65:竜王の魔石
無事に大賢者になれた私たちは、卒業まで特にすることが無いのでゆったり過ごしていた。
寮のコタツで暖をとっている私とノアの横には、キャロルとヴィンセントもいた。
2人が部屋に遊びに来ていたからだ。
「このコタツはいいな。キャロルの部屋にも置けばいいのに」
5歳児ぐらいの小さくなったヴィンセントが、キャロルの膝の上で抱っこされながら、コタツに入っていた。
人間の成人姿は疲れるそうで、省エネもかねて体を小さくしているらしい。
キャロルはそんなヴィンセントを抱きしめながらニコニコしている。
小さくてもいいらしい。
「ヴィンセントがずいぶんコタツ気に入ってるね。作ろうか?」
私は笑いながらキャロルに聞いた。
「卒業までもう少ししか無いから、いらないかな。ここに遊びにくればいいし」
キャロルが少し寂しそうに笑った。
そして「ラズも手間でしょ? ありがとう」と言ってくれた。
「僕もここの方が落ち着くぞ。ラズのそばが落ち着く」
ヴィンセントが何となしに言った。
「私が親友と恋人を一気に無くすようなこと言わないでよ。ヴィンセントがそう言うのは、私たちが魔物同士だからでしょ」
私はジト目でヴィンセントを見た。
「……キャロルは聖属性だから、たまに寒気がする」
ヴィンセントがいつもの無表情で答えた。
「障害のある恋ほど盛り上がるんですよ!」
キャロルがニコニコしながら言った。
「そんなものなのか?」
「そうです!」
キャロルがうんうん頷いた。
ヴィンセントは人間の恋愛事情に疎いので、こんな感じでよくキャロルに聞いているのだけど、キャロルが正しいことを教えられているかは疑問だ。
……でもキャロルが幸せそうだから何も言わないよ。
ヴィンセント、頑張ってね。
私は心の中で彼にエールを送った。
そしてあることを思い出した。
「あ、そうだ。昨日街でチョコを買ってきたんだった」
私はいそいそとコタツを出て、チョコレートを取りにいった。
そして戻ってきた私は、コタツ机の上に個包装されている一口サイズのチョコが並んだケースを置いた。
「みんなで食べようと思って」
「わー! ここのチョコ美味しいよね! ありがとう」
キャロルが早速1つ手にとった。
「ノア用にビターもあるよ」
私はノアの隣にまた座った。
そして、甘いものが苦手な彼用に選んだチョコを、1つ手にとって見せた。
「……あー」
ノアが少し口を開けた。
寒いのか動くのが面倒なのか、そのまま彼は動かなかった。
私はチョコの包みをとって、ノアの口に入れた。
「うん、おいしい」
「良かった」
ノアに喜んでもらえたので私は笑みを浮かべた。
「ヴィンセント様! あれやりましょう!」
私たちを見ていたキャロルが興奮しながら提案していた。
「じゃあ食べさせて」
基本面倒くさがりのヴィンセントが、動かなくてよくなるから了承していた。
キャロルは嬉々としてチョコをヴィンセントにあげていた。
私は頃合いを見てヴィンセントに話しかけた。
「ヴィンセント、チョコ美味しい?」
「うん。気に入った」
彼はモグモグしながらも、コタツ机に顔をつけて目を閉じていた。
「お願いがあるんだけど……」
「……なんだ?」
「ヴィンセントから魔石を生成してみていい?」
私は両手を組み合わせて祈りのポーズをとりながら尋ねた。
ずっと気になっていたことがあった。
他の4匹の竜は倒すと、その竜の魔石をくれた。
だからヴィンセントからも魔石を作れるんじゃないかな?って。
「……痛くはないか?」
「多分……」
私の返答を聞いたヴィンセントが、露骨に嫌そうな表情をした。
「痛くないよ! 大賢者になったし、大丈夫!」
私は慌てて根拠のないことを言った。
結局、追加のチョコをたくさん献上してヴィンセントからの許可が降りた。
そのためヴィンセントの気分が変わらない内に早速魔石を生成しよう! ということになり、私たちは一度校庭に出た。
広い場所の方が、なんとなくいいからだ。
気分的にね。
「寒い。早く帰りたい」
大人姿になってもらったヴィンセントが、来たばかりなのにもう文句を言い出した。
「じゃぁ、早速するね」
私は急いで両手をヴィンセントにかざした。
「〝examine〟」
竜王様の魔石生成が始まった。
ーーーーーー
「やっぱり出来た!」
私の手の上には黒く輝く魔石が出来ていた。
「黒いのに炎属性! しかも竜属性も付加してる。すごい!」
大賢者の目になると、魔石から放たれる魔法の情報を読み取ることが出来た。
ひと通り魔石について確認が終わると、横で見守ってくれていたノアにその黒い魔石を差し出した。
「ノアにあげる」
「ラズのことだから、俺が炎属性だからって言うんだろ? 俺、専門の属性『炎』じゃないんだけどな」
ノアが苦笑しながら受け取った。
そして魔石を掴んでジッと眺める。
「けどありがとう。……もう試せないな」
