7:光魔法
「賢者になるにはどうしたらいい?」
ある日のノアとの授業中、私は気になっていたことを聞いてみた。
賢者とは、大賢者の一つ下の役職名だ。
「……条件の一つとして、この魔法書の魔法を全て扱えるようになることだな。ちなみにこれは俺の魔法書で、習得した魔法は文字の濃さが薄くなる魔法がかかっている。あとは師匠の合格をもらえれば賢者になれる」
そう言ってノアがいつも使っている魔法書とは違う、もっと分厚い魔法書を見せてくれた。
「……こんなに?」
私はビックリしてノアを見つめた。
「あぁ。賢者だからな。俺もまだ半分ぐらいまでしか習得してない」
ノアが少し不貞腐れながら言った。
もっと習得したいのだろう。
「…………」
私はその魔法書のあるページを見て固まってしまった。
「まぁラズは基礎がまだまだだけどな」
量の多さに驚いていると思っているノアが私を見て意地悪く笑った。
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次の日、今日は1人で魔法を練習する日だった。
お屋敷の庭園の開けた場所に私は立っていた。
「……」
私は光魔法の魔石を腕輪にセットして手をかざす。
「〝shine〟」
呪文を唱えてみるが、何も起こらない。
「…………」
魔法をいろいろ習得していく内に分かってきたことがある。
私は光魔法系が一切使えなかった。
ノアに見せてもらった賢者になるための必須魔法に、もちろん光魔法も入っていた。
それを見て私は固まっていたのだった。
『お前は魔物だ』
夢の中で断罪される時にフェリックス王子に言われた言葉が蘇る。
涙を流すと魅了魔法が使える……
本当に魔物の類かもしれない。
だから、光魔法が使えないのかも……
このままだと、賢者にすらなれない。
私は悲しい現実に目の奥が熱くなってきた。
ダメだ。
泣いちゃだめ。
何度も何度もいろんな光魔法の呪文を唱えるが、何も起こらない。
…………
私はギュッと目を閉じて、感情の昂りが落ち着くのを待った。
「どうした?」
間が悪いことにちょうどそこにノアが来た。
……やばい!
私は手の甲で目を押さえて隠しながら、ノアがいる方向とは逆の方向に走り出した。
「おい! 待てよ!!」
根は優しいノアが、普段と様子が違う私を心配して追いかけてきた。
どうしよう!?
私は必死に室内に逃げたが、走るのが速いノアにすぐ追いつかれた。
「どうしたんだよ!?」
腕を掴まれて進めなくされてしまった。
「…………」
私は掴まれていない腕でとっさに両目を覆う。
そして『何でもないよ』の意味で首を振った。
「目でもケガしたのか?」
残念ながらノアには伝わらなかったらしく、両目を覆っていた腕も掴まれて、ムリやり腕を上げられた。
ーーーーーー
見られた!!
私は涙を浮かべたピンクの瞳でノアを見上げた。
私たちの間に一瞬沈黙が流れた。
…………
するとゆっくりとノアに掴まれていた手が外され、私の両手が自由になった。
どうしよう……殴るしかないかな?
私は気が動転して、ゆるゆると腕を下げながら手を握りしめて反撃の準備をした。
そうしている内にノアの手が私に向かって伸びてきた。
「なんだ、泣いてたのか。魔法が上手くいかないことなんか誰だってあるぞ」
ノアはそう言いながらフイっと顔をそむけ、私の頭をワシャワシャ撫でだした。
「……え?」
私はノアが魅了魔法にかかっていないことに驚いた。
いつものノアのままだ。
信じられずにノアの衿元を両手でつかんでグイッと自分の顔に近付ける。
「!! なんだよ!?」
突然の出来事にノアが驚き、思わず私に目線を向けた。
私たちはがっつり見つめ合った。
「…………嘘でしょ?」
私は思わず呟いた。
そして衿元を掴んでいた手をパッと離す。
「わわっ!」
少しよろけてしまったノアを置いて、私は走り出した。
驚きすぎて、涙は止まった。
目元に浮かぶ涙を急いで腕で拭った。
「ダライアス様!!!!」
私はいつかのノアみたいにダライアス様の部屋に扉を開け放って駆け込んだ。
「ダライアス様! ノアには効かないの。私の魅了魔法!!」
私はダライアス様の部屋に入るなり叫ぶように報告した。
興奮しすぎて、いつもの女の子の喋り方になってしまっていた。
ダライアス様は珍しくソファに座って紅茶を飲んでいた。
「フォッフォッフォッ。ラズはいつでも元気じゃのぉ」
ダライアス様はいきなり飛び込んできた私に怒ることもなく、豊かな髭を揺らして笑った。
「何でかな? 魔力が高い人には効かないの??」
私は大興奮していたので敬語を使うことも忘れ、心の思うままに喋った。
「うーむ、そんなことは無いんじゃが……」
ダライアス様が腕を組んで考えこむ。
そして何やら呪文を唱え出した。
すると光の紋様が鎖のように私に伸びてきて頭の周りをぐるりと取り巻き、クルクル回り始めた。
そうかと思うと一瞬で飛散した。
「……ラズの瞳は一種の魔石みたいなもんじゃ。とてつもなく強力な魅了魔法の力を内に秘めておる。ワシにでも打ち消すことは出来んのじゃよ」
ダライアス様は悲しそうに眉を下げた。
どうやらさっきの魔法は打ち消しの魔法だったらしい。
『バタン!!』
いつの間にか来ていたノアが扉を閉めた。
私たちの会話を聞いていたのだろう。
顔が青ざめていた。
そしておそらく他の人に聞かれないように扉を慌てて閉めてくれたのだ。
「でも良かったのぉ。魅了魔法が効かない相手が見つかって」
ダライアス様がニッコリ微笑んだ。
「……魅了魔法なのか、あの鬱陶しくまとわりつく感じは……」
ノアが扉の前で呆然としながら喋っている。
「ほれ、ノアはラズの魅了魔法を探知できるようじゃ。好きなだけその魔法について研究することが出来るんじゃよ」
ダライアス様は私にそう言ってウインクした。
ようはあれですね。
ていのいい実験体ですね!
私は心の中で歓喜した。
「てことで、私の秘密も共有してしまったことだし、ノア、よろしくね!」
私はまだ何が起こっているのか分からない感じのノアに向かって満面の笑みを浮かべた。
「……ラズって女の子だったんだ……」
呆然としたノアがポツリと呟いた。




