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第十七話 前衛三人衆の交流


「はあっ!?ちょ、止血……」

「いやよく見ろシェイナ……()()()()()()


彼女のナイフは力強く腹に突き立てられた……筈だ。それなのに、刃先に触れる彫りの深い腹筋には傷一つ付いていない。


「これが番人(ガーディア)、至高の硬さだ。クソッタレの足止めにはもってこいの力だろ?」

「本当なんですかぁ?自分でナイフを寸止めしただけじゃないですか?」


シェイナからの疑問に、彼女はナイフを渡すことで応える。そこまで言うなら自分で刺して確かめろということだろう。他人に刃物を握らせる時点でハッタリの可能性は低い……とは思うが、やはりシェイナも確認できるならしたいらしい。


「止血の準備しててくださいねぇ……はっ」


正確に心臓の位置を狙う。確認作業にしては殺意が高すぎる気がしないでもないが、急所も硬くなければ意味が無いと考えたのだろう。

そして、やはりガーディアは余裕の笑みを浮かべナイフを受け止めていた。


「……驚きました、今まで試し斬りしたどんな鎧よりも硬いですねぇ」

「そうだろ?しかも鎧みてえな隙間もねえ。鎧通しだって通さないさ」

「衝撃や熱は?少なくとも今回の魔人は炎を使うらしい」


ガーディアは俺たちに背を向け、窓辺へと緩やかに歩く。格好つけた仕草だが、妙に様になっていた。


「門は崩れねえし溶けねえ。それは番人も同じさ、アタシは最後まで立って敵の攻撃を受ける、それができるんだ」

「……はあ、もういいですよぉ。一々クッサいセリフ言わなきゃ死ぬんですかぁ?」


シェイナは深くため息を吐き出し、ガーディアにナイフを投げ返した。いつの間にか元の椅子に座っていたガーディアも、食べ物を頬張りつつナイフを受け取る。


「この人が自分の能力をくわし〜く解説してくれたので私も一応言っておきますが、今回の私のメインウェポンは多分あれですねぇ、傲慢を罰する奇跡」

「何だそれ?」

「あれじゃないか、術を掛けた相手が驕ればそれ相応の罰が下るっていう……かなり高等なものだ」


ようやく凄さを理解したか、とでも言うように彼女は上から目線でこちらを眺めてくる。身長が足りていないので上から目線になれていないが。


「はーん……じゃあ次、お前の術は?」

「一般的には薄明の剣と呼ばれている奇跡だ、神の光を剣に纏わせて力を借りる。威力はそうだな、強化付与(エンチャント)より二、三倍あると思う」

「……ギリギリ及第点ってところでしょうかぁ?魔人も魔物ですし、神の奇跡には弱いはずですからねぇ」


彼女の言葉に、少し違和感を感じた。最初の考えるような素振りはなんだったんだ?なにか見定めるような、探るような感じ。


「アタシで威力を試してみるか?本当に魔人に効くか分からねえ」

「ガーディアあなたねぇ、奇跡はほいほい使うものじゃないんですよぉ?神に不敬です」


信心深い聖職者のようなセリフを言う。ような、じゃなくて本当にそうなのだろうけど。


「役割としてはガーディアが盾役、俺が火力、シェイナが搦手って感じか。情報が少なすぎるし、本番は臨機応変に対応するしかない」

「フン、言われなくてもやるさ。話が終わったんならアタシは風呂に入る、良い宿に来たんなら休まなきゃ損だ」


俺たちに何も言わせないまま、大股で部屋から出ていく。一階の大浴場へ向かったのだろう。

乱雑に閉められた扉をぼーっと眺めていると、不意にシェイナから声をかけられる。


「あなた、処刑人ですよねぇ」


瞬時に頭が冷える。なんでそれをこの女が知っているんだ?


「その反応、当たりですかぁ。色々合点がいきました、あの女と一緒にいないのもそれがバレたからじゃないです?あの女の杖、銀の逆三角ですもんねぇ」

「……なんで分かった」

「薄明の剣は強力ですが強化付与と比して二、三倍という程でもないし、どうせあなたの基準はあの女の付与でしょう〜?だったら良くて同等、普通の聖職者が使う薄明の剣なら劣っているでしょうねぇ」


シェイナ・シビュラ、ただ俺に突っかかっているだけかと思えばそうでもなかったようだ。頭の回転が早い。


「薄明の剣は処刑人が好んで使いますからねぇ、練度が高いならそれでしょう……それに、教会の力を使う冒険者ってだけで怪しいんですよ〜?」

「……もしかして、お前も本部の命令で冒険者になったのか?」

「ようやく気付いたんですかぁ?本当に勘の悪い人ですねぇ」


彼女は伸びをしてベッドに倒れ込む。軋む音などはせず、ただ柔らかに吸い込まれただけだった。


「……家に帰りたいですねぇ。冒険者は性に合いません、現地で見つけた同僚もまさかのアヨ・スローンですし」

「……そうだな、俺もティアさんの所に帰りたい」


しばしの沈黙。彼女は故郷を恋しがっているのだろう。

顔を上げると、シェイナは唖然とした顔でこちらを見ていた。別にこの沈黙は郷愁からくるものではなかったらしい。


「あり……えますかぁ?こんな美少女が弱音を吐いたら普通、なにがあったの?とか聞くものでは……?」

「すまない、気が利かなくて」

「期待もしていないので構いませんが……はあ、あなたは何があったんですかぁ?このシェイナ・シビュラ、カワイイ上に誰かさんと違って気が利きますから」


何に悩んでいるか言えということだろう、彼女は上体を起こして俺に語りかける。俺も、その厚意に甘んじることにした。


「お前の予想通り、ティアさんに俺が教会の人間だってバレた。しかも最悪な方法でだ。ティアさんは俺の隠し事を知って傷ついてたし、俺も平常心を保てないから……こうして遠ざかった方が頭も冷えて良いと思ったんだ」


二度目の沈黙。悩みに答える言葉を考えているのだろう。

顔を上げると、シェイナはまたもや唖然とした顔でこちらを見ていた。別にこの沈黙は悩みへの返答を考える時間ではなかったらしい。というかこの下りさっきもやったな。

しばらくした後、シェイナは引きつった顔で答えた。


「あなたカスですねぇ、なんでその局面で飛び出してきちゃうんです!?うわぁ急にあの女に同情心が芽生えてきました、今度会ったら優しくしましょ〜……」


カス呼ばわりされてしまった。


「カスくん、今日はひとまずもう良いです。明日の朝、街の店が開く時間に彼女に渡す土産を買いに行きますよぉ。それで昼にはもう帰ってください」

「分かった、ありがとう」


淡白な返事をすると、肩をガシッと掴まれ揺さぶられる。有り得ないくらいに脳がぐわんぐわんする。搦手タイプなのにフィジカルも強いな。


「このクズ!クズ・スローン!聖職者の風上にも置けない!」


返す言葉もなく、俺はただ脳が揺さぶられる感覚に耐え続けた。これが報いか。

そうして、風呂から戻ってきたガーディアに止められるまで揺さぶられていた。その後無事吐いた。

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