56:ノアと一緒に護衛
今日はなんと、ノアと2人でライオネル王子が住むお城に来ていた。
けれどライオネル王子に呼ばれたのではなく、私たちの国であるリーネル国の第二王子、レナルド王子からの指示だった。
ルミネージュ国主催の夜会に、レナルド王子が外交も含めて出席するため、私たちが護衛魔導師として滞在中だけ任命されたのだった。
私もノアとお揃いの黒いローブに身を包んでいた。
下はパーティなのでドレスだが、王宮の護衛魔導師用のローブだ。
初めて着るので少しテンションがあがった。
私たち2人はお城の門の近くで、レナルド王子の到着を待っていた。
「ノアと服、お揃いだね」
私は隣に立つノアを見上げながら笑った。
「そうだな。でもドレスだけでも良かったのに」
「もし何かの勘違いで、ダンスにでも誘われたら、私上手に踊れないよ。今日は護衛ですっていう主張してるの」
私はずっと社交の場から遠ざかっているので、ダンスなんてパーティで踊ったことなかった。
昔にしぶしぶ受けた淑女教育で習ったなぁ程度だった。
そんな話をノアとしていると、リーネル国の王家の紋章が入った馬車が到着した。
中からレナルド王子がゆっくり降りてくる。
私たちは、レナルド王子にがこっちに来るまで礼をして待っていた。
「久しぶりだな。ノア。ラズベリー。昔のように気安く接してもらっていいぞ」
レナルド王子がそう言ってくれたので、ノアと私は顔を上げた。
アイスシルバーの髪に青い瞳。
2年ぶりに会うレナルド王子は、凛々しい男の子へと成長しており、乙女ゲームで見たスチルの彼の笑顔と重なって見えた。
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私たちは来賓用の応接間に通されて、レナルド王子とソファに座って喋っていた。
「今日はノアとラズベリーに護衛を頼んだが、オレのそばに居てくれるだけでいい」
レナルド王子が爽やかに笑いながら言った。
「どうゆうことだ?」
ノアが訝しんで聞く。
「実はルミネージュ国のライオネル王子から、ノア達が学園を卒業しても、ルミネージュ国にしばらく住まわせたいという要望が来ているんだ」
「え?」
私は目を見開いて思わずノアを見た。
ノアは私の視線を受け止めて、ゆっくり頷いた。
……最近、ノアがライオネル王子とよく出掛けると思っていたけど、何か打診を受けていたのかもしれない。
そんな私たちの様子を見ながら、レナルド王子が話を静かに続けた。
「それで2人は、リーネル国の『次期大賢者』だということを示すために、オレに仕えていて欲しい」
「……分かった。じゃぁレナルドが危なくなっても、護衛しなくていいんだな」
ノアが意地悪く笑いながら言った。
「!! いや、そこは職務を果たしてくれよ」
「俺はレナルドの前に、ラズの護衛魔導師だし」
「じゃぁラズベリーは、オレが危なくなったらちゃんと護衛をしてくれよ」
レナルド王子が笑いながら私を見た。
「フフッ。分かったよ」
私も笑いながら返した。
私たちは束の間だったが、2年前の3人で火の魔法を教え合っていた時みたいな、楽しくて和やかな時間を過ごしていた。
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ルミネージュ国の王様主催の夜会が始まった。
私たちはレナルド王子から少し離れた所で、彼の動向を見守っていた。
「護衛の仕事って暇だね」
私は目線をレナルド王子に向けたまま、ノアに向けて言った。
「……護衛対象が無茶しないと楽だな」
「あ、それ遠回しに私の護衛は楽じゃないって言ってる??」
「……まぁラズの護衛は楽しいよ」
ノアが少し呆れながら苦笑した。
そんな感じでノアと談笑していると、レナルド王子の所へライオネル王子がやってきていた。
2人は和やかに挨拶をしているが、事前にレナルド王子に聞いていたからか、彼らの間にバチバチ火花が見える気がする……
「大賢者にもなると、国が取り合いするんだね」
私は呑気に言った。
私とノアは早々と4匹の竜をエクセブルに登録してしまったので、大賢者になるのは確約だと思われていた。
「ラズはどうしたい? ルミネージュ国でいる方が性に合っていそうだけど」
ノアが私をチラリと見て言った。
「……もしかして、私のためにルミネージュ国に残るような話を、ライオネル王子としてくれてたの?」
私は驚いた表情をノアに向けた。
「……持ちかけてきたのは向こうだけどな」
ノアがそっぽをむく。
どうしよう。
めちゃくちゃ嬉しい。
護衛中なのにニヤけてしまいそうだ。
ノアが私のためを思って、将来の選択肢を広げてくれたことが嬉しかった。
「……ありがとう。迷うなぁ。けど大聖者になるためには、リーネル国に戻らなきゃいけないかな?」
「なんで?」
「ゲーム開始時のノアは、大聖者にもうなってたからね。もう少ししたら、セシリアの聖女の能力が目覚める年齢になるはずだから、ゲームが始まるそのころにはノアも大聖者になれてるんだよ。リーネル国で」
「……うーん、そうだな」
ノアはそう答えながらも何かを考え込んでいた。
そして私の顔を覗き込んで言った。
