モンスター学の授業
その翌々日。最後の授業のモンスター学の授業で、一つ新しい事を知る事になった。
「はい。では、授業を始めます。裏世界に現れるモンスターの事を教えていましたが、今日は少しそこから逸れた授業になります。ですが、皆さんにも十分関係のある大切な授業ですので、よく聞いておいてください」
そんな前置きから始まった授業なので、どんな内容なのか、結構気になった。一緒にいる師匠も少し気になったみたい。
「皆さんも知っていると思いますが、この世界には複数の化物が封印されています。その内一体は、この日本に封印されており、その封印は解かれようとしています。その封印されている化物は、その姿からヤツデと呼ばれています」
皆アレとかでしか呼ばなかったのに、ここに来て名前がある事が判明した。
「知ってた?」
小声で師匠に確認してみる。
『一応名称がある事は知っているけど、具体的に名前がどうなっているのかは知らなかったわね』
授業中という事もあって、念話の方で返事をされた。そして、師匠もヤツデという名前は知らなかったみたい。
「植物にもヤツデという名前のものがあるけど、全く関係ありません。ヤツデの形はこんな感じです」
西宮先生が黒板にヤツデの絵を描いていく。その姿は、人間の上半身から八つの手が生えてきている。頭も人のものだけど、髪の毛はなく頭頂部に目が二つと通常顔面となる部分に大きな口がある。どこからどう見ても異形の姿だ。
「本当にあんな姿なの?」
『そうね。私が見た事のあるアレと同じ姿だわ。ただ、本物は手のひらにも口があったけれどね』
「手のひらに口!? キモっ……」
師匠に確認していたら、西宮先生も手のひらに口を描き始めていた。どうやら完成していなかっただけみたい。
「これがヤツデの姿です。伝え聞いている事から、このヤツデは手のひらと顔面の口で人や動物を食べていたと言われています。特に人の被害は大きく討伐のために動いていた魔法使い達も多く犠牲になりました。辛うじて封印されていましたが、当時封印に関わった魔法使いが、封印魔術に余計な事をしたがために、ヤツデは封印に耐性を持ち、討伐せざるを得ない現状へと繋がっています。もしかしたら、皆さんも戦いに赴くことになるかもしれません」
西宮先生の最後の言葉に、教室の空気が張り詰めた。黒板に描かれた化物と自分達が戦う事になるかもしれないと言われれば、当然の反応と言わざるを得ない。
「そして、ヤツデの封印が弱まった事によって、小さなヤツデが生まれるという事態が起こりました。現在第五階位から第七階位までの魔法使いが討伐していますが、いずれは皆さんも参加する事になるかもしれません。覚悟はしておいてください」
そこからは、ヤツデの具体的な攻撃方法などの説明が始まった。重要な授業なので、しっかりと聞いてメモも取っていき、授業が終わった。かなり集中していたので、固まっていた身体を伸ばしていると、隣からため息が聞こえてきた。
「どうしたの、寧音?」
「いや、あれと戦うと考えたらさ。小さいのの倒し方は習えたけど、ヤツデ本体には通用するとは限らないみたいだしさ」
ヤツデと戦うかもしれないと考えて、気分が落ち込んでいたらしい。授業を聞く限り、異常で異形な存在だという事は間違いないので、寧音の気持ちも少し分かる。
「でも、私達が戦うとは限らないよ。もっと優秀な魔法使いはいるだろうし」
「う~ん……何か心配になるわ」
「まぁ、寧音の心配の方が正しいわね」
私と寧音が話していたら、師匠がそう言った。私と寧音、隣にいる蒼が、机の上にいる師匠の事を見る。
「恐らく、戦力的に言えば、水琴達も戦力として投入する確率は高くなるわ。ジル達は勿論ビビ達も戦いに赴く事になるわね」
「私達じゃ足手纏いじゃない?」
「それでも、いないよりマシなくらいには、戦力差があるわ。今回の授業で、それはよく分かったでしょう?」
