50:dominate
今日は珍しく、私は単独行動をしていた。
そして、ジュカル学園のエントランスにある、ヘルプリクエストの一覧を眺めていた。
ノアもキャロルも、たまにヘルプリクエストで駆り出されるのだけど、今日は2人とも行ってしまったので、私1人残されたのだ。
ノアは最近ネイトに懐かれたからか、クラスメートの男子からのヘルプリクエストが増えた。
女子からは前からも多かったので、今は男女半々ぐらいから依頼が来ているかな。
キャロルも半々ぐらい来ているかな。
アーヴァインもぐんぐん成長したので、今ではヘルプリクエストを受ける側だった。
彼は圧倒的に女子からの依頼が多い。
……紳士だもんね。
「私もヘルプリクエスト受けてみたいなぁ〜」
私はブツブツ言いながらも、その場を離れた。
そして、学園の図書室で本を借りてから、一旦自分の部屋に戻ってきた。
寒いのでコタツに入って暖をとる。
借りてきた本を机に置いて、しばらく表紙を眺めていた。
今日はせっかくなので、前々から覚えてみたかった魔法を習得してみようと思う。
……けど実は迷っていた。
「〝analyze〟」
私は分析魔法で自分のステータスを見た。
そして、自分が何の属性が得意かを示した場所を確認した。
『闇属性』
やっぱりいつ見ても変わらない。
サキュバスの血が流れているからだろうな。
私は得意な属性の魔法を少し特訓してみたかった。
けれど、闇魔法。
人として極めていいものか悩む。
……まぁ習得しても使わなかったらいいか。
一応、賢者になるための習得魔法で、初歩の闇魔法も少し覚えたんだけどね。
そんなことを考えながら、私は闇魔法の黒い魔石を腕輪にセットした。
「高度な闇魔法は……これとかかな?」
私は借りてきた本をペラペラめくった。
闇魔法について詳しく書いてある指南書だった。
なんとなく禍々しいオーラを放つその本の、後ろの方のページから、めぼしい魔法を1つ選んだ。
「……スゥー」
私は息を吸った。
「〝dominate〟」
呪文を唱えると魔石が光った。
けれど対象者がいないので、そのうち光が小さくなり消えた。
『dominate』は支配の魔法だ。
発動するのは確認できた。
…………
けど対象者がいないから、本当に上手くかかるか分からないなぁ。
トルハの森に行って魔動物相手にかけてみようか?
……1人で行ったら、ノアに心配かけて怒られそうだしなぁ。
…………
魔導師のサガなのか、私は習得できた魔法を使ってみたくてウズウズした。
取り敢えず、他の闇魔法もちゃんと発動するか確かめながら、私は着々と習得していった。
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「ただいま」
普段より早い時間にノアが部屋に帰ってきた。
トルハの森は雪深くなっているので、冬は日が暮れる前に帰ってこないと危ない。
そのため寮に着く時間も早くなっていた。
「おかえりー」
私はコタツに入って闇魔法とは違う本を読んでいた。
ノアがいつものように、コートをクローゼットにかけてから私の隣に入り込んでくる。
「……寒かった」
「お疲れ様」
私はコタツに入ってホッとしているノアを見上げた。
…………
「新しい魔法を覚えたのですが、ノアにかけて試してみてもいいでしょうか?」
私は〝魅惑のキス〟を試したいと言った時みたいに、敬語で聞いた。
あの時と違うのは、顔がニヤニヤしてることだった。
「……ろくな魔法じゃなさそうだな」
ノアも呆れながら、あの時と同じようなセリフを返してくれた。
「あはは! 私の得意な闇魔法です」
私は思わず笑ってしまった。
「…………いいよ」
不貞腐れながらも、ノアは私を見てそう言ってくれた。
「じゃぁ遠慮なく……〝dominate〟」
私は本を机に置いて、ノアに手をかざした。
腕輪にセットされている闇魔法の黒い魔石が光りだした。
その黒い光が細かい粒子になり、黒い霧のようになって、ノアの頭のまわりをゆっくりぐるりと回った。
そしてその霧がスっとノアの中へ入っていった。
「?? ちゃんとかかったのかな? 支配の魔法はかかった?」
私はノアに命令した。
「あぁ」
無表情なノアが頷いた。
「右手を挙げてください」
私がそう言うとノアが右手を挙げた。
「フフッ。右手をおろしてください」
ノアは無表情のまま右手をおろした。
「私のこと、どう思ってますか?」
私はちょっと悪ふざけをしだした。
「……誰よりも愛してる」
「!! ……私のどこが好きですか?」
「……全部好きだけど、1番はその綺麗な瞳」
「!!!!」
私は嬉し恥ずかしくて顔を真っ赤にした。
魅了魔法をかけてしまうピンクの瞳。
あんまり好きじゃなかったんだけど、ノアは綺麗だと思ってくれてたんだ。
「……〝erase〟」
私は支配の魔法を解除した。
ノアの顔もみるみる赤くなっていった。
「ラズ!!」
「ご、ごめんね……」
「〜〜〜〜っ!」
怒りをぶつけるかのように、ノアが私をギューっと強く抱きしめた。
「……俺のこと、どう思ってる?」
「!!」
これは、私が魔法をかけて聞いちゃったから、私も答えなきゃいけないやつだ!
ノアと違って私は素の状態だから、メチャクチャ恥ずかしい!
「……私も……誰よりも愛してる。世界で1番大好きだよ」
恥ずかしくて、ノアを抱きしめ返す力が自然と強くなる。
「俺のどこが好き?」
ノアが私の首元に顔をうずめて言った。
声が耳の近くで聞こえて少しくすぐったい。
「……全部好きだけど、1番は私を変わらずに守ってくれるこの腕の中かな」
言い切った私は、恥ずかしくてノアの腕の中で俯いた。
しばらくしてノアが顔をあげても、私はノアの胸におでこをくっつけたまま、ギューっとしがみついていた。
「ラズ、ラズ」
ノアの少し楽しそうな声が頭上から降ってくる。
「俺の好きなラズの瞳を見せて」
「…………」
そんなことを言われたら、顔をあげるしかないじゃない。
私はノアからそっと離れ、真っ赤な顔で眉を下げながら彼を見上げた。
愛おしげに私を見つめるノアが、ゆっくり顔を近付けて唇にキスを落とした。




