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錬成術士さんは神に認められる生命を創りたいそうです。  作者: 粕之助
一章 ティアさん宅の擬似家族
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第八話 ティア先生のやさしい魔法学基礎


少女が家に来てから、かれこれ五日が経った。

名付けに関しては、俺がヴェラ、ティアさんがフテロフロガスという案を出した。エルフが付ける名前は長いと相場が決まってでもいるんだろうか?

それでどちらの名前にするか、本人に打診することにした。すると少女は


「わたし、どっちもほしい!」


と元気よく言った。ので、ヴェラを名、フテロフロガスを姓という扱いにしようということで、名付けの件は幕を閉じたのだった。


「今日から君はヴェラ・フテロフロガスだ。改めてこの家へようこそ、君の気が済むまでここにいるといい」


少女はティアさんのその言葉に、これ以上ないほどの笑顔で返した。


……これが三日前のことである。


名を与えられたヴェラは、それまで以上に活発になっていた。元気なのはいい。素晴らしいことだ。だが……


「ヴェラ、また壁を壊したのか」


元気すぎるあまり力の制御が効かないのか、しょっちゅう壁が破壊されていた。パワーはさすが古代魔鳥と言うべきか。ティアさんは子供だから仕方ないという気持ちと疲労半々の顔で壁を修復している。その隣では、白くてふさふさの毛が生えた兜ヤドカリの合種がそれを手伝っていた。この前俺が見学していたときに創った合種だろう。

ヴェラに関しては一応、温かく見守っていけたらいいね、という感じの方針ではあるのだが……このまま家を破壊され続けたらティアさんの胃まで壊れかねない。


「ティア、いつもごめん。わたしもかべこわすのやめたい」

「その気持ちだけで十分嬉しいけど、制御はできるようにならないとね」

「そうだ、魔法学を教えてみるのはどうですか?」


二人とも、きょとんとした顔をしてしまう。しまった、何か間違えてしまったか。


「いい案じゃないか!自分の中にあるものが何なのか知れば、ヴェラもやりやすくなるかも」

「ヴェラ、勉強をしてみる気はないか?うまくいけばもう壁を壊さなくて済む」

「うん、やる!べんきょう、たおす!」


ヴェラは乗り気なようだが、そもそも勉強というものがなんなのかよく分かっていないらしい。思わず吹き出してしまう。


「善は急げだ、今からやろうか」

「じゃあ俺は席を外してるので、お二人でどうぞ」


鍛錬でもしていようかなと立ち上がると、ティアさんに肩を掴まれる。


「アヨくんも聞いてなよ、がむしゃらに鍛えるより知識を得た方が効率いいかもよ」

「……俺が鍛錬の内容変えたの、知ってたんですか」

「そりゃ、慣れないことしてる魔力は分かりやすいし」


なんだか少し恥ずかしい。俺的には秘密の特訓的なノリだったのに、思いっきりバレていたとは。俺は顔を赤くしながら、もう一度着席した。


◇◇◇


「アヨくんにヴェラ、まず初めに断っておくが私は学院の出じゃない。今から説明することが間違っているかもしれない、というのは頭に入れておいてくれ」


初めて知る情報が何気なく流される。ティアさんって魔法学院出身じゃないのか、じゃああの魔法は全部独学で……?それとも師と呼ぶべき人がいるんだろうか。


「私たちが魔力と呼ぶものについて話そう。まず魔素と魔力の違い……ってこれはどうでもいいな。ええと、魔力は基本、魔力器官にため込まれ行使される。脳が魔力器官の役割なのに手から魔法を出せるのは、魔力が体内を自由に移動できる性質を持つからだ」

「へえ、初めて知りました」

「冒険者だと使えればよくて理屈は二の次、ってのが多いかもね」


そういった後彼女は恥ずかしそうに、まあ私もどっちかと言えばそうなんだけど……と付け足した。


「で、魔力を体の一部分に流し込むことで簡単な強化もできる。もちろん強化魔法に比べたらずっと原始的な方法で効果も薄いが、膨大な魔力ならその分強くなるんだ。ヴェラの力がやたら強いのは多分これが原因」


これは聞いたことがある。魔法を使うより体内の魔力を操作する方が直感的にできるから、この方法を好む冒険者も一定数いるそうだ。


「わたしつよいの、まりょくのせい?」

「うん、でもこれは簡単な訓練で制御できるようになる。私の手を握ってみて」

「はい!ティアのて、つめたくてすべすべ」

「ありがとう。じゃあヴェラ、私の手を思いっきり握ったらどうなってしまうと思う?」


その言葉にヴェラは少し驚いたような顔をし、ティアさんの手をペタペタと触って確かめる。


「こわれちゃうとおもう」

「だろうね。でもこれならどうかな?」

「……!」


ティアさんが手に魔力を込めたのだろう、ヴェラの顔色が変わる。


「すごい!ティアのて、すべすべなのにかちかち!」

「そうだろうそうだろう、魔力を移動させればこういうことができるんだ。ヴェラはきっと無意識で体全体に魔力が行き渡ってるんだろう、引っ込める練習をしようね。今見たのとは逆だ」

「うん、がんばる!」


ヴェラの目が輝く。やっぱり子供はこうして笑顔でいた方がいい。見ている俺までつられて笑顔になってしまう。


「見てヴェラ、アヨくんがニヨニヨしてる。ニヨくんだ」

「ニヨ?」

「変なこと教えないでくださいよ……」


◇◇◇


あの後もティアさんの授業は続き、ヴェラが疲れて眠くなってしまったところで中断された。思い付きで始めたことだったが効果はてきめんなようで、授業終了直前にティアさんがヴェラに壁を殴らせても壁は崩れなかった。子供の飲み込みは早いものだ。俺もヴェラ程ではないが、結構魔力の扱いが身についたと思う。実践を重ねて行き詰まったら知識に頼れとはよく言ったものだ。


(ああ……こうやって情報を詰め込んだ日って、夢見やすいんだよな)


そんなことを思いながら、俺はベッドに転がった。

魔素は特に大気に満ちているものや物質を構成するものを指す。しかし冒険者は言葉の定義をいちいち気にしなく伝わればいいという思考の人間が多いので全部ひっくるめて魔力と呼ぶ。ティアも別に学者というわけではない(本人はそういう気分でいる)のとアヨが魔力呼びなので引っ張られている。

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