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楽園の鼠  作者: 金林檎
序章
2/22

プロローグ2

プロローグ1の続きです。

[異能力者]のルイス視点から始まります。

 私は奇妙に静かな道をたどって山道に入り、歩を進めた。

 狭い道は湿っていて、足裏に弾むような感じがある。

 私の足音はまるで海底を歩いている人の足音のように、どこかまったく別の方向から響いてく。


「やけに静かだ、動物や虫の出す物音がしない」


 定期巡回のため北山の様子を見に来たのだが、あきらかに普通じゃ無い、この異様な空気に覚えがある。


「『聖王国』での[変異種]が出現した時、このような感覚に陥ったが、まさか」


 うしろの方でかさっという小さな乾いた音がした。


「!?」

「アァ…ココ…キタ…ヨォ」


 驚いて振り返ると、しげみの奥から子供の声が聞こえた。

 もうすぐ日の出とはいえ夜の山に、それも此処は【外】にほど近い北山だ、村の子供が迷い込んで居たのなら保護しければ危険だ。

 この山の変化について村に報告しなければならない、子供を保護し速やかに下山することにした。


「ココ…ダヨ…ココ」

「あぁ待ってろよ、今行くから」


 周囲に気を配り近づくと、しげみが大きく揺れた。


「ッう!!?」


 激痛がはしる、触手のようなもので肩を貫かた。


「アハハハ…ハハ■シタ■ネァ…アハハハ!!」

「[アンノーン]だと!?馬鹿な!?」


 甲高い子供の声で笑う目の前の存在が、[アンノーン]であるのなら、目の前のそれは高度な知性を持ち、人の言語を理解している事となる、これは異常事態だ。

 この個体特有のものなのか、見た目は[通常種]のそれだ、だが[変異種]特有の気配を感じる。


「そうだ気配だ、なぜこの異様な気配に気づかなかった?」

「ナ゙ァ■ェ…ナゼ…ダァァァ■ネ゙ェェ!」


 両腕の突起を振り回し、こちらの【心臓】を目掛け襲いかかってくる。

 [異能力者]の異能は【心臓】に宿る、これを捕食した[アンノーン]は[通常種]から[変異種]に変わる。

 とするならば、目の前の怪物は[通常種]ということになる、基本的に[異能力者]の【心臓】を狙うのは[通常種]で[変異種]は【心臓】を捕食する必要が無いため、攻撃行動に法則性がない。


