70:大聖者になる方法
私が王宮で暮らし始めて数日経った。
今日は、ダライアス様の所へもともと挨拶へ行く予定の日だった。
私はフェリックス王子に直談判をして、どうにか外出許可を取り付けていた。
というか、自由に外出すら出来ないなんて。
これじゃぁ軟禁に近いんじゃない?
私はどんどんフェリックス王子に対する不快感をつのらせていた。
ーーけど、久しぶりにノアに会えた!
私とノアは隣り合って王家の馬車に乗っていた。
嬉しくて、自然とニコニコしてしまう。
けれど、2人きりと言う訳では無かった。
目の前には私に付けられた護衛という名の監視役の男性が座っていた。
私は思わず恨めしい目線をその男性に向けてしまうが、彼は気にする素振りもなく澄ましていた。
私は目線を隣のノアにうつした。
窓際の壁に頬杖をついていたノアも私の視線に気付き、目を合わせてくれた。
「元気そうだね」
「あぁ。ブランジェ家のみんなも元気にしてる」
ノアはそう言って、ブランジェ家の方には王家の手が伸びていないことを教えてくれた。
「そっか。良かった」
「ラズは……ちょっとふっくらした?」
ノアが揶揄うように笑った。
「もう。王宮の料理が美味しいからって、そんなにたくさん食べてないよ」
私はちょっと怒りながら答えた。
そうして、きちんと食べてるってことと、何も混ぜられてませんってことを伝える。
「王宮では他に何をしてるんだ?」
「セシリアと一緒に、淑女教育みたいなのを受けてるよ」
「……ラズも?」
「うん。不思議に思ってフェリックス王子に聞いても〝セシリアが分からない所を教えてあげられるし、あの内容ぐらい大賢者様には余裕でしょ〟って言われちゃった」
私は肩をすくめた。
「…………」
それを聞いたノアは考え込んでしまった。
そうしているうちに、ダライアス様の屋敷に到着した。
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「フォッフォッフォッ。久しぶりじゃのぉ。2人とも。もうワシと同じ大賢者になるなんて……月日が経つのは早いのぉ」
ダライアス様が2年前と変わらない優しい笑みを浮かべて、私たちとの再会を喜んでくれた。
けれど、このごろ体調がよくないらしく、ベットの上で起き上がった状態で会ってくれた。
私とノアはベットの横に並んで立ち、ダライアス様を少し見下ろす形になっていた。
私はその光景に痛ましさを感じながらも、笑顔を浮かべた。
「ダライアス様もお加減いかがですか?」
「最近はこれでも調子が良くての。しかも大出世した愛弟子たちに会えたからかのぉ、なんだかワシまで元気がでたわい」
ダライアス様は豊かな髭をゆらして笑った。
「2人のやらかし……活躍は聞いておるぞ。審判の竜たちを無理矢理起こして……よく頑張ったのぉ。フォッフォッ」
ダライアス様も同じ試験を受けたのかな?
セリフを詰まらせながらも嬉しそうに笑っていた。
「今日は、なんじゃか物々しいが……」
ダライアス様が部屋の隅に待機している監視役をチラリとだけ見た。
そしてすぐに私たちに目線を戻す。
「聞きにきたのであろう? 大聖者になる方法を」
「そうです」
ノアの芯の通った声が聞こえた。
ダライアス様に敬語だ!!
……成長したなぁ……
私は変な所で1人ジーンとしていた。
「大聖者になるには、リーネル国との友好国である、ディアジェラス国で洗礼を受ける必要があるのじゃ。その国は神聖な場所なゆえ、入るためにはリーネル国の王族の許可証が必要になる」
ダライアス様は、自身の豊かなひげを撫で撫でしながら教えてくれた。
「ワシも若いころ挑んだんじゃが……ディアジェラス国に辿り着けんかったんじゃ。……じゃがお主たちなら大丈夫かもしれんのぉ」
ダライアス様が昔を思い出しているのか、切なげな表情を浮かべたが、最後にはニッコリ微笑んでくれた。
「挑んでみるかの?」
ダライアス様がいたずらっ子みたいな楽しげな笑みを浮かべ、私たちを真っ直ぐ見つめた。
「「はい!」」
私とノアはそろって答えた。
「フォッフォッフォッ。なんとも頼もしい魔導師に成長したものじゃのぉ。分かった、国王様に推薦状を書いておこう……ワシが出来るのはそこまでじゃ」
「ありがとうございます! 絶対、大聖者になろうね!」
「あぁ! 一緒にディアジェラス国に行こう!」
夢に一歩近付いた!