確かに、西宮先生の授業はそう思わせられるくらいの内容だった。小型のヤツデも相当厄介そうだったし。
「だから、しっかりと修行をして強くならないといけないのよ。白の君が戦わないでいいようにするためにもね」
白が戦えば、日本の一部が消し飛ぶ事になる。それだけは避けないといけない。白のためにも。
「幸いな事に、小型の出現頻度は、かなり低いみたいだけれど。寧音と蒼も、しっかり備えておきなさい。特に魔力増加は必要不可欠よ。苦手だからといって、疎かにしては駄目よ」
「うっ……頑張ります」
「ん」
今日はそれで解散となった。私と師匠は家への帰路についていた。
「それにしても、化物に関して、授業でしっかりと取り扱うんだね?」
「ああいった情報は知っていると知らないでは、大きな差になっていくわ。それだけ、白の君も本気という事ね」
「皆で倒さないと世界も危ないもんね」
「そうね」
そんな話をしていたら、急に身体の内側から大きな脈動を感じた。それと同時に苦しい感覚に襲われる。足に力が入らなくなり、地面に膝を突く事になった。
「うっ……何っ……これ……」
「水琴? どうしたの?」
急に膝を突いたから、師匠がポンチョから出て人になって、私の肩に手を当てた。
「何か……変……内側が……」
「ゆっくり呼吸しなさい。そして、身体の魔力に意識を向けるのよ」
「うん……」
言われた通りに深くゆっくりと呼吸をしてから、自分の魔力に集中する。すると、魔力が暴れている事が分かった。いや、正確には私の魔力じゃない。これはヤツデの魔力だ。
「ヤツデの魔力が……」
「水琴、私の魔力に集中しなさい」
「師匠の……?」
「そうよ。私の魔力ならヤツデの魔力に反発しないわ。私の魔力でヤツデの魔力を抑えつけるのよ」
「う、うん……」
師匠の魔力を動かすなんて事はしたことがない。自分の魔力を動かすのとは勝手が違いすぎる。でも、今はやるしかない。私の中にある師匠の魔力に集中する。今は大人しく、ただ奥底で眠っている師匠の魔力に干渉し動かそうとする。
でも、上手くいかない。師匠の魔力は全然動いてくれなかった。
「出来ない……」
「呼び水が必要なのかもしれないわね。今から、私の魔力を流すわ。そこから引っ張り上げなさい」
「う、うん……」
師匠が流してくれる師匠の魔力に集中する。身体の中に異物が入るような感覚がするけど、そこは我慢する。
新しく入ってくる師匠の魔力は、私の中にある魔力よりも言う事を聞いてくれた。その魔力を私の中の魔力に合わせて、私の中の師匠の魔力を動かす。師匠の魔力を暴れているヤツデの魔力に被せるようにして、私の身体の奥底に押し込める。
そうして、ようやく苦しみから解放された。
「はぁ……はぁ……何だったの……?」
「分からないわ。急にアレの魔力が暴れ出したのなら、恐らくは封印か小型のアレが生まれたと考えるべきね。取り敢えず、すぐに家に帰りましょう。一旦身体を休める事も大事よ」
「うん……」
身体に力が入るようになったので、師匠と一緒に並んで家に帰る。猫の姿に戻らないのは、私が倒れた時に支えられるようにしてくれているのだと思う。幸い、家に着くまでに同じ事が起こる事は無かった。
「メイ、ジルを呼びなさい。大至急よ」
「かしこまりました」
顔色が悪いであろう私と真剣な表情でそう言った師匠を見たメイさんは、師匠の指示に従って、茜さんを呼びに行った。私と師匠は、まっすぐお風呂に向かって、湯に浸かる。その前に身体を『洗浄』しておくことは忘れない。
「ふぅ……」
「どうかしら? 少しは休まった?」
「うん……私の身体、大丈夫かな?」
「どうかしらね。それを判断するためにもジルが必要なのよ」
「うん……」
湯船に十分程浸かっていたかな。少し心の方も休まった。




