体を引っ張り上げて背もたれになってくれた。ちょっと疲れたので、冷音さんに甘える事にする。


「どうでしょうか?」

「一応、軽く調べてみたけれど、水琴の身体に異常はないわね。詳しくは、ミアの方が分かるだろうから、ミアとジルに調べて貰うのがいいわね。後で、学校に帰った時にミアに伝えてくれるかしら?」

「はい。お任せ下さい。水琴さんの方は大丈夫ですか?」

「はい……ちょっと疲れましたけど、大丈夫です」

「それは安心しました。ですが、これでほぼ確定ですね」

「そうね。余程の技術がなければ相手を傷つける結果に終わるのに、水琴は問題なく受け入れている。魔力受容体質である事は確定ね」


 確定したらしい。私は魔力を受け入れやすい体質をしているとの事だ。言霊に続いて、そんな体質でもあるなんて、ちょっと前の私なら信じられないと思う。


「このことは、白の君にも報告しておきます。では、私はそろそろ失礼しますね。このレポートは、ここで受け取ります。次のレポートなどを楽しみにしていますね」

「あ、はい」


 ようやくレポートを一つ仕上げられただけなので、まだまだ宿題は残っている。この休日で他にも進められたら良いかな。

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