「そうだね。大賢者の力で使うとすごいのが出そうだね……」
私たちが魔法が試せずに残念がっていると、キャロルが聞いてきた。
「そんな強い威力の魔法、いつ使う気なの?」
「……魔王が攻めてきた時とか?」
私は笑いながら答えた。
「魔王様が、今さら人間界を攻めることは無いぞ」
ヴィンセントが私の冗談に本気の返答をしてきた。
そして「そんなことより寒いから、もうコタツに戻ろう」と言ってキャロルの腕を引っ張りだした。
「まだ待って! あと数個作らせて!」
私は慌ててまた両手を掲げた。
「1個だけなんて勿体無い」
私はそう言って呪文を唱え出した。
呆れて様子を見ているキャロルに、同じく呆れた顔をしたノアが喋りかけた。
「ラズはいつも新しい魔石は複数作るんだ。予備らしい」
「あんな威力の高い魔石、たくさん必要なの?」
「……心配性なんじゃないか?」
ノアが肩をすくめた。
ーーーーーー
外ですっかり体が冷えてしまったので、私とキャロルが温泉に行こうと相談し合っていた時だった。
「僕も温泉に入りたい」
子供姿のヴィンセントがそう言い出した。
少し困り顔のキャロルがノアを見た。
「じゃぁランドール、連れていってくれない?」
「……入ったことはあるのか?」
断ってしまいたそうなノアが、眉をひそめて怪訝な目つきをした。
「部屋についてるシャワーしかないわよ。女風呂に連れて入るわけにもいかないし……」
キャロルが眉を下げる。
「ノア、連れていけ」
子供ヴィンセントが、胸を張ってノアに命令していた。
「…………はぁ。ちゃんと言うこと聞けよ」
ため息をつきながらも、ノアはしぶしぶ連れて行ってくれた。
ノアは案外、面倒見が良かった。
「パパと子供みたいだね」
私はポツリと呟いた。
「本当だね。あはは!」
キャロルも共感して笑い出した。
和やかな雰囲気の私とキャロルは、この時深く考えていなかった。
私たちがそう思うってことは、ジュカル学園のみんなもそう思うってことを……
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それから、私とキャロルはまったり温泉に入って寮にもどり、コタツに入ってお喋りをしていた。
ノアとヴィンセントはまだ時間がかかっているようだった。
……なんかあったのかな?
私は2人の遅さに少し心配になったけど、キャロルが勢いよく喋り出したので意識がそっちに行った。
「で、さっきの話の続きだけど、大賢者になった時に解除の魔法をかけてたのって、もしかしたら、かかってるかもしれない魅了魔法を解こうとしてたってこと?」
「そうなの。アーヴァインがあんなこと言うから、やっぱり気になっちゃうよね」
「まぁそんな『かもしれない』ってことを言われちゃうとね……でも魅了魔法が効かない理由が分かってよかったわね!」
「うん。……今思うと、元サキュバスのお母様は分かってたんだと思う。ノアに魅了魔法が効かないって分かってから、護衛魔導師になるの許可してくれたし」
そんなことを話していると、寮の玄関扉が開く音がした。
それに続いて声がする。
「戻ってきたぞ!」
「…………ただいま」
ノアとヴィンセントが帰ってきた。
子供姿ヴィンセントが、キャロルの膝の上に座りながらいそいそとコタツに入った。
なんだかんだで竜王様は、キャロルに懐いていそうだ。
「温泉はいいな。体がずっと暖かい」
ヴィンセントはそう言って、コタツ机に顔をくっつけて目を閉じた。
ポカポカしているのを楽しんでいるようだ。
ノアも私の隣のコタツに入ってきた。
「ちょっと遅かったね。何かあったの?」
私は隣に来たノアを見た。
「…………」
ノアがフイッと顔を逸らす。
??
照れてる?
するとヴィンセントがむくっと起き上がって喋り出した。
「温泉で会うやつ会うやつに、僕がラズとノアの子供かと聞かれてたぞ」
「「え?」」
私とキャロルが同時に驚いた。
そして2人で顔を見合わせあう。
…………
先にキャロルが口を開いた。
「たしかにヴィンセント様とラズって雰囲気似てるかも……」
「そうじゃなくって……ノアはちゃんと誤解を解いてくれたの!?」
顔を赤くした私はノアに詰め寄った。
「違うって言って、アイスラーの恋人だと言っといた」
ノアは照れながらも、ジト目でキャロルを見た。
「え? ……それもあらぬ誤解を招いてそうね……でも間違ってないし……」
キャロルがタジタジになっていた。
…………
「「「はぁ……」」」
私とノアとキャロルは、各自ダメージをうけてため息をついた。
「ヴィンセント様……次からは大人の姿で温泉に入ってくれます?」
キャロルが体を傾けて、前に座っているヴィンセントの顔を覗き込んだ。
「疲れるから嫌だ」
ヴィンセントはそう言って、またコタツ机に顔をつけて目を閉じた。




