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楽園の鼠  作者: 金林檎
第1章 蝙蝠神の契約者
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第8話 無人都市『シンシア』

第8話です。

『守護者』ランシスの視点で進みます。

 推定『王族』御一行様がこの都市に訪れた翌朝、私は今日も仕事に忙殺されていた。


「だ〜!!やってもやっても仕事が終わらない!!人が、人員が少なすぎる!!そもそもなに!?最前線防衛都市に戦闘員がなんで500人しかいないの!?『御使』が居ればいいってか?ふざけんじゃないわよ!『選抜者』を4000いや4500人は欲しい!都市防衛なんだから5000人は最低でもいるでしょ!!『聖都』の連中は一体なに考えてんのよ!?……ぁ」


 ハッ、っと我に返りキョロキョロ周りに人が居ないか確認する、実務室には誰もいない、ホッと胸をなでおろす。


「よかった、誰にも聞かれてない、これまで保ってきた私のイメージが壊れるとこだった、気を付けなきゃ、今は都市内に『王族』も居るんだから、……それとなく『聖都』に人員の派遣を頼んでみようかしら、身分を偽っての極秘の任務みたいだけど、現状の『シンシア』を見てもらえば聞いてもらえると思うのよね」


 20人は余裕で入る広い実務室の中、1人で仕事をするランシスの独り言は続く。


「秘書が欲しい、書類仕事が出来る人員も欲しい、なんでいないの?普通居るよね?………いや、おかしい」


 僅かな違和感、気付いてしまえば疑問が次々と溢れてくる。


「このクラスの都市の人口は大体50万人くらいのはずなのに、今の都市の人口は1万人弱、明らかに変よ、なぜ今まで疑問に思わなかったの?」


 新たな違和感。


「人口1000人って村クラスよ、戦闘員10人非戦闘員200人計50人、あれ?」


 思考から段々と何かが抜け落ちていく。

 背筋に怖気が走る。


「この都市の人口は私1人だけ?」

「お姉さん、遊びましょう」

「ッ!!?」


 自分以外に誰もいない実務室に突然1人の子供が現れた、『守護者』である私の結界に感知されすに。


「遊びましょう?」

「遊ぼうよ」

「一緒に遊ぼう」

「いっぱいいっぱい遊ぼうよ」

「………………」


 次々に増える子供達の問いにランシスは無言で返す。


(恐らく『日本』系統の怪異、このタイプは相手の質問に答えてはいけない、『日本』系統の怪異は純粋なパワーでなく概念的な力で人を狩る事が多い、相手のルールに乗らず、こちらの暴力を押し付ける!!)


 瞬時に戦闘へと意識を切り替え、目の前の脅威に対処する。


「『アムズガーデン・オーロラベール』」


 子供方の怪異の周りにカーテン状の結界が張られ、動きを封じる。


「キャー!」

「なになに?」

「閉じ込められた!」

「かくしんぽ?」

「ケイドロ?」

「楽しいね!」

「楽しい楽しい!!」


 カーテン状の結界が段々と絞られるように狭まっていく。


「『セレクト』」


 結界が捻じれ、絞られた端から勢いよく血が噴出した。


「あ〜!!死んじゃった!」

「いけないんだ!!」

「ヒトを殺しちゃだめなんだ!!」


「『我等は歌を歌いましょう、貴方を讃える歌を歌いましょう、祖は偉大なり、祖は言霊を纏い我等に真実の道を示す者、歌いましょう、歌いましょう、貴方を讃える歌を今ここに、我等は貴方に捧げましょう、『異界接続』〈アルタエル〉』」


 ランシスの身を純白の翼が包み込む、全身が発光し翼はほどけ、その姿が露わになる、頭部には散々に輝く光の輪が、その顔は目も鼻も口も無いのっぺりとしたものとなり、その背には目もくらむ美しい純白の翼が6枚、その身は神聖さを放つ聖な布を纏い堂々とその場に佇む。


