51:status All boost!
一年生もそろそろ終わろうとしていた。
季節も1番寒い時期は過ぎ、雪が降る量も減ってきて、少しずつ春に向かっているのを感じることが出来た。
エクセブル集めも順調で、半分ぐらい集まりそうな勢いだった。
今日は実技の授業があり、私たちはグラウンドにあるコートに集められた。
もちろんジャージのような体操服を着用していた。
「今日もまたチーム戦を行う。前とはルールが全く違うから、よく聞くように」
レックス先生がみんなの前でそう言って説明しだした。
「コートの真ん中の台座にこのボールを置く。このボールを取り合う競技だ」
レックス先生がボールを掲げる。
野球ボールぐらいの球だ。
「5人づつのチームに分かれ、そのうちの1人が他の4人に指示を出せる指揮官だ。指揮官に出された指示は絶対だぞ。両陣営、まずはコートの端に並んでスタートする。真ん中のボールを取ったチームが勝ちだ。指揮官は魔法を使っていいが、ボールを取ってはいけない」
「これもゲームのイベント?」
私はキャロルにコソッと聞いた。
「ううん。違うと思う」
キャロルがふるふるっと顔を横に振った。
「今回使う魔石は自由だ。沈黙の魔法や、相手の精神異常を起こす魔法は禁止だ。まずチームと指揮官を発表するから、よく作戦を話し合うように」
そう言ってレックス先生の説明が終わった。
ーーーーーー
チーム分け等が発表されると、私は3番目の試合で指揮官役だった。
チームのメンバーは、キャロルとネイトと、クラスメートのノエルくんとエリーナさんだった。
対戦チームの指揮官はライオネル王子で、チームにノアが入っていた。
「ーー作戦たてよっか」
私は自分のチームの人たちと輪になって話し出した。
「キャロルとネイトはだいたい分かってるんだけど、ノエルくんとエリーナさんの得意なことは何?」
私はまずノエルくんを見た。
「僕は氷属性の魔法だよ」
その言葉に私は頷いてから、次にエリーナさんを見た。
「私は防御魔法かな……」
エリーナさんが緊張しているのか自信がなさそうに答えた。
「分かった。……じゃぁこうしよう」
私は思いついた作戦をみんなに話した。
「上手くいくかしら?」
エリーナさんが不安そうに言った。
「大丈夫。開始1番に私がみんなに能力向上魔法をかけるし、何かあってもチームでフォローしよう。だから私が失敗した時は、エリーナさんが防御してくれる?」
私はニコッと笑った。
「ラズの能力向上魔法はすごいよ! めっちゃ強くなれるから」
キャロルも横からそう言ってくれた。
けれどそのあとに、私に顔を向けて眉をひそめた。
「でもランドールはどうするの? あの炎の剣で一振りされたら、こっちは敵わないよ」
「フフフッ。ノアの弱点、それは私!」
私は胸を張って自分を指差した。
「え? 何? いきなりノロケ出したの?」
キャロルが困惑した表情に変わり突っ込んだ。
「違う違う! ほら、契約魔法で私の怪我がノアにうつるでしょ? だから私がノアに攻撃されても結局ノアにうつるから、そう簡単には攻撃されないハズ」
私は慌てて言った。
するとネイトが質問する。
「なんでそんな魔法かけてんの?」
「…………婚約者だから?」
私は冷や汗をかきながら首をかしげた。
細かく話している時間は無いから、濁したかったのだ。
「??」
ネイトも首をかしげていた。
「まぁ、それは置いといて、ノアは私がどうにかするあいだに、スピード力のあるネイトに最後はお願いするね。キャロルとノエルくんとエリーナさんも、それぞれマークする人を決めたから、最初の作戦が上手くいかなかったらよろしく!」
私はみんなに笑いかけた。
こうゆうチーム戦、好きなんだ!
