魔力の変化
お風呂から上がって、いつの間にかメイさんが用意してくれていた服に着替えていると、脱衣所と廊下を繋ぐ扉が勢いよく開かれた。そこには、息を切らした茜さんと美玲さん、全くそんな様子のない冷音さんと冷音さんが背負っている白がいた。
「み、水琴ちゃん! 大丈夫!?」
茜さんが駆け寄ってきて、私の身体をあちこち触りつつ見ていた。特に外傷はないから、見られても何も変わりないのだけどね。
「大丈夫です。怪我はないですから」
「はいはい。茜は、一旦退いて」
美玲さんが茜さんを退かして、私の身体を診た。
「うん。怪我はなし。内臓の方も問題なし。ちゃんと無事」
「それは良かったです。後は魔力の検査ですね。この場では何ですので、水琴さんの部屋に移動しましょう」
「うむ。そうだな」
そうして私の部屋に移動した後は、ベッドで茜さんによる魔力の検査が始まる。精密検査なので、かなり長い間の検査になる。その間に、師匠が皆に事情を説明していた。
「ふむ。そういう事か。冷音」
「タイミングとしては、水琴さんが倒れてから三分程経った後、こちらに小型のアレが出現したとの報告がありました。幸い、近くに第七階位の魔法使いが二人いたため、すぐに討伐する事が出来たそうです」
「そう。じゃあ、タイミング的にはぴったりだったわけね」
「そういう事かと」
どうやら急にヤツデの魔力が暴れ出したのは、師匠の予測通り、小型のヤツデが出現したかららしい。これまで、こんな事にならなかった理由は、私が裏世界にいたからだと思う。世界が違うから、魔力自体が感じ取れなかったのかな。
そんな事をぼーっと考えていると、茜さんによる検査が終わった。
「ふぅ……検査終わりぃ!」
座る場所がないので、私と茜さんはベッドの上で座る。皆も一応ベッドの傍に椅子を移動させた。
「アレの魔力が、表に出て来た形跡があったよ。結構荒々しく暴れたみたい。身体に強く影響が出なかったのは、幸いだったかも。でも、そのせいでアレの魔力が膨れ上がってる。師匠の魔力も大きくなってるけど、これは師匠が注いだ分が、そのまま水琴ちゃんの中に取り込まれたみたい。今のところ深層に押し込められているけど、また暴れる可能性はあると思うよ」
「アリスの魔力を取り込めるのなら、今からアリスの魔力を大きくするのが一番だと思うが、どう思う?」
白の考えは、ヤツデの魔力を押さえ込める師匠の魔力を増やしていき、ずっと押し込めるという事だと思う。
「水琴さんの魔力量との相談になります。師匠の魔力は、ある程度の親和性あるとはいえ、現状では危険が大きすぎるかと」
「融合する兆候はないのか?」
「うん。ないよ。それぞれで分離してる。師匠の魔力があってもね」
「そうか。やはり、全てを支配しなければならないな。修行の方は順調と聞いたが?」
「魔力を三種類に分けて同時に扱うという点に関しては、形にはなっています。ですが、まだ自分のものではない魔力を意のままに操るのは厳しいかと。特に、水琴と反発しているアレの魔力となると、水琴自身の消耗も凄まじくなるかと」
「そうか。なら、アリスの魔力を支配する修行に入れ。これから先同様の事が起こらないわけがない。その際に、すぐに対応出来るようにしておけ」
「はい」
実害が出た以上、これまでの修行では追いつかない。だから、繰り上げで次の修行をしていかないといけないらしい。師匠の魔力を完全に自分のものにする。そうすれば、ヤツデの魔力が暴れても、すぐに抑え込む事が出来る。
「冷音。水琴のような状態になった者はいないか?」
「今のところ報告はありません」
「現状は、水琴だけか」
結論も出たみたいで、白が私の方に来た。
「水琴が無事で良かった。取り敢えず、明日は休め」
「えっ、あっ、うん。分かった」
「茜は、連休中に毎日検査をしろ」
「了~解!」
毎週検査から毎日検査になった。次の土曜日から月曜日まで三連休になっているので、明日も合わせて四連休の間毎日検査になる感じかな。この前とは状況が違うので仕方ない。