「クッ!」

「チョォォ…ダァ■ィ゙ィ゙」


 右腕に纏わせた異能力の蒼白い炎を[アンノーン]の外殻に浴びせるが、その身を焼く事無く弾かれてしまう。

 [通常種]ならば即座に消滅出来る異能力が通じない。


「チッ!どうなっている!?」

「アハァァ■!チョォォ■ィ゙!」


 [通常種]でありながら[変異種]に匹敵する身体能力、加えて人の言語を理解し扱う知能。


「まさか、進化したのか?この短期間で[異能力者]に対して適応する個体が現れたと言うのか!?」


 だから最初に気配で気づけず、[異能力]も効きづらく、言葉を操り罠も張る。

 たが[アンノーン]が世に現れて半世紀、生物が適応進化するにはあまりに早すぎる。

 だが一つだけ確かな事がある、それは。


「お前は必ず此処で仕留めなければならない!!」

「デェェ…キィィ…ル■ゥゥゥカ■ナァァァ」

「この身は猊下に使命されし『御使』、人に仇なす悪鬼羅刹を尽く滅する者なり!!」


 『聖王国』が定める『御使』になる為の絶対条件、[異能力者]の異能を覚醒させ[異界]の理をこの世に顕現させる事が可能であること。


「『今は遠き神秘の理よ、文明の発展と共に忘れ去られし異界の隣人よ、人界のあるべき姿に戻りたもう、今ここに顕現せよ、我が身に降りし、その力存分に振るうがいい!』」

「『異界接続』、〈罰虎〉!!」


 ルイスの身体が蒼白の炎に包まれ、体長6メートルの巨大な虎が爆炎と共に現れる。


「我が身に宿りしは、〈罰虎〉!!かつて大陸に四千年の繁栄をもたらしし大国にて、罪人を鏖殺せし獣の怪異なり!」

「モォォォ■ィ゙ィ゙ィ゙…カァァ…■」

「滅せよ!!!」


 〈罰虎〉の鋭い鉤爪で引き裂かれ、[アンノーン]の強靭な肉体から緑色の鮮血が舞う。


「ギィィ■ャ゙ャ゙ャ゙■ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙!!」

「ガァルル!悪鬼滅殺!ガアァァァ゙!!」


 [アンノーン]の尖った触手や鋭利な爪で体を貫かれながらも、〈罰虎〉の牙が[アンノーン]の喉笛噛みちぎる。


「ア…アァ゙■ァ゙ァ゙……」


 ぼろぼろと[アンノーン]の体が崩れ落ちていく。


「はぁはぁ、かしこみかしこみ申し上げ奉る、異界の隣人よ、人界を離れ元の常世に戻りたまえ」


 『異界接続』を解除する、怪異の顕現は意識を乗っ取られる危険がある為、余り長く使用する事が出来ない、顕現中怪異が受ける傷は解除後、全て[異能力者]自身に返ってくる。

 体の至る所で血が吹き出し意識が朦朧とする、今にも倒れてしまいそうだ。


「はぁッ…はぁッ…っく、血を流し過ぎた、早く村に戻らねば」











「■■■■■ユダンシタネ?■■■■■」

「がっぁ゙!!」


 [アンノーン]が崩れた肉体から己の頭部を切り離し、こちらの首もとに勢いよく噛みついた。


「(まずい、意識が遠のく、このままでは)」


 混濁する意識の中、頭の中から[アンノーン]の声が脳に響いた。




「■■■オニイチャンノカラダヲモラウヨ■■■」





           




            ◆










 朝日を受けた山の際が白っぽく粉を撒いたかのように見える、ひんやりとした山の静寂が冷え冷えと身肌に迫るようだ。

 最近冷え込んでいるとはいえ、動物や虫の気配がしないのは少々不気味に思う。

 僕が村の『教会』を出発し、北山の定期巡回のルートにたどり着いてから1時間程散策しているが、ルイス様の痕跡が見つからない。

 余り時間はかけられない、残念だけどルイス様を見つけられなかったと言う事も立派な情報だ、村に戻りアラヤ様と合流しよう。

 下山の準備をしている最中、小さいが確かに人の声が聞こえた。


「この声…ルイス様?」

「そこにイルノㇵ■シズクか…?」

「はい!そうです!よかった無事だったんですね!」


 僕は声のする方に駆け出した、山道を少し外れた木の陰に人影が見えた。


「駄目だ!キテハィ゙け■ない!ワタシ■から離れロ!」

「なぁッ!!?」


 木の陰から出て来られたのは、確かにルイス様だった。


「[アンノーン]!!!!??」


 身体の半分に覆い被さるように[アンノーン]がルイス様に取り憑いている。


「シズクよくキぎナサい、■■現状ヲありのままをムラニ゙■伝えルンだ、『聖王国』ニ゙使いをダシて救援ヲ!」

「しかしル、ルイス様が!」

「イイカラ行け!!!私がワタシで■■あるウチニ゙…■■頼む私が[アンノーン]に乗っ取られる前にどうか」

「ッ!!わかりました…必ず!!」


 僕は走り出した、準備していた荷物手に取り全力で足を動かし山を降りる。

 自然と目から涙が流れ出し視界が歪む、口からは嗚咽が漏れでる。

 どうして、どうして、どうして、どうして、どうして、頭の中でぐるぐると同じ言葉が繰り返される。


「早く早く早く村に戻らないと!うぅ゙ぅ゙、ルイス様が!」


 山道を駆け降りる、がむしゃらに走り抜ける、僕は全力で村に向かった。






            ◆









「■■■■■シズク、神父様、アラヤ、主よどうか皆にあなたの加護があらんことを■■■■■」


「■ムリダトオモウヨ?■アアモウキコエナイカ■ありがとう君の身体はとても居心地が良いよ」


 ルイスの体を完全に[アンノーン]の外殻が覆った、それは人の意識が消え失せ、乗取りが完了した事を意味する。


「なるほど、この先ある人間達の巣には1000匹を越える人間がいるのか、素晴らしい!!こんなに楽しそうなお祭りを『私』一個体で楽しむのはバチが当たってしまいますね~、そうだ!!素晴らしい事を思い付きましたよ!!【外】にいる[ミンナ]をお招きするのはどうでしょう!!きっと楽しいパーティーになりますよ!!」


 【人型】の[アンノーン]が嬉しそうに声を上げる、まるで夜の舞踏会を夢みる幼子のように。


「さぁ皆様ここですよ!!存っ分に遊びましょう!!」


ピィーーーーーーーーーーーーーーーーー!!

