67:お別れ
とうとう、キャロルとお別れする日が来てしまった。
彼女は私と約束した卒業式の前日まで、学園生活を共に過ごしてくれた。
私とノアは校庭まで、旅立つ前のキャロルとヴィンセントを見送りに来ていた。
キャロルとノアが魔法対決をした場所だった。
あの時の思い出が蘇る。
ルミネージュ国に来て、初めて出来た友達。
……楽しかったな。
そんなことを思いながら、キャロルを見た。
キャロルは、ヴィンセントに宣言していたように世界を見て回るつもりらしく、旅行カバンを持っていた。
今はまだ子供姿のヴィンセントだけど、竜姿になって2人で飛んでいくらしい。
「……キャロル……」
私はすでに視界が涙で歪んでいた。
「ラズ、泣かないでよ。また会えるから」
キャロルも目に涙を浮かべていた。
私はキャロルをギュッと抱きしめた。
「手紙は届くんでしょ?」
「そうね。私の家に届いた手紙を転移魔法で私に届くようにしたから……」
「……携帯電話があればいいのに……」
「ラズなら作れるんじゃない?」
「……電波とかどうしよう?」
「電話機能だけでいいから、そこはほら、転移魔法とか応用してさ……って適当に言ってるけど」
キャロルが少し笑いながら言った。
「ちょっと考えてみるよ。フフッ」
私も泣きながら笑った。
「ランドールもありがとう。ラズとこれから大聖者になるために頑張るんでしょ? 世界のどこかで、2人の名前が有名になって聞けることを願ってるよ」
「……あぁ。アイスラーたちも元気でな。リーネル国の近くに来たら寄れよ」
ノアとキャロルも握手をして笑い合っていた。
私は子供姿のヴィンセントに話しかけた。
「ヴィンセントも短い間だったけど、わいわい出来て楽しかったよ。キャロルをよろしくね」
「……望みとして『いつまでも一緒にいて』と言われたから仕方がない。ジュカル学園の生徒の審判をしなきゃいけない期間は、ここに帰ってくるし」
ヴィンセントがちょっと面倒くさそうに言った。
口ではそう言うが、案外キャロルといることを気に入っていることを私は知っていた。
「……またみんなで『おでん』食べたい」
ヴィンセントが口を尖らして少し照れながら言った。
キャロルと私でなんちゃって『おでん』を作って、みんなでコタツで食べた時のことを言っているのだ。
奇跡的に味がよくしみた『おでん』が作れて美味しかった。
私とキャロルは白ワイン片手に食べたのを覚えている。
ヴィンセントなりの『楽しかった』の表現なんだと思う。
「うん。また食べよう」
私は泣き笑いしながら頷いた。
ヴィンセントも軽く頷き返してくれると、視線をキャロルに向けた。
「そろそろ行くぞ」
ヴィンセントがそう言って竜の姿に変身した。
「……分かったわ」
キャロルが俊敏な動きでピョンと飛び乗った。
そして体勢を整えてから私とノアを見た。
「ラズ! ランドール! 本当にありがとう!! じゃぁ行ってくるわね!」
キャロルはそう叫んでニシシッと笑った。
その頬には涙が流れていたけれど、溌剌とした彼女らしい満面の笑みだった。
「キャロル! こちらこそありがとう!! またね!!!!」
竜のヴィンセントが空に飛び上がり出したので、私は大声で叫んで大きく手を振った。
ピンクのツインテールをなびかせて、青い瞳の元気な女の子は、黒い竜にまたがって空を駆けていった。
私は見えなくなるまでずっと手を振って、その光景を眺めていた。
「うぅぅ……悲しい……寂しい……」
私はキャロルたちを見送ったあと、ノアの腕の中でしばらく泣いていた。
ノアは優しく私の頭を撫でてくれていた。
けれどたまに呪文が聞こえてきていた。
「…………」
私は思わず怪訝な顔をしてノアを見上げた。
「魅了魔法を都度つど解除しなきゃいけないのは分かるけど、そうブレイク、ブレイク言われたら雰囲気が台無しだね」
「……俺も正直面倒だけど、ラズが大賢者になったから威力が強すぎて、ブレイクで解除しないと本当に気分が悪くなる……アイスラーも最後の方、だいぶ我慢してたぞ」
「うーん……大聖者になったら効かなくなるって聞いたから、酔わなくなるんじゃないかな?」
