66:summon tailheight
私は大賢者になったことによって、魅了魔法を解除することが出来た。
それは、もし不意に人前で泣いてしまっても大丈夫なことを意味していた。
念願だった平穏な生活をまずまず手に入れたのだった。
それもあって卒業までのわずかな時間だけど、他の学生のヘルプリクエストを引き受けたりしていた。
本当にちょっとの期間だけど、学友たちとわいわい出来て嬉しかった。
今までは、やっぱり魅了魔法のことがあって、仲良くなれない部分もあったから……
「ラズベリー! こっちだよ!」
トルハの森で、立ち止まってぼんやりしていた私をエリーナが大声で呼んだ。
「あ、ごめーん! 今行く!」
私は手を振っているエリーナに向かって駆けて行った。
今日は、実技の授業で同じチームになった、エリーナのエクセブル集めを手伝っていた。
「ラズベリー、ありがとう! 今日でだいぶ集まったわ」
エリーナが森からの帰り道、嬉しそうに笑ってくれた。
「どういたしまして。この調子なら必須項目は、卒業までに集められそうだね」
私も微笑みかえした。
あぁ!
魅了魔法を気にせずに過ごせるって素晴らしい!
私は開放感からも相まって、このところ頬が緩んだ状態がずっと続いていた。
その時、遠くから声が聞こえた。
「……ラズ〜……」
「ん??」
辺りをキョロキョロ見回したけど、私とエリーナ以外は誰もいない。
おかしいな……
キャロルの声に聞こえたんだけど……
「エリーナは先に帰ってて。私はちょっと用事を思い出したから」
「うん。分かったわ。じゃぁまたね」
私はエリーナとその場で別れると、声がした方に進んで行った。
「こっちだよ〜」
確かにキャロルの声がした。
「どこ〜?」
「上だよ、上!」
キャロルにそう言われて空を見上げていると、白い雲から一筋の黒い影がスッと線を描いたように伸びた。
「キャロル!?」
よくよく見ると、竜の姿になったヴィンセントにキャロルが乗っていた。
黒い竜が驚いている私の近くにゆっくりと降りてきて、地面近くになるとキャロルがピョンと背中から飛び降りた。
そしてスタッと着地すると、私にニシシッと笑いかけた。
「空の散歩をしてたの」
「いいな! 竜に乗ってる魔導師なんて、とっても強そう!!」
私は目をキラキラさせた。
そしてその目線を隣に降り立った黒い竜に向けた。
『乗せてー!』という思いを込めて。
「……もう疲れた」
竜のヴィンセントがそう呟くと、ボンっと音をたてて子供姿に変身した。
どうやら、私を乗せてくれる気は無いらしい。
私は思わずジト目でヴィンセントを見た。
「なんだ。乗りたかったのか?」
「……うん」
「疲れたから無理だぞ」
ヴィンセントからハッキリ断られた。
「……乗せてくれそうな他の竜はいないの? ヴィンセントは竜の王様なんだから、そのぐらい知ってそうだけど」
私はわざと煽るような言い方をした。
案の定、少しだけムッとしたヴィンセントが答える。
「いるぞ。気性の穏やかな白竜のテールハイトが」
「わぁ! さすが竜王様だね! それで、早速呼んでほしんだけど……」
「面倒だな。……僕から作ったあの魔石でなんとかなるんじゃない?」
ヴィンセントが投げやりになりだした。
その証拠にキャロルの手を引っ張って「もう帰ろう」と言い出してしまった。
「ま、待って! なんとかってどうやって??」
私は慌てて聞いた。
「……下級の魔物なら、従わせることができると思うぞ」
「!!」
私は思わずピンクの瞳を見開いた。
そっか。
ヴィンセントは、自分より下級の魔物は絶対に従わせることが出来る魔法が使えた。
魔石もそれが出来るかもしれないのだ。
いいこと聞いた!
