学校生活
色々な授業のガイダンスも終わり、本格的な授業が始まる。そんな授業の一つが魔術学基礎だった。必修科目なので、担当する先生は西宮先生だ。
いつも通り一番後ろの席で授業を受ける。蒼は隣に来ているけど、寧音は友達の横に移動している。向こうにも友人付き合いがあるので、そこは仕方ない。
「魔術学って一学期の続きなんだよね?」
「ん。でも、最初は復習からやる」
「予定ではそうなってるね。大丈夫かな?」
「基礎的なものだろうから、大丈夫だと思うわよ」
師匠から教えてもらったものが基礎である事を祈るばかりだった。
「はい。じゃあ、授業を始めます」
そう言いながら、西宮先生が教科書を一冊だけ私の方に飛ばしてくる。魔法でゆっくりと飛んでくるので、簡単に受け取れる。割と分厚い。
「同じ」
蒼が自分の教科書を見せてそう言う。違う教科書を貰っていたら、一大事なので、当たり前なのだけど、蒼は嬉しそうな感じだった。雰囲気だけだから表情は無だったけど。
貰った教科書を開いてみると、師匠が机の上に降りて一緒に覗きこんだ。
「それじゃあ、一学期の復習からね。魔術の基本は、魔法陣と触媒を用いる事にあります。魔法陣は文字に加えて幾何学模様で構成されるもので、その模様と書かれた文字によって効果が変わっていきます。正確な魔法陣ではなくとも発動しますが、望んでいた効果からは変わってしまうでしょう。魔術の発動には、それだけ正確さが重要になります」
大体知っている事だった。実際に魔術を使った事がないから、どこまで変化するのかは分からない。
それと授業になったら西宮先生の口調が変わった。授業は丁寧にやるからとかなのかな。
「基礎的な魔術の一覧は教科書に載っているので、そっちを見てください。この魔法陣はテストで問題として出すから、どの魔法陣がどの魔術に該当するのかを覚えておいてください」
そう言われてパラパラと教科書を捲っていくと、色々な魔法陣が載っていた。簡素な魔法陣から複雑な模様の魔法陣まで色々とあった。
「これって見て覚えられるもの?」
『頑張れば覚えられるわね。でも、一番重要なのは、魔法陣と触媒の組み合わせよ。教科書をよく見てみなさい』
師匠の念話で言われた通り教科書をよく見てみると、魔法陣と触媒の組み合わせで起こる現象が簡潔に書かれていた。同じ魔法陣でも触媒の種類が変わるだけで、効果が全く違うものになったりしている。後は、現象の強弱にも影響していた。
「それじゃあ、ここからは具体的な魔術の効果や範囲、危険性についてやっていきます」
そこからは教科書と黒板を睨めっこしつつノートにメモしていく普通の授業になった。一学期の続きという事もあって、最初の方の魔術からではなく教科書の中間くらいの魔術からだったので、最初からちょっと複雑だった。後で、しっかり師匠と一緒に復習しないと。加えて、一学期の分の復習もしておかないといけない。追いつくのは、大変そうだけど内容的には面白い内容なので頑張ろうと思えた。そんな感じで、毎日の授業が進んでいく。
魔法学基礎、魔術学基礎、数学、理科、社会、英語、体育、魔法理論、魔術触媒学、魔法科学、医療魔法医療魔術概論、裏世界学、モンスター学という授業を選んでいる。基本的に二コマずつあるけど、数学と理科だけは四コマある。一年生の内に、数学と理科をまとめて教えるという方針らしい。二年次と三年次になったら、魔法に傾倒する事になるから、それが一番良いという風になったみたいだけど、そんなにまとめて教えられて、覚えきれるか心配になる。まぁ、あまり使わないというのもあるかもしれないけど。
この授業の時間は、師匠も自由に動いている。一緒に授業を受ける事もあれば、冷音さんや茜さんと一緒にどこかに行く事もある。仲良し師弟だから、色々と遊んでいるのかもしれない。特に大きな問題も無いので、普通に見送っている。何をしているのか、ちょっと気になる。
それと寧音の友人とも知り合いになった。藍澤奈津実、舞野絵里花、三井田結羽という名前だった。ちょくちょく話す仲にはなれている。
そんなこんなで授業を必死に受けて、三度目の体育の時間がやって来た。寧音と蒼と一緒に更衣室に移動して運動着に着替えていく。今回は、師匠もついてきている。
「はぁ……このお昼前の体育が一番憂鬱過ぎ!!」
寧音が憤慨しながら着替えている。
「確かにね。でも、これのおかげでご飯が美味しくなるよ」