「そうだといいけどな……とりあえず早くなるか、大聖者に」
「だね」
私たちは神妙な顔をして頷き合った。
**===========**
次の日は、ジュカル学園の卒業式だった。
卒業式といっても学園で行われるパーティだった。
私とノアは、ドレスアップして卒業パーティに参加した。
私のドレスは赤ベースに黒のアクセントを。
ノアは黒ベースに赤のアクセントが入ったテールコートの正装をしていた。
私たちの色だ。
キャロルの話では、乙女ゲームのシナリオで悪役令嬢のキャロルが断罪されることになっていたが、本人不在だし、ライオネル王子とディアナは順調に2人の仲を深めていたので、何事もなく平和にパーティは進行していった。
ライオネル王子が、みんなの前でディアナを正式に王太子妃にすることが発表される。
祝福されたあとに、2人がまずみんなの前で踊った。
「あ……私踊れないんだった」
私の腰を抱いて隣に立っているノアを、青くなりながら私は見上げた。
「まぁ無理に踊らなくていいんじゃないか」
「ノアは踊れるの?」
「一応……?」
「あはは。踊れない2人だね。じゃぁ抜け出しちゃおうよ」
私はノアを見てニヤっと笑った。
「……何をする気だ?」
ノアが呆れた表情で私を見つめた。
「久しぶりにあれやりたい! 屋根の上に行こうよ」
私はそう言ってニコニコ笑った。
私たちはパーティ会場を抜け出した。
私がドレスを着ているので、いつかの時みたいに、ノアがお姫様抱っこをして飛翔の魔法で飛んでくれた。
そしてジュカル学園の屋根の上に、そっと下ろしてくれた。
「ルミネージュ国の夜空も綺麗だね」
私は感慨深く思いながら、夜空を見上げた。
明日には帰りの蒸気機関車に乗り込むから、今日でルミネージュ国の夜空を見るのは最後だった。
「ラズも綺麗だよ」
ノアが私の後ろからギュッと抱きしめてくれた。
これは照れてるんだろうな。
ノアの顔は見えないが、何となく分かった。
「フフッ。ありがとう。ノアもいつもかっこいいね」
私は抱きしめてくれているノアの腕を、ギュッと抱きしめた。
「じゃぁ、思ったより外が寒かったんで、パパッとやっちゃいます!」
私は元気よくそう言って、腕輪をしている手をグーで掲げた。
ドレスだし夜だしで寒かった。
やっぱりルミネージュ国は寒い。
そう思いながら両手を空にかかげた。
「〝stardust〟」
私が呪文を唱えると、腕輪の魔石が光りだした。
星空を閉じ込めたような群青色の魔石がまばゆい光を放ち、あたりが昼間のように明るくなった。
大賢者になったぶん威力が強くなっているため、以前より光が強い。
眩しすぎる光に、私は目を瞑って収まるのを待った。
しばらくすると瞼の裏に光を感じなくなったので、そっと目を開けた。
「わぁぁ……」
夜空には魔法で生み出した光が無数に散らばり、瞬いていた。
銀河のように見えるその光景に魅入っていると、1つ、また1つと、光が尾を描きながらジュカル学園めがけて落ちてきた。
まるで本物の星が降ってきているように、たくさんの光が空を流れだした。
学園に光のシャワーが降り注いだ。
「なになにー?」
「きれーい!」
「魔法?」
屋根の下がガヤガヤと騒がしくなり出した。
パーティ会場にいる人たちが、夜空の幻想的な様子に誘われて外に出てきたのだ。
私は後ろのノアを振り返った。
「ダライアス様の屋敷じゃ怒られたけど、今日は大丈夫そうだね」
ニヤッと笑った私に苦笑しているノアが答えた。
「けどほら、あの時みたいにレックスがこっちを見てる。バレてはいるぞ」
「本当だ。……じゃぁそろそろ降りようか」
そう言いながらも、私は再び前を向いた。
「みんな卒業おめでとう」
私の声は、星降る夜空へ吸い込まれていった。
第二章がこれで終わりました。
明日から第三章が始まります。
皆様の評価、ブックマーク、いいね、などの応援、誠にありがとうございます。
読んでもらえるって嬉しいですね。
読者様に反応をいただけるとよけいに嬉しくて、ますますやる気に繋がります。
本当にありがとうございます。