「ありがとう! ノアと試してくる! 〝fly!〟」
私は空に舞い上がり、同じくトルハの森でヘルプリクエストを受けてるノアを探した。
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「いたいた! ノアー!!」
私はネイトといたノアを見つけて近くに降り立った。
「ラズ、どうしたんだ?」
「ヘルプリクエストは終わった?」
私はノアを見上げて首をかしげた。
「あと1つかな」
ノアがそう言って、木々の向こうにいるシカのような魔動物に視線を向けた。
今は、今日ラストのエクセブル集めの真っ只中だったらしい。
私はネイトに向かって謝った。
「邪魔してごめんね」
「いいよ。……けどノアは早く終わって欲しそうになった」
ネイトが苦笑しながらノアを見ていた。
その視線を受けたノアが少しむくれながら口を開く。
「……さっきも言ったように、ネイトのスピアじゃ木が生い茂っているここじゃ不利だ。あの魔動物は風魔法が弱点だから、まず風魔法で攻撃してあっちの広い所に誘導するんだぞ」
「はーい。先生。……俺も婚約者に迎えにきて欲しい……」
ネイトがぼやきながらスピアを構えた。
……ネイトはキャロルを好きなはずだけど、キャロルが今ヴィンセントといるのを見て、複雑な気持ちなんだろうな。
私はそんなことを思いながら、ネイトの戦う姿を見守った。
ノアに言われたように戦ったネイトは、無事に魔動物を倒してエクセブルに登録することが出来た。
「ノア、ありがとな! じゃぁ邪魔者は帰りますよ」
ネイトが笑いながらそう言って背を向けた。
「気をつけて帰れよ」
「またねー!」
私は歩き出したネイトに手を振って見送った。
ネイトが見えなくなるほど遠くに行くと、ノアが私を見た。
「で、どうしたんだ?」
「実はヴィンセントにね!」
私はウキウキしながら、ヴィンセントに教えてもらったことを説明した。
「なるほど。じゃぁ早速試してみるか?」
「うん!」
ヴィンセントから生成した黒い魔石を、私は腕輪にセットした。
魔石を生成した時と、ヴィンセントから話を聞いた時に思い浮かんだ呪文を唱える。
「〝summon tailheight〟」
「…………」
ーー何も起こらなかった。
「うーん。呪文が違うのかな? それとも、やっぱり呼び出すことは出来ないのかな? ……ノアも試してみてよ」
私はそう言って、黒い魔石を腕輪から外してノアに渡した。
「あぁ」
ノアは魔石を受け取ると、腕輪にセットして手をかざした。
そして呪文を唱えた。
ーーーーーー
「何でノアは召喚できるの!?」
私は目の前にいる白竜とノアを、交互に見ながら叫んだ。
「そりゃあ、俺の方がレベルが上だしな。フフッ」
「私も大賢者なのにー!!」
なんでなの?
めちゃくちゃ悔しい!!
私は恨みがましい目付きで召喚した竜を見た。
白竜のテールハイトは美しい竜だった。
穏やかな眼差しでじっと私たちを見つめていた。
ノアが近付くと、そっと顔を下げてくれた。
「乗せてくれるか?」
ノアがその頭を撫でながら聞く。
テールハイトは返事かのように目を瞬かせた。
「よっと」
ノアがテールハイトの背中に飛び乗った。
わー。
絵になる。
かっこいい。
強そう。
大賢者って感じ。
私は少しやさぐれながら、その光景を見ていた。
「ほら、ラズも来いよ」
ノアが私に手を伸ばしてくれた。
「……うん」
竜には乗ってみたい私は、むくれながらも素直に従った。
ノアの手をしっかり掴み、彼に引っ張り上げてもらいながらテールハイトの背中に乗った。
背中にはフカフカの白い毛が生えており、案外座り心地が良かった。
落ちないように、ノアが後ろで私を抱きかかえてくれている。
「しっかりつかまっとけよ!」
楽しそうなノアの声が、後ろから聞こえた。
私たちが準備が出来たことを察知したテールハイトが、ゆっくりと浮上した。
そして空の上までくると、宙を泳ぐように横に飛び始めた。
「わぁぁぁ! すごい! 気持ちいいね!!」
すぐそばを通り抜けていく風の音に負けないように、私は大声を出した。
「そうだな! これなら遠くでもすぐに行けそうだ!」
ノアも大きな声で返事をしてくれた。
「「あはは!」」
私たちは笑い合いながら空を駆けることを楽しんだ。
雪に覆われて白く輝くルミネージュ国は美しかった。
あんなにエクセブル集めで駆け回ったトルハの森が、隅々まで見えた。
どこでどんなエクセブルを集めたのか、一つ一つ思い出すことが出来た。
ノアとキャロルと、たくさんたくさん頑張った。
本当に大切な思い出だ。
私は今日のこの瞬間をずっと忘れないだろう。