私とノアは顔を見合わせて笑い、喜びを分かち合った。
そんな私たちをダライアス様も、穏やかに見つめてくれていた。
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ダライアス様への挨拶が終わると、すぐに王宮へと帰らなくてはいけなかった。
ダライアス様のお屋敷にいる他のみんなにも会いたかったのに、私がセシリアと離れる時間が長くなってしまうため、フェリックス王子がそこまで許可を出してくれなかった。
王宮への帰りの馬車の中、私とノアの前の席には相変わらず監視役の男性が座っていた。
王宮へ馬車が着くと、またノアと離ればなれになってしまう……
私は、ノアと一緒に居られる貴重な時間なのに、先のことを考えてしまってしょんぼりしていた。
せめて2人っきりにしてくれないかな。
喋りたいことも喋れないし……
……そうだ!
「そう言えば、あっちだったよね? この前ノアと行ったお店」
私はノアを見ながら馬車の前方を指さした。
「??」
ノアは不思議そうに私を見た。
「ほら確か、お店が〝sleep〟っていう名前で……」
私がそう言うと、指先から光の粒子がサラサラと流れていき、監視役の男性の頭に吸い込まれていった。
すると男性は目を閉じて馬車の壁にもたれ、寝息を立て出した。
「ハハッ……無理矢理だな」
ノアが呆れて乾いた笑いをもらす。
「しばらくして起こせばバレないでしょ。魔法語のことなんか普通の人には分からないし、気付かれないかなって思って……フフッ」
私も笑いながらノアを見た。
ーーーーーー
「……ノア!」
私は彼に抱きついた。
ノアも飛びついた私を受け止めてくれて、抱きしめ返してくれる。
もう離れたくないという想いをこめて、きつく抱きしめ合う。
そして顔を離して見つめ合うと唇を重ねた。
お互いの呼吸を交わしながら何度も繰り返す。
「俺もう無理。これ以上ラズと離れてるなんて……心配でたまらない」
ノアが私の首元に顔をうずめて言った。
そして顔をあげると私の頬を両手で包み、ピンクの瞳を覗き込んできた。
「ラズの瞳が取られてしまわないか……そばにいて守れないから怖いんだけど」
ノアが珍しく泣きそうな顔をしていた。
私が頭を打って意識がハッキリしない時に見た、泣いているノアと今の彼が重なって見えた。
あの後からずっと、私を心配して守ってくれている優しい優しい私の婚約者。
「…………」
私は嬉しさで言葉を失って、ただただノアを見つめていた。
私も、このまま大好きなノアの腕の中でいたい。
けれど、私まで弱音を吐いたらどうなってしまうんだろう?
せっかく今日、大聖者になる方法が分かったのに、例えばこのまま逃げ帰ったりして、王家に対して印象を悪くしたくない。
「私も一緒にいたいけど……もうちょっと頑張ってみようよ。セシリアが聖女の力に完全に目覚めて私の役目が終わる日は近いから、その時すぐにディアジェラス国に旅立つことが出来るといいね」
私はノアの両手に自分の両手を重ねて、優しく微笑みながら続けた。
「いつも守ってくれてありがとう。まだ目を取られるような動きは一切ないよ。大丈夫。私もノアと一緒に大賢者になったんだもん。どうとでも対抗出来るよ」
「…………」
ノアが私の瞼にキスを落とした。
まるで祈りを込めているみたいだった。
そして大切そうに優しく抱きしめてくれた。
私も幸せそうに微笑みながら、ノアの広い背中に手を回す。
馬車が王宮に到着するまでずっと抱きしめ合い、お互いの体温が感じられる束の間の時間を過ごした。