「いや! 寧ろ、お腹が空いて余計に食べちゃうでしょ!? また体重が増える……」
「体重は、それのせい」
蒼が寧音の胸を指しながらそう言う。着替えで何回か見ているけど、私と蒼と比べると、天と地の差がある。それでも茜さんと比べると小高い丘って感じだけど。
「体重が増えるのと同時に胸が大きくなってるんじゃない?」
「いや、そうでもないはずだけど……胸が大きくなったのも最近だし。あれ? でも、体重が増えたのも……」
「じゃあ、あまり気にしなくて良いんじゃない?」
「そう……なのかな?」
「そうして太っていくと」
そう言ったら、寧音から小突かれた。
「うごっ……寧音の悩みって、持たざる者からしたら贅沢な悩みなんだよ。私と蒼を見てみなよ」
「ん。動きやすい」
「そう。動きやすい……あれ? 贅沢な悩み?」
「何でそっちが自信なくしてるんだか。そもそも灰沢先生の家で暮らしてるなら、私よりも悩みを抱えている人を見てるんじゃないの?」
寧音にそう言われて、師匠と顔を見合わせる。
「ある?」
「無いわね。多分、あの子は、ずっと似たような身体だったから、そういう悩みに慣れているのだと思うわよ」
「だって。残念だったね!」
「何で勝ち誇ってるんだか……さすがに、これ以上成長しない事を祈ろうっと」
そんな会話をしながら着替えを終えて、私達は校庭へと向かう。
「今日の体育って模擬戦をするんだよね?」
「そうだよ。一応安全に配慮してやるから、そこは大丈夫。一学期でもやったけど、ちょっとした怪我をする程度だったかな」
「怪我はしたんだ?」
「さすがにね。でも、ここには超一流の医者がいるから」
寧音が言っているのは、美玲さんの事かな。
(美玲さんが一流でも、一々保健室に行っていたら、その間に容態が急変とかないのかな?)
そんな事を心配していると、校庭の前に私もよく知っている人が二人いた。その内一人は、ここにいて良いのか心配になる人だった。
「水琴」
白は、そんな事全く気にしないとばかりに、私に手を振って近づいてきた。なので、私も手を振り返す。
「おはよう、白。ここにいて大丈夫なの? 人の目とかあるでしょ?」
「模擬戦には顔を出しているからな。そこは心配しなくて大丈夫だ。戦闘力は実際の戦闘を見た方が分かりやすい。魔力量だけが全てなわけじゃない」
「ああ、なるほど。戦闘中の機転とかだね」
「そういう事だ」
白と話していたら、寧音に首根っこを掴まれて、後ろに下がらされた。
「ちょ、ちょ、ちょっと! お相手が誰だか分かってるの!?」
声を抑えながら寧音がそう言ってくる。白と普通に話していたので、畏れ多いとかそういう感じだ。確かに、この様子だと友達になれる人は少ないと思う。
「分かってるよ。白とは友達だから」
「はぁ!?」
眉を寄せた寧音だったけど、直前までの私と白の会話を思い出したのか、何も言えなくなっていた。
「確か、羽島寧音だったな」
「は、はい!」
唐突に名前を呼ばれたから、寧音がピンと直立不動の状態になる。本当に白の君として、色々と伝えられているというのが分かる。蒼も表情には出ていないけど、姿勢を正している。
「水琴が楽しそうに学校生活を送っているのを見ている。寧音と蒼がいるおかげだろう。そのまま水琴の友人でいてくれ」
「は、はい!」
「はい」
蒼がちゃんと返事をしているのを初めて見たかもしれない。やっぱり、白は敬われているという事が分かる。
「そんなに見守ってくれてるの?」
「常に部屋にいるわけではないからな。その時くらいだ」
「それもそっか。そういえば、冷音さんは? 美玲さんが代わりって感じ?」
「ん? いや、私も一人で動く時はあるぞ。美玲は、ただ単に治療係としているだけだ」
「皆が怪我した時に保健室まで行くのが大変って事もあるでしょ? だから、私みたいな治療が出来る教師が待機するって決まりなの。偶々水琴ちゃんのクラスの担当になったんだけど、白の君がいらっしゃるなら、私で正解だったかな」
美玲さんは苦笑いしながら答えた。寧音と蒼の様子や職員室とかでの反応からも、白がいると場が引き締まるという事が分かる。だから、比較的慣れている美玲さんでよかったという事だと思う。
「取り敢えず、師匠は預かっておくね。思う存分戦ってきて」
美玲さんにポンチョの中にいた師匠を持っていかれた。そうなると、ポンチョを着ている必要も無いのでポンチョを収納魔法で仕舞う。




