58:16歳おめでとう
あれから、アーヴァインに言われたことは気になっていたけど、結局確かめることも出来ず、ノアには何も言わず過ごしていた。
魅了魔法にかかっていないよね? とかノアに聞いても、もしかかっていたら本人には分からないだろうし。
ノアはいつも魅了魔法が発動しても『効いてない』とは言っているし……
緩やかに、継続的に魅了魔法がかかってしまって、私への想いも形成されたなんて……しかも、そうじゃありませんでした。という無いものへの証明なんて、悪魔の証明みたいなものなんじゃ……
…………今すぐじゃないなら、方法はある。
大賢者様……ダライアス様なら私の魅了魔法を解除出来るのだ。
おそらく、私たちも大賢者になれば解除魔法を使えるようになるだろう。
もし、万が一、ノアが緩やかな魅了魔法にかかっている状態だとしても、解除してしまえば正気に戻るという仮説が出来る。
…………
私たちはもう少しで大賢者になる。
それまではこのままでいたい。
私は自分勝手な気持ちをかかえていた。
もし今、私からノア気持ちが離れてしまったら、ショックすぎて立ち直れない……
「……はぁ」
私は思わずため息をついた。
「? どうした?」
隣に座っているノアが、私の様子を気にしてくれる。
「…………契約魔法終わっちゃうなぁって思って」
私は咄嗟に嘘をついた。
まぁ、契約魔法が気になっているのもまったくの嘘じゃないんだけど……
私たちは、ジュカル学園の大きな時計台の近くの屋根に座っていた。
もう少しで夜中の12時になる。
その瞬間、ラズベリーは16歳になる。
ノアとした魂の契約魔法が切れる期限だ。
その時を2人で見届けるため、わざわざ雪が積もっている寒い中、時計台の近くで待っていた。
寒くて息も白く色付く。
そばには石炭の魔石と風の魔石で簡易的に作った、ヒーターのようなものを置いていた。
「契約魔法が終わっても、俺はラズの護衛魔導師だし婚約者だぞ」
ノアが優しく笑いながら繋いでいる手をギュッと握ってくれた。
「フフッ。そうだね。怪我がうつる心配しなくてよくなるのと、距離の制限が無くなるだけだもんね」
私も笑い返しながらノアを見つめた。
その時、時計台の針が動いて丁度12時を指した。
すると、私たちを包むように黒い光の粒子が辺りをぐるぐる回りながら取り囲み、次第に空へと舞い上がっていった。
そして夜空に溶け込むように消えていった。
「……無事に解除されたね」
私は空を見上げたまま呟いた。
「ラズ、16歳おめでとう」
寂しそうにしている私を励ますかのように、ノアが誕生日をお祝いしてくれた、
「ありがとう。なりたてで祝ってもらえるのって嬉しいね。寒い中待ったかいがあったかも」
私は嬉しくなってノアに笑顔を向けた。
「前にあげた指輪貸して」
「これ? うんいいよ」
私はいつも薬指にはめている青い魔石が入った指輪を外した。
するとノアがもう一つ小さな透明の魔石を取り出して、魔石合成の要領で、青い魔石に透明な魔石を取り込んだ。
指輪の魔石が、青と透明の綺麗なバイカラーに変化した。
「ノア、これは?」
「追跡魔法を付加した。これがあると、ラズがどこにいても探知出来る。インシスで倒れた時から対策を考えてたんだ……つけていいか?」
ノアが私の手をそっと持ち上げた。
「いいよ……ありがとう」
いつも私を守ろうと、いろいろ考えてくれるノアの気持ちが嬉しくて、私は感謝の気持ちを込めて微笑んだ。
このノアの優しい気持ちまでも、紛いものだと疑いたくない……
指輪をはめてもらった私は、横からギューっとノアに抱きついた。
ノアも私の肩に片方の手を回してギュッと抱きしめ返してくれた。
「ノアってこういう、何か物に付加する魔法得意だよね。どうやって作ってるの?」
「古い魔法の一種で、何日もかけて魔石に呪文をかけ続けるんだ。正直手間がかかるから、あまり沢山は作れない」
「そうなんだ。あ、見て見て! 星が綺麗に見える」
私たちは他愛無い話をしながら、しばらく澄んだ冬の夜空に浮かぶ、綺麗な星を見上げていた。
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今日は私とキャロルの2人でエクセブル集めをした。
そして終わった後に、一緒に寮の温泉に入っていた。
とても寒いルミネージュ国。
熱いぐらいの温泉が縮こまった体をほぐしてくれる。
「一仕事終えた後のお風呂はサイコーだわ」
私の隣で湯船に浸かっているキャロルが、おじさんみたいなことを言い出した。
「フフッ。そうだね。エクセブル集めも順調だね」
私は笑いながらキャロルを見た。
キャロルは洗い終えた長い髪を、2つのお団子にして湯船につかないようにしていた。
私も一つにまとめて高い位置にゆるくまとめている。
「早く竜王様に会いたいなー」
「ねー。出現時期が決まってるから、もうちょっとかかるね」
「そうなんだよね。でもラズとランドールが留学してきてくれて本当に良かった。私1人だけじゃ無理だったもん」
キャロルがそう言ってはにかんだ。
「エヘヘ。それは私たちもだよ。キャロルがいなきゃ大賢者になれそうになかったよ」
私もキャロルに笑いかけた。
本当に留学して良かった。
こんな素敵な親友に出会えたから。
ーーもう少しで、キャロルと離ればなれになってしまうのだけが心残りだ。
私はちょっとしんみりして下を向く。
「あ、ラズ、キスマーク見えてるよ」
和やかな雰囲気だったのに、突然冷めたトーンのキャロルの声が聞こえた。
「!!!!」
私は思わずアゴぐらいまで湯船に深く浸かった。
そして、キャロルの視線の先になる首筋の部分を手で隠した。
…………
「……私、気付いてたんだけど……」
キャロルが神妙な表情で、私に少し顔を近付ける。
「な、何?」
私は真っ赤な顔でキャロルの次の言葉を待った。
「コタツを借りに部屋にいった時に、おはよーってよくランドールの部屋から、ラズ出てくるよね」
「…………」
「鍋パして私が寝落ちした日も、後でよく考えるとラズはどこで寝てたの? ラズの部屋で寝てた私とは一緒に寝てなかったし、コタツで寝てたわけでも無さそうだったし……」
「………………」
「ハッ! もしかして魔法語の授業中とかにラズが眠いのって……」
「もう。何でも関連付けないでよ。えっち」
私はジト目でキャロルを見た。
「……エッチって……ラズに言われても……」
私は、髪をほどきながら湯船から上がった。
キスマークが見えないように、髪で隠したかったからだ。
「ルミネージュ国は寒いから……」
そして脱衣所に向かいながら、背中ごしにキャロルにモゴモゴと弁解した。
「寒いからって…………1人じゃ寝れませんって!?」
キャロルも湯船から上がって、私についてきながら叫んだ。