〚シサタヤ、シサタヤ、オオウニシウニ、覆い給え、応え給え、我こそシヴァの死屍ぞ、『異界顕現』〈霧酸地獄サンノウジヘン〉〛


 赤い霧が部屋に充満する、瞬く間に視界が赤一色に染まった。


「あれ〜?」

「なにも見えない〜」

「真っ赤か!」

「なんだろう?」

「なんなんだろう?」

「かくれんぼ?」

「かくれんぼ〜?」


 段々と赤い霧が濃くなっていき、一寸先も見えなくなる、霧の中でランシスの声が響いた。


〚サマヨウ異界ノ怪異ヨ、汝ノ罪ヲ許シマショウ、ソノ罪科ヲソノ身ニ浴ビテ、主ノ下へ旅立ナサイ〛


「キャー!!」

「痛い痛い痛い!!」

「苦しよ―!!」

「いやー!!」

「助けて―!!」

「アァ゙ァ゙ァ゙ァ゙―!!」


 赤い霧の水滴に触れた皮膚が爛れ、霧を吸い込んだ肺は内側から溶けていく、溶け出した体は徐々に人の形を保てなくなり、やがて幼子の断末魔は聞こえなくなった。


〚酸ト硫黄ノ審判ハ下リマシタ、主ヨ、今貴方ノ下へ罪人ノ魂ガ逝キマシタ、貴方ノ慈悲デ許シ給エ〛


 ランシスは左腕で十字を切り、祈りを捧げる。


〚アーメン〛


 静寂に包まれた部屋でランシスは『異界接続』を解除して、強張った身体をほぐし、ほっと息を吐いた。


「ふ〜、上手く仕留められた、『異界顕現』で倒せてよかった〜、てかなにあの怪異?恐らく[異能力者]が[異能]の覚醒の際に、大元の怪異に乗っ取られたんだろうけど………、とにかく、これで消えたであろう都市の人達も元に戻るはず、戻るわよね?うん、[アンノーン]に対する最前線防衛都市が私1人なんて流石にあり得ないし大丈夫、都市クラスの人口を消すなんて、一体どんなからくりで」

「殺したね?」

「………え?」


 突然目の前に仕留めたはずの怪異が現れた。


「クッ!!『異界接続』!!」

「僕達を殺したね?」

「ッ!なんで!?」


 再び『異界接続』をしようとしたが、[異能力]が扱えない。


「私達を殺したね?」

「――っ!?――!!」


 声を出すことが出来ない。


「ペナルティ」


 身体を動かすことが出来ない。


「ペナルティ」「ペナルティ」「ペナルティ」「ペナルティ」「ペナルティ」「ペナルティ」「ペナルティ」「ペナルティ」「ペナルティ」「ペナルティ」「ペナルティ」「ペナルティ」「ペナルティ」「ペナルティ」「ペナルティ」「ペナルティ」「ペナルティ」「ペナルティ」「ペナルティ」「ペナルティ」「ペナルティ」「ペナルティ」「ペナルティ」「ペナルティ」「ペナルティ」「ペナルティ」「ペナルティ」「ペナルティ」「ペナルティ」「ペナルティ」「ペナルティ」「ペナルティ」「ペナルティ」「ペナルティ」「ペナルティ」「ペナルティ」「ペナルティ」「ペナルティ」「ペナルティ」


 身体の感覚が消える、五感を失う。


「可哀想なお姉さん」

「意地悪なお姉さん」

「可哀想で意地悪なお姉さん」

「でも大丈夫」

「許してあげる」

「だから」

「遊びましょう?」

「僕達と遊びましょう?」

「私達と遊びましょう?」


 分からない、なにも分からない、ただ首が縦に動いた。


「遊びましょう」

「遊びましょう」

「我等と共に遊びましょう」


 二人の子供が手を繋ぎアーチを作る、その他の子供が列を作り、ランシスも列に加わる、子供達の列は歌に合わせて次々とアーチを潜って行く。


「とおりゃんせとおりゃんせ♪」

「ここはどこのほそみちじゃ♪」

「てんじんさまのほそみちじゃ♪」

「ちっととおしてくだしゃんせ♪」

「ごようのないものとおしゃんせぬ♪」

「このこのななつのおいわいに♪」

「おふだをおさめにまいります♪」

「いきはよいよい♪」

「かえりはこわい♪」

「こわいながらも♪」

「とおりゃんせ♪」

「とおりゃんせ♪」


 ランシスが列を潜ろうとすると、丁度歌が終わりアーチが落ちる。


「つかまえた」


 ランシスはなにも感じない、なにも分からない、あるかないか分からない意識は、彼女の存在と共にこの世界から消え去った、この都市の最後の住民がいなくなった。


「終わったね?」

「終わった、終わった」

「始まるね?」

「はじめよう、はじめよう」


 此処は無人都市『シンシア』、『聖王国』の重要な防衛の要、世界で一番静かな都市。


「お兄ちゃんと」

「お姉ちゃんと」

「「「「「「「「楽しく一緒に遊びましょう」」」」」」」」


 誰もが消える不思議な都市。



 




 


 

ここまで読んでくれてありがとうございます。

次は第9話です、次回もよろしくお願いします。

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