ワクワクするよね。
私は両手を握りしめながら軽く掲げ、気合を入れた。
ーー私たちの試合の番が来た。
コートの両端にチームごとに並ぶ。
チームの真ん中には指揮官が立った。
私の向かいにはライオネル王子が立っていた。
「では3番目の試合、はじめ!」
レックス先生の掛け声が響き渡った。
「〝status All boost!!〟」
私はステータスを全部上げる魔法を唱えた。
今までは、ステータスの1項目ずつに魔法をかけていたのを、面倒だったので全体魔法と組み合わせて1回にまとめた魔石を作った。
エクセブル集めの時に閃いたのが、今回功を奏した。
「はやっ!」
スタートの合図と一緒に、前へと走り出したネイトが驚きながら言った。
一瞬で全ての能力が向上したのは初めてで、驚いたのだろう。
「〝blizzard〟」
ノエルくんが吹雪の魔法をライオネル王子たちに放った。
あちらのチームは視界が悪くなり一瞬動きが止まる。
そのあいだにキャロルとネイトが前方に移動する。
対戦チームから〝blake〟と〝shine〟の呪文が聞こえた。
「〝protect〟」
エリーナさんがすかさず防御の魔法をキャロルとネイトに展開してくれた。
光の攻撃魔法がはじかれる。
「みんないい感じ! そのまま魔法を続けて! このままボールを取りに行くよ!!」
私は前に出ながら自分に〝fly〟をかけて飛び立った。
先に前方についたキャロルが、大剣を降って風の魔法の呪文を唱える。
「〝gale!〟」
突風が巻き起こり、相手チームの前に進んできた人たちを吹き飛ばした。
ノアだけはキャロルの攻撃を炎の剣でいなし、ボールが載っている台座目指して進んできた。
それを見たキャロルが叫ぶ。
「やっぱりランドールは抜けてきた! ネイトよろしく!」
そこにはキャロルに託された通りネイトが到着しており、向かってくるノアを攻撃しようとスピアを構えるフリをした。
「ここは通さない!」
「…………」
ノアもグリップを握る力をこめ、剣を振りかざした。
「ーー作戦通りだね」
〝fly〟を発動させていた私は、ノアとネイトの間に降り立った。
それと同時にエリーナさんの〝protect〟が私にかかる。
けど、思ったとおりノアの剣は私に振り下ろされなかった。
私の頭上で炎の揺らぎが見えた。
「取った!!」
その隙にネイトが私の背後でボールを取って思わず叫んでいた。
「……指揮官が1番前に来るなよ」
ノアがジト目で私を見た。
「トップがみんなを守らなきゃ。士気は高まらないよ。……みたいな?」
私は笑いながら答えた。
ーーーーーー
「みんなありがとう!! 楽しかったねぇ」
「ライオネル王子のチームに勝てた!」
「「わぁっ!!」」
私がチームのみんなと喜びあっていると、ライオネル王子が近くに来て話しかけてきた。
「ラズベリーの采配、実に見事だったね。僕は指揮官が1番前に出てチームを守るなんて考え、出来なかった。いろいろ考えさせられたよ」
王子は試合に負けたのに、潔くにっこり笑いながらそう言った。
「リーネル国に、帰ってもらいたく無くなったんだけど」
ライオネル王子が続けてそう言った。
スカウトだ!
アーヴァインに続いてライオネル王子からもだ!!
私は目をキラキラさせてニンマリ笑った。
「王宮の魔導師としてですか?」
スカウトを受ける気はないけれど、私は嬉しすぎてライオネル王子に思わず聞いてしまった。
「…………どっちかって言うと、軍師かな?」
彼は言いにくそうに言葉を絞り出した。
「アハハハハ!」
近くにいたキャロルが大笑いしだした。
「ラズ、似合うかも!」
「……もうっ!」
絶対失礼なことを考えているキャロルに向かって、私はジト目を向けた。
そうして、和気あいあいとしながらも、実技の授業は珍しく無事に終了した。
ーーこの時、私は浮かれすぎて気付かなかった。
私とライオネル王子の様子を、ディアナが青ざめた表情で見つめていたことに……




