72:1番会いたかった人
「セシリア、入るわよ」
私はジュードとの言い合いのあと、セシリアの部屋を訪れていた。
扉の前で、中にいる彼女に声をかける。
「……ラズ」
扉をゆっくり開けたセシリアが、悲しげな表情をしながらも部屋の中へと招き入れてくれた。
私たちは向かい合ってソファに座った。
それからおもむろに私は喋り出す。
「あのね、実は3年前にフェリックス王子から婚約を申し込まれたことがあって……その時はまだノアは婚約者じゃなかったの」
「…………」
セシリアは俯いたまま話を聞いていた。
「でも私はその時からノアと添い遂げたかったから、フェリックス王子の申し出を断ったの。そのことをジュードは言ってたんだけど……今は私たち何も無いよ」
私はジュードに言われた3年前より昔の話は言わなかった。
真実かどうか分からないし、話し出すとややこしいからだ。
とにかく今は、フェリックス王子が私のことを好きだなんて、全く無いことを伝えたい。
すると顔をあげたセシリアが、潤んだ瞳を私に向けた。
「……私、さっきのジュードの話を聞いてすごくショックを受けたの。……それで気付いたんだけど……」
「……だけど?」
「私、フェリックス王子が好き……」
セシリアが顔を真っ赤にさせて私に告げた。
彼女の目線から真剣さが伝わる。
「そっか。2人のお茶会の様子を見てると、フェリックス王子もセシリアのことが好きだと思うよ」
私は穏やかに笑った。
「……そうかな? けどフェリックス王子の気持ちは聞いてみないと分からないし……もしまだラズのことを……」
「ないないない。そんな強い気持ちが王子にあったら、3年前に王命が出されて、私は王太子妃教育を受けさせられていたね。そうしたら大賢者なんかになれてなかったよ〜! アハハ!」
私は高らかに笑った。
まぁ純潔じゃない宣言もしたけど、それもややこしいので伏せた。
「そっか……」
セシリアは笑っている私に釣られて、ちょっとだけ微笑んだ。
私はそれを見て安心したと同時に、ふと気付いてしまった。
……あれ?
王太子妃教育を受けさせられるって……
今の状況に似てない??
「…………」
「ラズ??」
いきなり笑うのをやめた私を、セシリアが不思議そうに見ていた。
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今日もまた、なぜかセシリアとフェリックス王子のお茶会に参加させられていた。
「フフフッ。それはビックリしますね」
「でしょ? あの時はーーーー」
2人の会話は弾んでいる。
お互いが意識し合っているから、甘い雰囲気が漂っている。
「…………」
私はいつものように、微笑みながら紅茶をいただいていた。
ジュードにあんなこと言われて、フェリックス王子に対して私だけ気まずい思いをしている。
セシリアとフェリックス王子はいい雰囲気なんだから、私抜きで会ってくれないかしら……
「……ふぅ」
2人には聞こえないようにため息をつき、遠くを眺めていると、アイスシルバーの髪をした高貴なお方が見えた。
「あ!!」
私は席を立って、思わず駆け出した。
「ラズ?」
「……どうしたんだろ?」
残されたセシリアとフィリックス王子は顔を見合わせて首をかしげていた。
私は王宮で1番会いたかった人に向かって走っていた。
レナルドだ!
王宮内で1番気さくな関係者だ!
ずっと探してたんだよね!!
「レナルド!」
「!!」
レナルド王子は私を見るとギョッとした。
そして逃げようと背中を向ける。
逃げるということは、何か知ってる!!
「待ってよ!」
私はレナルド王子の腕を掴んで捕まえた。
「うわっ!」
「ハァハァ……何で逃げたの?」
「……別に逃げてないぞ」
レナルド王子の目が泳いでいた。
「……言い方を変えるね。なんで私は王宮に閉じ込められているの?」
「…………」
ジト目で見つめる私からレナルド王子は顔を背け、まだ逃げたそうにしていた。
ーーそんなに関わりたくないのかな?
そう言えばレナルド王子も攻略対象者なのに、セシリアに絡んでこない……
…………
私は目を細めてニッコリと妖艶に笑いながら、掴んでいる腕に抱きついた。
「私ね、ルミネージュ国でレナルドの護衛をした時に、あなたの愛妾と間違えられた実績があるの。ここでもそう思われるかもね……」
「あー分かった! 話すから止めろって! ノアに殺される!!」
レナルド王子が本気で嫌がって叫んだ。
私たちは庭園にあるガゼボに場所をうつした。
セシリアとフェリックス王子には、突然お茶会を抜けてしまうことを謝罪しといた。
ガゼボは人払いがされており、私はそこのベンチに座り、レナルド王子は立っていた。
極力私に近付きたくないらしい。
レナルド王子が苦い表情をしながら、ゆっくり口を開いた。
「オレもよくは知らないんだけど……ラズベリーが大賢者になったから……その……王宮で囲ってしまいたいらしい」
「へ!?」
思わず間の抜けた声が私の口から出る。
「セシリアが聖女の力に完全に目覚めると、おそらくフェリックスの妃に据えられるだろう。けれど彼女はもと一般市民だ。それで……その……」
「侯爵家の私を側室にすることで、王太子妃の補佐をさせるつもりね。横暴だわ」
私は思わず据わった目を向けて続けた。
「でも私には婚約者がいるし、王太子妃の補佐をさせるなら別に私じゃなくても……大賢者だから?」
「それについては、オレにもよく分からないんだ」
レナルド王子が眉を下げて困惑する。
本当に詳しいことは分かってなさそうな様子だった。
「……そうなんだ」
「けど、何か酷い陰謀が渦巻いてる気がする! オレは無関係だからな!」
「……言い出した人は誰なの?」
「……ジュードだ」
「……」
やっぱりジュードか。
何を企んでいるんだろう?
セシリアを手に入れるため?
それにしても、無理矢理、侯爵家のラズベリーをねじこんだわね。
もっとフェリックス王子の正妃を狙いに行くような、地位の高い貴族の女の子はたくさん居るのに。
わざわざ婚約者がいる私を側室にだなんて……
やさぐれだした私は、思わずレナルド王子を睨んだ。
「……だからオレは悪くないって!」
レナルド王子は慌てて叫んでいた。




