第19話 虐殺司祭
お待たせしました、今年最後の更新です。
19話です、『守護者』ランシス視点で始まります。
この都市が謎の怪異に襲撃され事実上の壊滅をしてから数日、つい先日謎の怪異が攻略され私達は解放された。
恐るべき怪異だった、正面から『守護者』である私を完封した強力な異能、この都市を丸ごと覆い尽くした影響力、防衛都市たる『シンシア』の保有する戦力を全て無力化する制圧力、どれを取っても規格外、とても一個体が引き起こしたとは思えない被害だった。
紛れも無い怪物、そう呼ぶに相応しい圧倒的脅威だった。
「どうも!すいやせんっしたーーー!!!!」
そんな正体不明の怪物が今私の目の前で土下座をしていた、土下座を、していた。
「……………………ぇ?」
余りの出来事に思考が追いつかない、そう確か私達が解放された直後に発生した[アンノーン]の大進行についてシズク様と『聖刻者』ソラに意見を聞くために司令室までお越しいただいて、それで御二方と一緒に来た少女が突然肘をつき頭を床に擦り付け土下座をしたのだ。
「すいやせんっしたーーーー!!!!」
シズク様が仰言るには今土下座をしている少女が先日この都市を襲撃した怪異の正体らしい、らしいのだが、何がどうなってこんな状況に?駄目だ理解できない。
「「すいやせんっしたーーーー!!!!」」
何故か『聖刻者』ソラまで土下座をしている、これはどうしたらいいのだろう?あぁ混乱してきた、もう全部投げ捨ててお家に帰りたい。
◆
「「すいやせんっしたーーーー!!!!」」
どうも皆様ごきげんようソラです、葵ちゃんと共にただいま絶賛土下座の真っ最中です、悪い事をしたら謝る、常識ですよね。
「え〜と、ソラ殿頭を上げてください、聞いた話が確かなら彼女は何者かに思考誘導されていたのですよね?であるのならば責任を負うべきはその者です」
え?天使かな?ランシスさん優しすぎない?
「確かに彼女の異能は強力無比です、操られたとは言えこの都市を実質壊滅に追い込んだのも確かです、本来ならば我等が身柄を預かり然るべき対処をしなくてはなりませんが、恥ずかしながら我々では彼女を完全に拘束する手立てがありません、シズク様達が身柄を預ると仰言るのであれば、此方としては異論はありません」
あ〜つまり葵ちゃんは自分達に手が負えないから俺達が請け負う分には助かると、ほうほう、でもな〜けじめってもんが無いとな〜気持ち悪いじゃんよ、隣で土下座している葵ちゃんが〝え!マジで!?ラッキー!イエーイ!!〟って雰囲気漂わせているのもモヤモヤするし。
「『守護者』ランシス、寛大な処置痛み入ります、しかしこの子の罪悪感の払拭の為にも、この子に贖罪のチャンスを与えては貰えませんか?」
シズクちゃんナイスー!そうそうこう言うのは大切だと俺思うわけ、葵ちゃんが〝え?ウチ別に罪悪感なんて無いんだけと?贖罪とかメンドイだけなんだけど??〟と言いたげな雰囲気だけど気にしない気にしない。
「贖罪の機会ですか、具体的にはどのような事を?」
「今回の[アンノーン]の大進行の原因究明及び解決を、無論僕達も全力で事に当たるのでご安心ください」
原因究明って確か[アンノーン]の大進行はドーラって奴が原因なんだよな?じゃあソイツをぶっ倒せば解決かな?どうなんだろ?
「なるほど分かりました、では宜しくお願いします、実の所現在『シンシア』の戦力が不足しているので、その申し出はとても助かります」
ん?戦力が足らない?え?まさか葵ちゃん、っとそんなふうに思いながら葵ちゃんの方に視線を送ると〝え!?ウチじゃ無いよ!?ウチちゃんと言われた通り全員元に戻したよ!?信じてソラ兄!〟という視線が帰って来た、どうやら犯人は葵ちゃんではないらしい。
「人員不足ですか、もしや『神隠し』の影響がまだ?」
シズクちゃんも同じ事を思っていたようでランシスさんに確認していた、だよね~怪しいもんね葵ちゃん、伊達にこの都市落してないわ〜。
「いえ、確かに『神隠し』で乗じた混乱は深刻な問題ですが」
お、葵ちゃんから〝ヤッベ〟ってオーラが出てる、まぁあんだけのの事しでかしたんだから、しゃあないちゃしゃあない。
「この件については別件でして」
あ、今明らかにホッとしたな葵ちゃん、でもソレはそれとして君はもっと反省なさいよもう。
「別件ですか」
そんなこんなで話を繋げてくれるシズクちゃんマジ感謝、話の進行は全部シズクちゃんに任せているのは悪いかな〜って思いながらも、俺は葵ちゃんと共に今だ地に伏せ土下座中。
「はい、実は現在都市内にて[異能力者]が起こしたであろう殺人事件が頻繁に報告されています」
おっと随分きな臭くなってきたな、ん?待てよ[異能力者]の殺人鬼ってなんか覚えが有るぞ。
「犠牲者の中には非戦闘員に留まらず[異能力者]の戦闘員『選抜者』が多数、更には今朝方『御使い』まで死人が出てしまいました、被害者は戦闘員非戦闘員問わず皆首を切断されています」
首を切断って、ますます覚えが有るぞ、っていうか先輩じゃん犯人。
「そのやり口からも相当な手練れなのは間違いなく、『選抜者』では返り討ちにあってしまう為、『御使』クラスを動員しなければならない状況でして」
あれ?でも昨日倒したはずだよな先輩、んじゃ違うか。
「『守護者』ランシス、実は先日僕達も非常に強力な[異能力者]の襲撃に遭ったのですが、異様に[異能力]で首を切断する事に拘っていたので恐らく同一人物だと思います」
え!?そうなの!?でも昨日シズクちゃん本人が倒したって言ってなかったか?ん~~?
