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錬成術士さんは神に認められる生命を創りたいそうです。  作者: 粕之助
一章 ティアさん宅の擬似家族
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第七話 謎の少女の目覚め


「んん……朝か」


まだ外が薄暗い早朝、俺は目を覚ます。いつも通りだ。顔を洗い服を着替え、外に出る。ティアさんを起こすまでは鍛錬の時間だ。


「素振り……いや違うな」


俺はダンジョンで、古代魔鳥の首を自力で落としきれなかったことを思い出す。あれほど完璧な条件で剣を阻まれたのは、初めての経験だった。

結局ティアさんの強化付与ありきで倒せたのだ。俺も魔力操作をもっと上達させる必要があるのかもしれない。


「今やってるのはこうだろ……」


剣を握り、魔力を流し込む。魔力は剣全体に広がっていった。これでは攻撃の際に無駄がある。攻撃対象に接する部分だけに魔力を偏らせることができれば、攻撃力はもっと増すだろうが……


「思ったより難しいな」


試しに切っ先にのみ魔力を集めようとしてみたが、どうしても途中で止まってしまう。俺に魔力操作の才能は無いのかもしれない。


「……いや、才能のなさを言い訳にしてるようじゃまだまだだな」


もう一度、もう一度と魔力を剣の切っ先に集めようとする。あの力に頼らずとも、俺はもっと強くならなければいけないのだ。

──ティアさんに、俺の立場がバレないように。縛りを課した身でも、全部守り切れるように。


◇◇◇


随分空が明るくなり、ティアさんを起こしに行こうかという頃。家の中から慌ただしい足音が聞こえてくる。目の前に飛び出してきたのは、やはりティアさんだった。


「アヨくん!あの子が目を覚ました!」

「本当ですか!」


ティアさんの手の中にある輝石がこれ以上ないほど光っている。どうやら本当にあの子が起きたようだ。


「行きましょう、俺もついていきます」


つい最悪の事態を想定してしまう。あの子が俺たちに攻撃してきたら。また俺一人でやりきれなかったら。


「アヨくん、また眉間にシワだ」

「いたっ、デコピンしないでくださいよ」

「相手は子供だぞ、急にしかめっ面の男が来たら怖がるかもだろ」

「……確かに。なるべく笑顔でいきます」


そんなやり取りをしつつ、客室に入る。

そこでは女の子が朝日を浴びながら、俺たちの方を振り向いていた。鮮やかな赤い髪が光に照らされキラキラと輝き、白いワンピースが開いた窓から入る風にたなびいている。美しい少女という形容が何よりも似合いそうな光景だ。


「……あなたたち、だれ?」

「私は錬成術士のミクロサフティア、ティアと呼んでくれ。こっちは……」

「ティアさんに雇われてる、冒険者のアヨ・スローンです」

「……?ティア、アヨ?」


少女がそれぞれ指をさして確認する。その仕草はどこかたどたどしい。


「そう、私たちは君をダンジョンから連れ出したんだ。大怪我を負ってた」

「ダン……ジョン……?」


少女は首を傾げる。まさか、何も分かっていないのか?俺はティアさんを小突き、共に部屋の外に出るよう合図する。


「一旦席を外させてもらいます」


女の子に目線を合わせて話しかける。少女は相も変わらず、首を傾げたままだった。

ティアさんと二人で客室を出て、後ろ手に扉を閉める。


「記憶がないみたいですね」

「それも厄介だが……元気な姿を見て確信した。あの子は古代魔鳥だ」

「やっぱり……でもそしたら、記憶が無いのは好都合ですね」

「あの可愛い顔で凶暴性を秘めてたりするのか?考えたくないね」

「とりあえず、覚えていることを聞き出しましょう。異常解決の糸口になるかも」


顔を見合わせ、また客室に入る。少女は先程と変わらぬ位置に佇んでいた。


「ね、私たちはさっき自己紹介したけど、君に聞くのがまだだった。君の名前を聞いてもいいかな?」

「なまえ、わたしの?」


少女は不思議そうに聞き返す。


「わ、わからない……」

「じゃあ、ここで目覚める前何をしていたか、とかは覚えてますか」

「あ!それはわかるよ、かたくてくらいばしょにまよいこんで……きづいたらここにいた」


恐らくダンジョンでの記憶だろうが、どうやら俺たちに危害を加えられた記憶はないらしい。自分勝手だが、少し安心した。


「その前は?」

「うーん……わかんない。ぴかってして、びっくりしておきたよ。すごくこわかった。びっくりしすぎて、かたくてくらいばしょにきちゃった」

「そうですか、話してくれてありがとうございます」


俺はしゃがみ込み、彼女の頭を撫でた。彼女は嬉しそうに俺の手にすり寄る。


「まだ起きたばかりだし、もう少し安静にした方がいいだろう。あとで軽い朝食を持ってくるから、食べたらまた寝ていていいよ」

「うん!わたし、たべるのすきだよ。ねるのもすき」

「ふふ、じゃあきっとすぐ背が伸びるな」


ティアさんと少女が仲良くじゃれ合う。いかんせん二人共見た目がいいので、目の保養になるなぁと思いながら眺める。


「そうだ、名前が分からないなら、私たちで名付けしてもいいかい?」

「なまえ、ティアとアヨが、わたしに?ほしい!ほしい、なまえ!」

「だってさ、二人で相談して決めるからアヨくんも考えておくんだぞ」


ビシッと指をさされ、お前も名付け親になれという旨の宣告を受ける。


「いいですけど、センスに期待しないでくださいよ」

「わたし、ふたりがくれるのならなんでもいいよ!」

「おや、可愛いことを言うじゃないか?」


近くにあった椅子を引き、仲睦まじげな二人の様子をじっと見る。

日常は急速に変化しつつあるけど、きっと悪くはならないと感じた。

急に懐いたのは元々人懐っこい性格なのもそうですが、鳥特有の刷り込みな部分もあります。

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