「でもルミネージュ国にいた方が、取られる心配なくなるぞ」
彼が私の瞳を指差した。
「……そうだね」
私は目を瞬かせながらノアを見た。
ーーそこまで考えてくれてたんだ。
私の心の中にジンワリと暖かい気持ちが広がっていった。
改めて思った。
私をどんな時でも守ろうとしてくれる、ノアが大好きだなって。
高揚した気持ちを抱えて、私はニコニコしながらノアを見た。
「あー、でも魔導師として高みを目指したい! 私もノアに乗っかって大聖者になるからね!! なる方法はまだ分からないけど!」
ノアの気持ちは嬉しかったけど、それ以上にノアには高位の魔術師として成長して欲しい気持ちがあった。
私のために、彼の人生まで曲げたくはない。
「ラズはあれだろ、更に上の……超神聖……」
「やめて。今そのダサい役職名を言われると、爆笑して変な人になる!!」
私は思わずニヤけそうになる口元を、両手で覆って隠した。
しばらくすると、ノアがレナルド王子とライオネル王子に呼ばれて行ってしまった。
あのバチバチ対決に入るのだろうか。
私はぼんやりとその様子を眺めていた。
そんな1人でいる私に話しかけてくる人がいた。
「こんばんは。可愛い魔導師さんですね」
気付くと、私のすぐそばにルミネージュ国の貴族の男性が立っていた。
「僕はシーグス・サンドラン。向こうで話さないか?」
私より5歳ぐらい年上のキラキラした……ギラギラした男性だった。
綺麗な顔立ちで、こうやってよく女の子に声かけてるんだろうなっていう雰囲気の人だった。
「……私は……」
「おいでよ」
私は自己紹介も兼ねて断ろうとしたけれど、その前に手首を握られて強引に連れていかれた。
どうしよう。
闇魔法の実験台とかにしていいのかな?
この男性がルミネージュ国の貴族としてどんな立ち位置の人か分からず、私は対応に困っていた。
「わたくしは、リーネル国のレナルド王子の護衛魔導師です。王子から離れることは、職務放棄で罰せられてしまいます」
私は努めて穏やかに言った。
そして、夜会場を抜けて廊下をズンズン進んでいたので、私は立ち止まった。
これ以上レナルド王子から離れると、本当に怒られそうだ。
「そんなこと言って、本当はレナルド王子の愛妾か何かだろう? こんなに美しくて魅惑的なんだから。僕にも味見させてくれない?」
シーグスが私に振り向きながら笑った。
すごいな、この人。
他国の王族の愛妾と思っていながら、手を出そうとしているんだ。
魅了魔法にでも、かかってしまっているのだろうか?
「俺の婚約者なんだけど」
いつの間にかノアが駆けつけてくれて、シーグスが私を掴んでいた手を振り払った。
そしてシーグスに向かって殺気を放つ。
ノアの剣幕にタジタジになったシーグスが、狼狽えながら弁解する。
「勘違いしないでくれ、彼女から誘われたんだ。悩ましげな視線を僕に投げかけていたんだっ」
私とノアは怪訝な表情をしながら顔を見合わせた。
「どうする? 私〝洗脳〟の闇魔法を試してみたかったんだけど……」
「俺も試してみたいやつあるぞ。こいつ1人ぐらい居なくなってもバレないよな」
私たちの物騒な話題に、シーグスが次第に青ざめていく。
「おーい、リーネル国の次期大賢者の2人! どこいったんだー」
レナルド王子がこれみよがしに、私たち2人が自国お抱えの魔導師だと周りにアピールしながら、遠くで探し回っていた。
……ライオネル王子との話合いで何かあったのかな?
「……次期大賢者!?」
その声を聞いたシーグスがますます青くなった。
「し、失礼致しました!」
そして一応の謝罪をしながら、そそくさと去っていった。
「ほら、俺の護衛対象者は次々に仕事を用意する……」
ノアが苦笑しながら私を見た。
「えー、今回は私、悪くないよぅ。……そんなにサキュバスっぽいかなぁ、見た目」
私はいじけながらノアを見た。
「愛妾って言われたり、私から誘っていると言われたり、酷いこと言われたい放題だよ。シーグスとなんか目があった覚えは無いんだけど……」
私はブツブツ不満を言った。
ノアはレナルド王子の元に戻るために、私の手を繋いで歩き出した。
「それだけ誰よりも魅力的だってことだろ。俺の可愛い婚約者は」
背中を向けたノアがそう言ってくれた。
後ろから赤くなった耳が見える。
「フフフッ。ありがとう!」
私は嬉しくなって、ノアに引っ張られながら幸せそうに笑っていた。
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その後は特にトラブルもなく、レナルド王子の護衛は無事に終了した。
私たちはリーネル国に帰っていくレナルド王子を見送った。
「レナルド王子、さようなら」
「またな」
「あぁ、ノアとラズベリーも、必ずリーネル国に帰ってくるように!」
王子は「必ずだぞ!」と念を押しながら、馬車に乗り込んだ。
……ライオネル王子の対話で負けでもしたのかな?
ーージュカル学園もそろそろ前期が終わる。
残り半年ほどで、私たちもリーネル国に帰らなくてはならない。
それまでに絶対、大賢者になってやる!
小さくなっていく馬車を見つめながら、私は決意を新たにした。