「こっちでも色々と調査をしておく。冷音」
「はい」
白は冷音さんの背中に乗った。ここから学校までの移動を素早くするには、冷音さんに乗るのが一番速いみたい。
「では、私達は失礼します。美玲、行きますよ」
「あ、はい」
ここで白、冷音さん、美玲さんが学校に帰っていった。茜さんは残っている。
「茜さんは戻らないでも大丈夫ですか?」
「冷音ちゃんがどうにかしてくれるよぉ」
冷音さん頼みらしい。確かに、冷音さんならカバーはしてくれそうだけど、後でしっかりと怒られそうでもある。
「それに、水琴ちゃんの看病もあるしねぇ」
「看病して貰う程消耗はしてないですけど……」
「駄目だよぉ。今は身体を落ち着けて、師匠の魔力を操る修行をしないとぉ。ね、師匠」
「そうね。水琴には悪いけれど、今後の事も考えて、修行を始めるわ。良いわね?」
「うん。必要な事だもんね」
それから師匠の魔力を操作する修行を始めた。さっきヤツデの魔力を抑えつけた時の感覚が残っているので、操作する事は出来るようになった。でも、自分の魔力とは違うので、ちょっとだけ扱いにくい。そうして、師匠の魔力を操っている内に分かったのが、師匠の魔力で身体強化した時にいつもの出力が出なかった。
「あれ? 何で?」
「そう? 十分強化出来てると思うよぉ?」
「いえ、水琴の魔力なら、もっと強化出来ているはずだわ。魔力量が少ないからというだけではなさそうね。私の魔力が、そもそも身体強化に向いていないのかしら?」
「身体強化の個人差って、操作できる魔力の量だけじゃなかったっけ?」
「それが通説ね。魔力の複数持ちは、かなり少ないのと基本的に融合する事が多いから、魔力による身体強化への向き不向きなんて調べようがないものね。少し調べてみましょうか」
「うん」
師匠の提案に乗って、自分の魔力と師匠の魔力で、身体強化にどんな影響があるのかを調べて行った。その結果、私の魔力は身体全体の力を底上げするという感じで、師匠の魔力は身体全体の頑丈さを上げる効果があるという事が分かった。
「これって、茜さんの魔力だったら、どうなるんですか?」
「さぁ? 自分にとっては当たり前の事だからなぁ。何が違うのか分からないよぉ」
「そうね。いっその事、ジルの魔力を水琴が取り込めれば良いのだけれどね」
「や、やってみる?」
実際、どこまで違いがあるのか気になったので、私としてもやる気になっていた。
「何が起こるか分からないから駄目よ。前にも説明したけれど、下手すれば身体が壊れるかもしれないから」
「出来るのは、師匠くらいなものだよねぇ。冷音ちゃんも少しずつだったら出来そうだけどぉ」
「そうね。でも、ちょうど良いからレポートにしてビビに提出しましょうか」
「レポートになる?」
「なるわよ。結構革新的なものだから、多少拙くても許してくれるわ。その間、私の魔力で身体強化をしている事。まだぎこちないから」
「は~い」
「じゃあ、身体強化に関する先行研究の論文持ってくるねぇ」
師匠と茜さんの手を借りながら、レポートを書いていく。その間に、師匠の魔力を使って身体強化をし続ける。初めて魔力増加をした時と同じような感じで、師匠から逐一指摘が入るので、ちょっと懐かしい感じだった。
夕飯が出来るまでレポートを書き続けて、ある程度形が出来た。その後は、もう一度お風呂に入ってから、師匠の魔力で魔力増加をしていた。その間も、レポートを書いていく。
「う~ん! レポートって大変だね」
「そうね。また魔力が乱れているわよ」
「水琴ちゃんは修行も大変だねぇ」
「ジルは、魔力増加に使う魔力をもっと増やしなさい」
「はぁい」
茜さんも一緒に修行しながら書いたレポートは、ある程度完成した。これを手直ししつつ、明日になって身体への影響を調べたら終わりって感じらしい。普段の自分の魔力だったら、何も変わらないけど、他人の魔力だから、何かしらの影響があってもおかしくはないという考えからと言っていた。
夜は、いつも通り師匠と茜さんと一緒に寝た。




