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第三十一話 変質の呪い


「……ヴェラに、呪いが掛けられてたってことですか?」


衝撃的な発言に目眩がしそうになる。魔人に掛けられたものと同じ呪いが、あの子の中にも?どうなっているんだ?


「この呪いについて、知っていることを教えてくれ」

「はっ……乱暴にしておいて、要求が…早いです」


魔人は未だに息を乱している。俺はやられたことが無いので分からないが、自分から迎え入れる形で魔力……というか体内を探らせると、物凄く負担がかかるらしい。あんなに強力な魔人でも内側は弱いんだな、と思った。


「それ……は、変質の呪いです。ワタシはそれによって、四足の獣から人間の姿へと変貌しました」

「……最初からそうだったってことか…………」


あの時のダンジョン攻略を思い出す。ダンジョンの一層に古代魔鳥が出現したことや死にかけの女の子にばかり気を取られて、ヴェラが古代魔鳥の変化した姿だということをそこまで追求していなかった。異変続きだったし、きっとそういうものなんだろうという思考停止。


「……あ、そういえば魔人の発生時期とヴェラがダンジョンに出現した時期が被ります。元々魔人が呪いを受けていて、魔人が目覚めることでそれが撒き散らされたとか」

「アヨくん、冴えてるじゃないか……ねえ、この呪いって有害なもの?」


ティアさんは魔人に問いかける。魔人はようやく落ち着いてきたようで、ティアさんを睨みつけるようにして答える。


「ワタシからすれば有害です。変成は激しい痛みを伴いますし、何より神の痕跡ですから」

「呪いを自ら行使しようとしなければ無害かい?」

「……分かりませんが、現時点では恐らくそうです。それに、アナタ達が言っている者が受けた呪いはワタシのそれと比べ物にならないほど弱いものでしょうし」


これはヴェラに知らせるべき事項なんだろうか。知らせないのが正道な気もするし、知らないうちに自らの中にある異物に気付いてそれを弄り回してしまったらと考えると、教えた方が良い気もする。


「これは神に植え付けられたものなんだよね?変質以外の効果はある?」

「直接的な効果かは疑問ですが、ワタシは獣だった時よりずっと強くなりました。寿命も恐らく延びているかと」


ティアさんは口に手を当て、静かに考え込む。今日は本当に、情報量の暴力のような日だ。これでティアさんの悲願に近付くなら問題無いが、ただ厄介事が発覚しただけのようにも思える。


「……今日はここまでにしよう、また後日改めて来る」


彼女は姿勢を直し、壁に立てかけていた杖を手に取る。拘束具を浮かして元々魔人に巻かれていたようにしようとしたとき、魔人が口を開いた。


「この男に個人的な用があります、二人きりにして頂けますか?」

「えっ」

「……危害を加えないなら」


俺の意向を聞くことなく進められている。別に反論がある訳でもないので良いが……。


「じゃあ先に帰ってるね。雇用主として帰りの馬車代は渡しておいてあげよう」


いくらかの硬貨を手渡し、ティアさんは手を振りながら帰っていく。もっと何か……何かないのか。ここで俺に危害を加えたら取引が反故になるから魔人は手を出しようが無いとはいえ、こう……何か無かったのか!?


「ふふ、そんなに警戒しないでください。ワタシはアナタを取って食べたりしませんよ」


振り返ると、先程までと同じように魔人が椅子に座って笑っている。ティアさんと同じ顔というだけなのに、どうにも調子が狂う。


「……食人が当たり前の奴にそう言われても」

「そんな事を言わずに。アナタに個人的な興味があるんです」


魔人は立ち上がり、俺の方に歩み寄る。石の上を通る裸足が、ぺたぺたと音を立てた。

魔人が伸ばした手が俺の手を掬い上げ、両手で俺の左手を包み込む。体表はひんやりとしているのにどこか心地よく、不思議な感じがした。


「どうでしょうか?」

「……何がだ?」


魔人はきょとんとした顔をした。そんな顔をされても俺はちっともピンときていない。なんの意図があってこんなことをしてるんだ?


「分からないなら良いです」


そう言いながら、魔人は握った俺の手をそのまま自身の胸元へと導く。


「……んっ」

「はぁ!?」


そしてあろうことかその手を服の下に滑り込ませ、俺の手を胸に重ねた。一体こいつは何をしているんだ。俺は何をさせられているんだ?誰か助けて欲しい。俺はついこの前こいつに殺されかけたんだぞ。


「……うっ、なるほど……そういうタイプ…あっ、ですか……」

「すまない、一刻も早く手を離してくれるか」


何が楽しくて、大切な人の顔で喘がれなくちゃいけないんだ。俺は何か悪いことをしただろうか?そうだとして、こんな反応に困る罰を与えられても困る。


「何を考えているんですか、ワタシはただアナタの力を知っておきたかっだけです。自分の中に入れる方が直感的に理解できますから」


俺の魔力の解析が終わったのか、急に手を離される。解析されるときだけでなく、自分が相手を調べる時でも胸の辺りを使うということは……魔力器官がそこら辺にあるのだろうか?人間と同じ見た目でも構造は違うらしい。


「……元が獣の存在にこんなことを言っても無意味かもしれないが、普通人間は気軽に乳房を触らせない。人間の性について学んだ方がいいんじゃないか」

「嫌ですね、ワタシがアナタと生殖したがっているとでも?寝言は寝て言ってください」


どうにも当たりが強い気がする。一度直接殺し合った相手と仲良くしろというのも無理な話ではあるが。


「それで、個人的な興味とは何なんだ」


早く要件を片付けて帰りたいと強く思い、魔人にそれを問いかける。

しかし、魔人はそれに対して首を横に振ることで答えた。


「やっぱり今はやめておきます、この話はまた今度です。お帰りください」

「本当に横暴だな……」


しかし俺が帰りたいと思っていたのも事実。服の襟を直しそそくさと部屋を出ようとすると、魔人に呼び止められた。


「ティアに伝えておいてください」

「……何をだ?」


振り返ると、魔人はまた椅子に座っており拘束具も巻かれていた。自主的にそうしたのか?少しばかりの疑問を脳に留めながら、魔人が言葉を続けるのを待つ。

蝋燭の明かりもいつの間にか消えていた。顔が見えなくなり、気まずさが軽減されたような感覚になる。

長いような短いような時間が過ぎた後、魔人はようやく口を開いた。


「ただの協力相手にそんなことを思うかは疑問ですが、一応。ワタシを殺そうとしておきながら互いに利用しあうことに自責の念を感じる必要はありません」

「……それだけか?お前から配慮の言葉が出るとは思わなかった」


そのまま帰ろうと踵を返すと、もう一言付け足される。僅かな喜びを滲ませた声色で。



「それと……ティア、アナタの作る呪いはとても素敵ですよとお伝え下さい」

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