 【人型】から高音量の笛のような音が放たれ辺り周辺に響きわたった。


「いらっしゃいませ皆様、どうか一時の良い夢を」







            ◆







 最初に異変に気が付いたのは南門で見張りをしていたアラヤだった。


「おいおい、冗談だろ」


 次々と山から降りてくる[アンノーン]の群れ、100や200では済まない数が津波のごとく押し寄せる。


「神父の爺様が言ってた悪い予感が的中してるじゃないか!!全くこんな時にうちの『御使』さまは何処で油売ってんだ!?」


 村へ入る事が出来るのがこの南門だけだ、ここを死守すれば[アンノーン]が何百匹いようが村に侵入されることはない、裏を返せばこの南門が突破されればもう後が無い。


「一体何匹いやがる!?俺の異能で何とかなんのかこれ!?」


 神父が此処に警告しにきたのは1時間程前だ、村人達の地下施設への避難はまだ済んでないだろう。


「兎にも角にもまずは足止めだ、村の連中が非難出来る時間を稼がなくちゃな!」

「それは困るから止めてくれませんか?」


 自分以外いないはずの見張り塔で、聞き覚えがある声が背後から聞こえた。


「おい、どうなってやがる」

「何がですか?」

「なんで[アンノーン]がルイスの声で喋ってんだ!!」


 突然現れ、不気味な程に流暢に話す[人型]の[アンノーン]は、顔を歪ませ、楽しげに言葉を紡ぐ。


「ええ!!ええ!!この[異能力者]の身体は、とても気に入っていますよ!!このような優秀な個体は初めてですので、少々はしゃいでしまいました!!」

「そうかよ、ルイスの野郎は殺られたかよ、テメェによぉぉ!!」

「そうですよ?そして貴方も同じ運命ですので、どうか諦めて下さい!その身体に宿る[異能力]も有効に活用してあげますから!!」


 [人型]の腕から蒼白の炎が噴き出し、アラヤに襲いかかる。


「しゃらくせぇぇい!!」


 アラヤの[異能力]が発動し全身が朱色に変色、瞬時に硬化すると、突き出した腕を大きくふるい、蒼白の炎を弾き飛ばし、返す刃で[人型]に殴りつける。


「しゃおらぁぁぁぁぁぁぁ!!」

「ガッ■ぅ゙!」


 [人型]が吹っ飛び、見張り塔の壁に叩きつけられた、顔面の外殻にヒビが入り、緑色の血が流れ落ちる。


 「襲う順番間違いたなぁ[変異種]、俺とルイスの[異能力]じゃぁ俺のが相性がいい、ルイスの仇取らせてもらうぜ!!」


 [異能力]で硬化された両腕での高速の連打が[人型]の全身に打ち込まれ、外殻が陥没していく。


「ガァ■ァ゙!?な、なんだ、このチカ■グフッ」

「これでぇぇ終わりだぁぁぁ!!」


 アラヤの渾身の右ストレートが[人型]の胴体に突き刺さり外殻が弾けとぶ、体が矢のように飛んていき、勢いよく壁に激突した。

 見張り塔の一部が崩れ落ち、[人型]を生き埋めにする。


「ふぅ、確かな手応えはあったがルイスが遅れを取った[変異種]だ、念の為確実にとどめを刺すか」

「いえいえ、それには及びませんとも」

「っ!?」


 瓦礫の山から蒼白の炎が漏れ出し、その中から[人型]の不気味な声が響いて聞こえた。





「『今は遠き神秘の理よ、文明の発展と共に忘れ去られし異界の隣人よ、人界のあるべき姿に戻りたもう、今ここに顕現せよ、我が身に降りし、その力存分に振るうがいい』」

「『異界接続』〈罰虎〉」





 爆炎で瓦礫が吹き飛び、中から蒼白の炎を纏った巨大な虎の怪異が現れた。


「ば、馬鹿な、『異界接続』だと!?ありえない!!〈罰虎〉が[アンノーン]に助力してやがんのか!?」

「少し違いますよ?ひ弱な人間と一緒にしないで下さい、ねじ伏せ、従えたのです、『異界』の怪異とて生物だ、かなりのじゃじゃ馬でしたが、うまく乗りこなす事が出来ましたよ」

