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第二十五話 地上の海蛇


「全く、熱烈ですね。二人同時はワタシも困ります」

「ハッ、上等だな。こっちはてめえを困らせるためにやってんだ」


ガーディアと二人がかりで攻撃を仕掛け続け、魔人が行動できないようにする。たまにシェイナの仕掛けた罠を踏ませてダメージを蓄積させたりと、戦況はこちらに傾いていた。

──そう思われた。


「ああ、ようやく見つけました」


俺たちの攻撃を片手でいなし、もう片方の手で炎を放つ。何も無い場所に放たれたかのように見えた炎は、草陰に隠れていたシェイナをしっかりと見据えて飛ばされていた。


「シェイナ!」

「あぐっ……」


じりじりと焼ける空気の中に、うっすらと血の匂いが混ざる。避けきれなかったか。


「腕をやられただけです、集中を切らさないで!」


シェイナの状況は詳しく見れないから、本人の申告を信じるしかない。幸い炎なので、肌が切れてもある程度は焼かれて勝手に止血されると思うが……心配なものは心配だ。しかし今の状況ではどうすることもできず、悔しさから歯を食いしばる。


「そんな顔をしないでください、後で全員纏めて食べられるんですから……っ!?」


瞬時に魔人の背後に回り込み、背中から思い切り剣を突き刺す。俺は速さくらいしか取り柄がないんだから、できることはしなければいけない。特に、逆転されそうな局面では。

続いて二度目の刺突をしようとするが、間一髪で逃げられる。魔人の腹からは赤い血がドクドクと流れ落ちていた。

魔人は自身の手を腹に当て、傷口を焼いて止血する。隙を突こうにも、余った片手で炎を飛ばしてくるのでどうにも近付きがたい。ガーディアは気にせず突っ込んでいるが、本体に有効打は与えられていないようだ。

そして、四、五度彼らが打ち合ったとき。魔人の足元に魔法陣が現れた。


「なっ……」


瞬時に魔法陣から魔力で形成された青白い鎖が伸び、魔人をがっちりと拘束する。ついに後衛が動きを見せてくれたらしい。魔人は不快そうに身じろぐが、鎖はビクともしない。随分高度な拘束魔法のようだ。


「おい、上見ろ!」


ガーディアに言われて空を見上げると──


「……蛇」


空を覆わんとするような大きさの黒い蛇が、いつのまにか俺たちの上にいた。それは黒光りする鱗と青白い鰭を持ち、巨大な体躯は簡単に人を押し殺せそうな程だ。

危険を察知し、俺とガーディアは咄嗟に後ろへ退く。もちろん、怪我を負ったシェイナも回収して。


その刹那、大蛇は魔人のいる地面へ激しくその身を打ち付けた。蛇の周囲に展開された水の弾幕が魔人の広げた炎の幕を鎮火し、空気のじりじりと焼ける感覚はみるみるうちに消えていく。


「あれ……流石に死んでますよねぇ」

「ティアさんは魔人の死体に用がある訳だし、形を留めるようにはしてると思うぞ」

「アレでまだ原型保ってるってことか……?魔人ってのはとんでもねえバケモンだな」


離れた場所で三人好きに感想を言い合う。ひと仕事終えたような感覚で、先程までの戦闘の緊張は段々と薄れてきた。シェイナも、ざっくりと派手に切れた腕を何とかくっつけようとしている。軽傷みたいに言っておいて、落とされてるじゃないか。


「包帯いるか?」

「自分のがあるのでお気遣いなく〜、処置も私の方が上手いですからぁ」


良かった、いつも通りの憎まれ口だ。俺はほっと胸を撫で下ろした。安心を体現したような一幕だが、背後では大蛇が大暴れしている。あれが敵じゃなくて本当に良かった……と思うので、やっぱりこれも安心の体現なのかもしれない。


「……おいてめえら」


ガーディアが蛇の方を見て目を見開く。俺たちもつられて背後を振り返ると、大蛇の様子がおかしくなっていた。


「なん…です?悶えてる……?」

「まずいな、こりゃ二戦目かもだぜ」


黒蛇の顎が持ち上がる──()()()()()()()

ティアさんがマズいと判断したのか、少しの魔力を残して蛇の体が霧散する。もし核まで破壊されては、二度と再構築できないからだ。


「やめです、やめましょう……慣れないことをするものじゃありません。服を着るのも、雄に擬態するのも」


魔人が纏っていた服は焼け焦げて地に落ち、その中の肉体は先程とは異なるものになっていた。どうやら男の肉体は仮の姿だったらしい。声もティアさんと同じような女声になっている。


「本気じゃなかったってことか」

「おいシェイナ、私の後ろについてろ。怪我人がその辺ちょこまか動いてるとめんどくせえ」

「はぁ?腕一本使えないからって足手まといみたいに言わないでください〜」

「怪我人は人質に取られやすい、下手に一人でいると相手に有利だ」


渋々といった様子で、シェイナはガーディアの後ろに隠れる。心なしか、ツインテールの元気が無くなっているように見えた。

俺たちが話しているのをよそに、一糸まとわぬ姿の魔人はこちらにゆっくりと歩み寄る。


「まずはアナタたちから食べましょうか、遺言くらいは聞いて差し上げますよ」


「腕の借りはしっかり返してもらいますよぉ」

「おい露出狂、服の着方も知らねえのか?」

「その顔で裸になるのはやめて貰えるか」


……魔人に「なんだコイツら」みたいな顔で見られた、ような気がする。

Q.なんで炎で物を切断できるの?

A.魔力がウォータージェットで言う研磨材のような役割を果たしています。(配分などが難しいのでできる人は少ないです。普通は大人しく刃物を使います)

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