「ッ!本当ですか!?それで犯人はどうしたのです!?」
「はい、そのまま戦闘に突入して[異能力者]は仕留めたはずなのですが、可怪しいですね、確かに首を落としたはず」
だよね~、首チョンパされて生きてるわけ無いよね〜、これで生きてたら何者なんだよ、先輩だよ。
「そうですか、しかし犯行は続いている、複数犯?『御使』クラスを殺す事が出来る手練れが?いえ捜査を続ければ分かることです、シズク様達の御助力があれば対[アンノーン]に割いていた人員を幾らか此方に回す事が出来ますので、改めて此度の尽力感謝の意を」
いや〜、此方こそ身内のいざこざに巻き込んで申し訳ない、せめて[アンノーン]の方は俺達がなんとかしますんで、はい。
「いえ、しかし大丈夫なのですか?仮に犯人が僕達と遭遇した人物と同一人物ならば、失礼ながら貴女以外では戦力的に対処は難しいとかと」
そう!先輩はやべぇ奴だからね!本当に生きてたらマジヤバいから!ホント!
「心配には及びません、問題人物ではありますが、こと戦闘において私を上回る者が在ります、本来ならば牢獄より出してはならないのですが、緊急時です、毒には毒をぶつけましょう」
ほ〜ん、そんなに強い奴居るんだ、ん?牢獄?毒には毒?んん??
「『シンシア』に投獄されている[異能力者]と言えば、まさか[虐殺司祭]ですか?」
は?虐殺司祭?何それ怖い。
「はい、彼を使います」
「[トルメスの惨劇]を引き起こした、かの[虐殺司祭]が実在していたとは」
何々、〝口裂け女〟とか〝テケテケ〟とか、それ系の都市伝説的何かなのソイツ?
「一応人間ですよ実在して居ますとも、まぁ半分怪異みたいなものですからね彼、それはそれとして危険人物に変わり無いので牢獄に居るわけなんですが」
「なるほど、[虐殺司祭]の[異能力]が逸話通りなら問題無いでしょう、分かりましたでは当初の予定通り僕達は[アンノーン]の方に注力します」
「宜しくお願いします」
うん、無事話が纏まったみたいだ、良かった良かった。
「では僕達は外壁へ向かいます」
「分かりました、連絡要員として『選抜者』ジェームズを付けます、彼の異能は〈クラアル〉僅かですが念話が出来ますので、緊急時に彼を通して連絡を」
これはこれはご丁寧に、何から何までありがとう御座います、んじゃ行きますか、ずっと土下座していたから足痺れちゃったよ。
◆
「司祭様、『守護者』ランシスより連絡がありました、〝[アンノーン]殲滅は他に引き継ぐ、速やかに帰還されたし〟との事です」
『シンシア』の外壁に竚む一人の神父に黒装束の男が話しかけた、神父は人の良い穏やかな顔で微笑み応える。
「…………そうですか、ご苦労さまでした『三番』」
「はは!」
『三番』と呼ばれた黒装束の男はその場に片膝をつき頭を垂れる、布で隠れた顔には緊張が見て取れた、何故なら。
「しかしです、そうしかしですよ『三番』、今[アンノーン]に背を向け撤退する事は果たして『主』の観心に添うものなのでしょうか?『主』が与えられし試練から、私は、私達は背を向けてばならないのでしょうか?」
「…………『守護者』ランシスの勅命です、お急ぎを司祭様」
そう、一度自分の世界に入ってしまったこの司祭は人の言う事など聞きはしないのだから。
「あぁ『三番』、『三番』『三番』『三番』『三番』!!私達は『シンシア』の所属の[異能力者]である前に、『主』の従僕では無いのですか!?であるのなら!であるのならば!!『主』が与えられし試練である[アンノーン]殲滅こそが!私達の最優先事項では無いのですか!!?それを、それをそれをそれを!!貴方は容認しろと!?なんたる事だ、なんたる事だ!『三番』あぁ『三番』!!!」
視界が振れる、『三番』の顔面に司祭の足がめり込み、尋常ならざる脚力で蹴り飛ばされた。
「ガァハ!!」
数メートル、まるで水切りの石の如く吹き飛ばされた『三番』は意識を手放した。
「…………ッハ!?私はなんて事を!?暴力とは『主』の従僕としてやってはならぬ事を、己の未熟さが恥ずかしい、『五番』『八番』、『三番』の手当てを、『二番』『六番』撤退の準備、『四番』『七番』は今ある[アンノーン]の殲滅を終わり次第『二番』『六番』に合流しなさい、皆『主』に信仰を」
「「「「「「『主』に信仰を!!!!」」」」」」
司祭ガルドルフは天を仰ぎ十字を切る。
「アーメン、ハレルヤこの私、さて『主』の次なる試練はなんでしょうか、あぁ『主』よ、我々にさらなる辛酸辛苦を与え給え」
彼等の去った後には[アンノーン]の死骸が散乱し、血と臓物の海が出来ていた。
彼は司祭ガルドルフ、己が信仰心の為、魔も人も区別無く殺戮を繰り返し、遂には終身刑を言い渡された狂気の神父、人呼んで[虐殺司祭]。
彼の進む道は常に他者の血で染まっている、全ては今だ垣間見えぬ『神』の為に。
ここまで読んでくれてありがとう御座います。
次回は20話です、来年も宜しくお願いします。
読者の皆様、良いお年を。
金林檎