「な!?」

「では、そろそろ幕を下ろしますか、貴方とのダンスは刺激的でなかなか楽しかったですよ」


 〈罰虎〉の前脚が勢いよく振り下ろされる、とっさに防いだアラヤの硬化した両腕を容易く引き裂き、【心臓】を引き抜いた。


「かっふぅ…」


 アラヤの体がゆっくりと倒れ、地面に横たわる、もう動かなくなった「それ」に興味が失せたのか、[人型]は先程抜き取った【心臓】を口に運ぶ。


「おおぉぉ、なるほど〈金鬼〉ですか、通りで硬い訳です、しかし、これはなかなか〈罰虎〉との相性がいいですね、同じ場所に割り振られる訳だ」


 [人型]は軽い足取りで見張り塔から南門へと向かい、内側から門を開け放った。




            ◆




 まだ夜が明けたばかりの早朝アラヤが危惧していた通り、神父の曖昧な理由か、村長の判断の遅れか、平和ボケした村人達の慢心か、まだ避難が出来ていなかった。

 村の内部に数百の[アンノーン]が群れをなしてなだれ込んでくる、本来村の守護者たる[異能力者]はすでに殉職し、彼等の庇護を無くした村人達は、ただ[アンノーン]による蹂躙を殺戮を受け入れほか無かった。


「皆さん落ち着いて、『教会』の中へ入ってください」


 数名の孤児を連れ、神父は『教会』の地下施設を目指していた、村の全滅は免れないがせめて子供達だけでもと、礼拝堂の地下にある避難所で時間を稼ぎ、『聖王国』からの救援を期待するしか方法が無いと判断したからだ。


「さぁ、着きましたよ、皆さん慌てずに、押さないでください」

「おや、遅かったですね、待ちくたびれてしまいましたよ」


 地下室の奥から声をかけられ、少し驚いたが、聞き慣れた声に安堵する。


「そこに居るのはルイス君ですか?良かった無事だったのですね」

「フフ、シズクと同じ事を言うのですね」

「シズクさんと合流できたのですね、彼女も此処に?」

「いえいえ、彼女には逃げられてしまいました」

「?いったい何を…っ!?」


 バン!と音を立て地下室の扉が閉まった。


「この巣の人間も残すところ貴方達だけとなりました」

「あなたはルイス君では、ない、のですね[変異種]よ」


 暗闇の中神父のいつもと違う声色に、子供達が反応する。


「今の大きな音なに!?」

「え?なに?どうしたの?」

「神父様、大丈夫?」

「今の声ルイス様だよね」

「やった!『御使』様外の怪物やっつけて!」


 神父は騒ぐ子供達を背に隠し、[人型]に向き合った。


「その言葉が正しいのであれば、アラヤ君も…」

「ええ、ご想像道理ですよ」

「そう…ですか」

「楽しいパーティーも終わりが近づいてきました、名残惜しのですが、そろそろ幕引きですね」


 自らの死期を悟り神父は天を仰ぎ【神】に祈る。


「おお、主よ」


 ルイスに擬態した顔を歪ませ、[人型]は楽しそうに言葉を放つ。


「無駄ですよ、貴方がたの信じる【神】は、決して人間を救わない、何故ならこの私が此処にいる、この巣に居る何匹もの人間達が救いを求めても、彼らは死に、私は生きている、これが現実です」


 神父は表情を崩さずそれに応える。


「ええ、そうですね、我々はもう助からないでしょう、だが弱肉強食、自然の理から外れ、ただ殺戮を繰り返すお前達には、必ずや神罰が下る事になるでしょう」

「フハ、フハハハハハハハ!!最後の最後に笑わせてもらいました!人間とはかくも愚かなことか!!」


 [人型]が笑い飛ばすが、神父の口はまだ言葉を紡ぐ。


「お前は【シズク】様を手に入れる事は叶わない」

「一体何を言っているのです?」

「決してお前は[王種]には決して至れない」

「■ッ!!」


 神父の言葉を聞き[人型]の余裕の態度が崩れ、ルイスの擬態が保てなくなり、[アンノーン]の顔が露わになる。


「お前達の【神】はそれを望んでいない」

「■■ダマレッ!!」


 激昂した[人型]の鋭利な爪が神父の首を切り飛ばす、神父の顔は何処か満足そうな表情を浮かべていた、神父の生首を見た[人型]はさらに不機嫌となり、彼が最後まで庇っていた子供達を次々と惨殺した。


「チッ、後味の悪い幕引きでした、しかし【シズク】でしたね、そうです、確かにあの時は体の乗っ取りに意識割いて気付かなかったが、そうですか、彼女を取り込めば、ワタシハ[王種]に至るノデスネ」


 真っ赤に染まった地下室を後にし、[アンノーン]は《最後》の人間の下へと向かった。




            ◆


 


 僕の目に地獄が写り込んでいた、山道を駆け下り村に続く坂道に差し掛かった時、村を一望出来る小さな山の斜面で、血と炎で真っ赤に染まる村を目撃してしまった。

 村で一番大きな村長の屋敷が火に包まれ、いつも賑かな中央広場には夥しい数の[アンノーン]が逃げ惑う村人を虐殺している、そして避難施設があり、僕達の住む『教会』は崩れ瓦礫の山となっていた。


「あ、あぁぁ!村が、み、皆が…!」


 僕は膝から崩れ落ち、顔を伏せる、目から溢れ出す涙を止める事が出来ない。


「ぅ゙、うぅ゙ぅ゙、ぁぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ!!」


 神父様も、孤児の仲間達も、村の皆も、皆のいる村も、帰るべき『教会』も、全部、全部[アンノーン]が壊していく。


「あぁぁ主よ!偉大なりし【神】よ!!どうか、どうか、迷える我々に救いを!大いなる慈悲を!」


 もはや【神】にすがるしか無いと天を仰ぎ、僕はただ叫び祈る事しか出来なかった。


「『神よ、みずからを天よりも高くし、みさかえを全地の上にあげてください。それでわたしはあなたの力と栄えとを見ようと、聖所にあって目をあなたに注いだ。そのみ名の栄光を歌え。栄えあるさんびをささげよ。わたしは主にむかって、その儀にふさわしい感謝をささげ、いと高き者なる主の名をほめ歌うであろう。いと高き者よ、あなたによってわたしは喜びかつ楽しみ、あなたの名をほめ歌います。』」

「素晴らしい!!なんとゆう信仰の心!それは聖書の一節、『栄光』そして『寛美』ですか?」

「この巣にはもう貴女しか残っていないとゆうのに!ああ!なんと愚かな!!」

「本当に人間は愚かで気持ちが悪い」


 ぞっと、背筋が寒くなる、背後から聞こえたのはルイス様の声だった、アラヤ様の声だった、そして神父様の声だった、目の前の怪物に誰を殺され取り込まれたのかが解ってしまう、目に涙が溜まり嗚咽が漏れる。


「ぅ゙ぅ゙…」

「おや?どうしましたか?【シズク】さんまだ『感謝』を読み上げていませんよ?さぁ続けなさい、ええ、ええ!もしかしたら【神】が聞き届け、私達に神罰を下すかも知れませんからね!アハ、アハハハハハハハハ!!」


 ゲラゲラと僕を人間を見下し嘲笑う[アンノーン]に、皆の仇に僕は何もできない、悔しい、恐ろしい、助けて、助けて、助けて、助けて!!【神】様!!!


「ぅ゙…『わたしは心つくして主に感謝し、あなたのくすしきみわざをことごとく宣べ伝えます。わたしは歌を持って神の名をほめたたえ、感謝ををもって神をあがめます。わたしは感謝の生贄をあなたに捧げて、主の名をよびます。』」

「やはり【神】は人間を救わない!!我々を裁かない!!ああ、ああ!!無駄な努力お疲れ様でした!!本当に、本当に感謝を!!【シズク】さん貴女を喰らい私は[王種]に至るのです!!さぁワタ













シ■■■■……エ?」


 僕を喰らおうと近づいた[アンノーン]が突然真っ二つに引き裂かれ、絶命した。


「…………あ」

「(無事か?)」


 大きな蝙蝠の翼を羽ばたかせ、暗闇を思わせる薄黒い肌、3メートルはあろう巨大な身体からは黒い御光が差す、直接頭に響く声色は神聖さを帯びていた。

 まさしく、この御方は。


「神……さま」




 

 この時の事を決して忘れないだろう、故郷を、家族を、全てを失ったその日、僕の下に神が降臨した。

 


 

ここまで読んでくれて、ありがとうございます。

次回の1話から主人公視点で物語が続きます。

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